遂に、遂に正式発表されたニューカッスル・ユナイテッドの買収。
あのマイク・アシュリーがクラブを手放すという事実を未だに信じられていない気持ちもありますが、イングランド北部の古豪マクパイズの次代オーナーはサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が取締役会長を務める政府系ファンド『PIF』。
サルマン皇太子は2018年トルコの在サウジアラビア領事館を訪れたあと行方不明となり、同地で殺害されたとされているジャマル・カショギ記者の一件への関与をはじめ、様々な疑惑を向けられている人物でもあるので人権軽視の決定ではなかろうかという抗議もあり、100%の歓迎を受けている訳では決してありませんが、長年続いたアシュリーの悪政から解放されるニューカッスルファンは喜びを爆発させています。
🎶 We've got our club back! 🎶#NUFC fans outside St. James' Park celebrate after the Saudi-led takeover of the club was completed...🤝 pic.twitter.com/8KuOFmuQID
— Sky Sports News (@SkySportsNews) October 7, 2021
さて、Take overを巡る一連の報道とは全く関係がありませんが、今回はクラブが買収以前・以後で大きく変革を果たしていく気配のある中、少し時代を巻き戻してアシュリーがオーナーに就任した2000年代後半以降のチームをざっくり振り返ってみようと思います。
- 英雄との喧嘩別れ、そして降格へ
- 火中の栗を拾った期待薄のコーチは一時代を築く
- 降格してもクラブに残った名戦術家、やはり最後はオーナーへの不満爆発
- 現監督-前任者の地盤を引き継ぐも限界が見えている
- あとがき
英雄との喧嘩別れ、そして降格へ
07/08シーズン、"ビッグ・サム"ことサム・アラダイスが成績の低迷を理由に相互合意の元クラブを去り、後任に選ばれたのはかつてアンディ・コール、ピーター・ベアズリーの強力2トップで一時は2位以下に10Pts以上の差をつけてプレミアリーグを独走し、最終節で惜しくもマンチェスター・ユナイテッドの2位に終わった95/96シーズンを含み、指揮した5年間のうちプレミア4季で2位2回、3位1回という安定した成功をもたらしたケビン・キーガン。
キーガン2度目の体制は決して順風満帆ではなく、一時は降格圏から勝ち点4差まで追い詰められましたが、終盤戦になってオバフェミ・マルティンス-マーク・ヴィドゥカ-マイケル・オーウェンの変則3トップという活路を見出したチームは最後の8試合を4勝2分け2敗で終えて無事残留を勝ち取っています。
特にオーウェンは同期間で8試合6得点と大暴れ。この圧倒的攻撃力を翌季も見られると期待感は高まっていましたが、キーガンはオーナーを含むフロント陣から十分な補強のサポートが無かったとして2008年9月、新シーズンが始まって間もないタイミングで辞任を発表。
マーケット閉幕間際になってチームの欠かせない戦力であったジェームズ・ミルナーの放出が決まり、その後代役確保に失敗したフロント(実質的なスポーツディレクターを務めていたデニス・ワイズがその中心)は最終日に指揮官が興味を示していなかったシスコ、ナチョ・ゴンザレスを獲得するなど、現場との確執は広がるばかりでした。
後任のジョー・キニアーはキーガンの攻撃的フットボールからフラット4-4-2にシステムを変えて堅実さを求めましたが成績は不安定。
更に、翌年2月に大きな手術が必要になる程の体調不良でチームを離れ、その後はクラブのレジェンド アラン・シアラーがチームを受け継いだものの、コーチングキャリアが殆ど無かった名ストライカーに立て直しを求めるのは酷な話で、最終結果18位となったニューカッスルはプレミアリーグ後初の降格を経験します。
この頃から既にマイク・アシュリーがクラブ売却を考えているという報道が出始めていたので、まさかその後十数年に渡り彼のクラブ経営が続くとは思いませんでした。
火中の栗を拾った期待薄のコーチは一時代を築く
その後、クリス・ヒュートンのもとでチャンピオンシップを圧倒的強さで勝ち抜き、5試合を残した段階で自動昇格を決めたマクパイズ。
プレミアに帰還した10/11シーズンもヒュートン指揮下でアストン・ヴィラ、エバートン、アーセナルと強敵を相次いで撃破したチームは順調な歩みを進めているように見えましたが、2010年12月、突如としてその立役者が解任されます。
後任に選ばれたのはウエストハムでシーズン9位の実績があるとはいえトップリーグでの経験はそれほど多くなく、大半を下部ディヴィジョンで過ごしてきたアラン・パーデュー。
「経験豊富な指揮官が必要」としてヒュートンを解任した経緯もあって就任時のサポーターからの支持は著しく低いものでした。
このように前評判は悪かったウィンブルドン出身のマネージャーですが、アーセナルもびっくりのフランス化を推し進め、特に2011年夏のマーケットでは、前シーズンリバプールに引き抜かれた生え抜きFWアンディ・キャロルの遺した移籍金(£35M)で連れてきたヨハン・カバイェ、デンバ・バがクラブの躍進を支えるキーマンとなりました。
また、この11/12は前シーズンより加入しているハテム・ベナルファや2012冬のマーケットでSCフライブルクより引き抜いたパピス・シセも強烈なインパクトを残しており、特に後者は24節アストン・ヴィラ戦の初出場からリーグ戦14試合13ゴールという特筆すべき成果を残しています。
🔙 Cisse's Stamford Bridge stunner! 🚀
— Newcastle United FC (@NUFC) February 12, 2021
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上記のように新戦力の大きな活躍もあってこのシーズンは欧州カップ戦圏内の5位につける事に成功。
翌季以降は欧州コンペティションとの2足の草鞋、そして相次ぐ主力の引き抜き等もあって順位は二桁台が続きますが、2012年にはクラブと8年の長期契約を結ぶなど蜜月関係に思えたパーデューとニューカッスル。
それから僅か2年余りの2015年初め、終わりは唐突に訪れました。
発端は2014年12月29日、クリスタルパレスのニール・ウォーノック監督が成績不振で解任されて空席になったこのポストに関して交渉したいというパーデューの要望をニューカッスル理事会は認めます。
そして年明け1月3日には彼のイーグルス就任とニューカッスル側の後任にマイク・ガーバーが発表されるというスピード決着で事は進み2者は袂を分かっています。
1月3日時点では10位ニューカッスル、18位パレスという位置でしたが、シーズン終了時には10位パレス15位ニューカッスルと立場が逆転。
後者が18試合31Ptsと大躍進を遂げた一方、ガーバーの指揮したマクパイズは37節終了時で降格圏から2差の17位に低迷するなど正に首の皮一枚繋がった残留劇でした。
降格してもクラブに残った名戦術家、やはり最後はオーナーへの不満爆発
翌15/16はスティーブ・マクラーレンを招聘したニューカッスルですが、4節以降降格圏を彷徨い続けたクラブは監督交代に踏み切り、後任にはあのラファ・ベニテスが就任。
後にリバプールで主軸となるジョルジニオ・ワイナルドゥム、現エバートンのアンドロス・タウンゼント、そして今もクラブに残るジョンジョ・シェルビーなどタレントは有していましたが、前任者が崩壊させたチームを僅か2ヶ月で立て直すというのはベニテスをもってしても叶わず、結局2度目の降格が決定してしまいました。
彼クラスの指揮官ならばトップディヴィジョンのクラブからもオファーがあって何ら不思議ではありませんが、スペインの誇る戦術家は翌季もチームに残り最短でのプレミアリーグ復帰を達成。
プレミアでは常に得点力不足に悩まされながらも代名詞の4-2-3-1のみならず、1トップのサロモン・ロンドンを置いた5バックの本格運用を始めるなど資産の少ないチーム状況で抜群の手腕を見せたベニテスでしたが、やはりというべきなのか最後は満足なサポートの得られない体制に不満を露わにして就任時に結んだ3年契約の満了と共にチームを去っています。
現監督-前任者の地盤を引き継ぐも限界が見えている
ラファ・ベニテスの後任は90年代のマンチェスター・ユナイテッド不動のCBで、指揮官としてはハル・シティでFAカップ準優勝の経験があるスティーブ・ブルース。
スタイルはベニテスの築いた5バックを継続し、自身の色を出すというよりは既にあったものを活かす選択を取ったブルースですがいかんせん手札が少なく、ここまでの2季+21/22序盤を見ると攻撃はサン・マクシマンとミゲル・アルミロンの個に頼り切りというのが実情。
また、クラブ史上最高額の£40Mで獲得したジョエリントンは引き続き期待を裏切るパフォーマンスが続いており、本人のみならず彼を左のサイドアタッカーに起用する事もある指揮官の采配にも大きな疑問が。
昨季はFootball manager最強FWのカラム・ウィルソンとアーセナルからローンで加わったジョー・ウィロックの神がかった得点力で何とか残留しましたが、神風が止んだ今季は7試合8得点16失点,3分け4敗で勝ち点3の19位に甘んじており、今回のオーナー交代によって監督の座を追われるのではないかと各メディアに報じられています。
あとがき
14年間をひとまとめにしてしまったので細かい部分にはあまり言及できませんでしたが、外から見たニューカッスル・ユナイテッドは大体こんな感じ。
個人的に新体制に期待している事は
そもそも新オーナーに本当にプレミアリーグの名門クラブという船を任せるに値する資格・人格が備わっているかどうかは別として、やはりアシュリー政権で蔑ろにされてきた部分への注力が求められます。
オーナーの保有する資産だけを比較すればマンチェスター・シティのシェイク・マンスールすら遠く及ばない程の圧倒的財力を有していて、更に前体制の倹約のおかげか次のマーケットでは多額のお金をマーケットにFFP範囲内で投入可能。
(所謂ドリームチームを作る予定はないというのが現地紙の見方ですが、守備崩壊の懸念があるDF、特にCBの補強には思い切った行動に移すかもしれない。他には、ブルースたっての希望であったハムザ・チョードリーなども引き続きターゲットになっている可能性も。)
追記
早速、冬のマーケットに向けて比較的信用度の高いテレグレフ誌からバーンリーのDFリーダー ジェームズ・ターコウスキを最初のターゲットにしているという記事が。
ターコウスキは単純なディフェンス面だけならハリー・マグワイアにも引けを取らないイングランド人では最高峰のCBですが、クラレッツとの契約は2022年6月まで。
来年1月からは国外クラブとのFA交渉が可能になるので、契約延長が厳しいと判断すれば冬の移籍市場で売りに出される事は十分考えられます。
この推測を補強する事実として、クラブは今夏の移籍市場で昨季Sky Bet Championshipのストークで評価を高めた20歳のアイルランド人CB ネイサン・コリンズを£12Mとされる安くない移籍金を支払い獲得しており、ターコウスキ流失をある程度覚悟して次世代のレギュラー候補を確保しています。
また、バーンリーは現在18位とニューカッスルとは降格争いのライバルでもあり、その相手クラブの主力選手を引き抜ける絶好の機会。
先述のようにニューカッスルのCBはどちらかと言えばチームのウィークポイントで、現状のスカッドとターコウスキを比較すると大きなアップグレードになります。
FBrefによれば、今季の彼はファイナルサードへのパスが増加傾向にあり、守備の安定だけでなく副産物としてサン=マクシマンやカラム・ウィルソンへのロングフィードという新たな攻撃パターン確立にも期待が持てるかもしれません。
ブルースの退任が発表、後任最有力はフォンセカか
ニューカッスル・ユナイテッドは10月19日、スティーブ・ブルースがクラブと本人の相互の合意のもと、指揮官の座を降りる事を発表しました。
土曜日のクリスタルパレス戦では、ブルース体制で今年1月からアシスタントコーチを務め、EURO2020ではガレス・サウスゲート監督率いるスリーライオンズのコーチングスタッフにも加わっていたグレアム・ジョーンズが暫定指揮を執ります。
そして、次の監督候補として最も有力視されているのが昨季までローマを率い、今夏はスパーズのボスになる事が濃厚とされながら寸前でファビオ・パラティチGM以下フロント陣のNOが出て現在フリーのポルトガル人指揮官パウロ・フォンセカ。
フォンセカは攻撃的なチーム構築を好む指揮官で、元来アタッキングフットボールがクラブカラーであったマグパイズにとっても相性のいい監督かもしれない。
とはいえ、現在19位で失点数ワーストのチームなのでまずは守備組織再編が最優先。
冬のマーケットまでに降格圏を抜け出す、或いはそれに匹敵する内容の改善が伴わないと、いくら豊富な資金が手に入ったとはいえ希望に沿う選手補強は進まないと考えられます。他にはエディ・ハウ、ルシアン・ファブレ、フランク・ランパード、ロベルト・マルティネスの名前が取りざたされていますが、いずれも攻撃的なチームを作るコーチなのは興味深い傾向。