マンチェスター・ユナイテッドは10月8日、クラブ史上初となるデータサイエンスディレクターとしてドミニク・ジョーダン氏を任命したことを発表しています。
ユナイテッドはピッチ上では常にイングリッシュフットボールの最先端を行っていましたが、データ活用という分野において他クラブに大きく遅れをとっていました。
例えば、マンチェスター・シティは今年1月に計算宇宙物理学の博士号を持ちイギリス大蔵省で統計・モデル開発の責任者を務めたローリー・ショー氏をリードAIサイエンティストという役職で迎え入れ、他にもデータサイエンス部門の人材を大量雇用。
この部門のトップランナーとして知られるリバプールの場合はリサーチディレクターのイアン・グラハム氏を筆頭にイングランド、そして欧州随一のリソース・スタッフの揃うチームを抱えているとされており、同部門は現監督のユルゲン・クロップ招聘など選手・コーチのリクルートやスカウティングにも直接的な影響力を持っています。
この2クラブの近年の成功は広く知られていますが、ユナイテッドの場合はこれまでデータ分析に力を入れておらず、選手の移籍を見てもエド・ウッドワードやマット・ジャッジといった上層部とそれに近い人物の意向が最優先されたとみられるケースが大半を占めていました。
新スタッフの経歴
さて、新たにクラブに加わるジョーダン氏の経歴についてですが、先述した記事や本人のLinkedinを参照するとケンブリッジ大学出身で2011年から2020年まではアメリカのINRIX社に務め、チーフデータサイエンティストとして交通システムにおける人や車の監視するアルゴリズムを開発していたようです。
INRIX社のページには彼の書いた当時のブログ記事が残っています
その後、2020年1月からはマンチェスターを拠点とする衣料品・靴のネット販売を行うN Brown Groupでデータサイエンス・アナリティクス担当ディレクターとして30名のアナリスト、エンジニア、データサイエンティストを率いています。
今回の人事についてのフットボールディレクター ジョン・マータフ氏のコメントは以下の通り。
“We already make extensive use of data to analyse players’ performance and physical condition, and to scout opponents and recruitment targets,”
“But there is huge potential to strengthen our existing capabilities, and build new ones, as part of a more integrated approach to managing and using data."
「選手のパフォーマンスやフィジカルコンディションの分析、対戦相手やス採用対象へのスカウティングなど、私たちは既にデータを幅広く活用しています。
しかし、データを管理・利用するためのより統合された取り組みの一環として、既存の能力を強化し新たなものを構築する大きな可能性があります。」
“This is not about replacing the human elements of performance and decision-making,”
“Coaches will always draw on their knowledge and judgment, and players their experience and instincts. But these things can be complemented by smart use of data.
“Ultimately, it’s about ensuring that players, coaches and support staff are equipped with the best possible information with which to make the right decisions, quickly.”
「これは、パフォーマンスや意思決定における人間の要素にとって代わるものではありません。
コーチは知識と判断力、選手は経験と本能を駆使します。しかし、これらの要素はデータを賢く利用することで補完する事ができます。
最終的な目標は、選手・コーチ・サポートスタッフが正しい判断を迅速に下す為の最良の方法得られるようにすることです。」
また、ジョーダン氏はクラブのインタビューでマンチェスター・ユナイテッドへの愛と自分の仕事でクラブの変革に携われることへの喜びを語っており、オーレ就任後少しずつながらも着実に進んでいた体質改善に関して更なる進歩が期待できます。
あとがき
ミサイルの弾道解析技術に端を発し、スポーツ界にも広く普及したトラックマンや高性能カメラを使った映像解析技術は正に現在進行形で発展している技術であり、雑多な情報からノイズを取り除きピッチレベルに還元できるジョーダン氏のようなデータサイエンティストのリクルートには今後も大きく力を入れて、短期ではなく長期間の成功をもたらせるような体制を作って欲しい。