いろ覇のFM新参者~フットボールの虜

いろ覇のFM新参者~フットボールの虜

football managerというシミュレーションゲームであれこれやっていきます。気付いたらユナイテッドの事ばかり書いてます

【 #MUFC 】更なる補強があるかどうかは売却の進み次第?

EUROの決勝直前にジョシュア・ジルクゼー(ザークツィ,ジルクツィー)獲得が公式にアナウンスされ、レアル・マドリーへの加入が濃厚と思われていたフランス期待のワンダーキッド,レニー・ヨロも急転直下で取引を纏めきるなどサー・ジム・ラトクリフ新体制で迎える初の移籍市場で存在感を発揮する2024年夏のマンチェスター・ユナイテッド

 

移籍マーケットでの動きの根幹として

  • 20代前半までの選手を獲得・30代にさしかかる選手の売却
  • 肥大したサラリーの健全化

 以上の2点を徹底しているように見えるが、そんな中で獲得交渉がスムーズに進む要因に例年苦しんできた既存の選手プールの中で余剰戦力になった、あるいは纏まった金額を期待できる人員を早い段階で新たなクラブへ売却する事に成功している点が挙げられる。

 

 

例えば、過去の一件でクラブでの居場所がないメイソン・グリーンウッドを推定2700万ポンドでOMへ売却し、昨季終盤のCBクライシスで出番を得たもののシニア選手たちが復帰すれば中々トップチームでの出番を与えられないウィリー・カンブワラは買い戻し条項付きでビジャレアルとの取引をまとめ、先んじて5月にベンフィカの買い取りオプション行使により退団が決まっていたアルバロ・フェルナンデスを含めるとアカデミーOB3人で4000万ポンド前後の売却益を得た計算になった。

 

この金額は丁度ジルクゼー獲得に要した移籍金と同程度であり、夏の補強予算がそれほど多くないと事前情報では報道されていたユナイテッドが7月の内に大型移籍を2つ成立させられた大きな理由だと思われる。

 

また、契約満了で退団したラファエル・ヴァランアントニー・マルシャルは高額サラリーと低稼働率という点でクラブ財政を圧迫していた面もあり、Spotrac.comによれば前者は週給34万ポンド、後者は25万ポンドを受け取っていた為、彼らの放出によって年俸換算すると2人合わせて3000万ポンド強のコストカットに成功。

出典:spotrac.com

 

他にもカゼミロ、マーカス・ラッシュフォード、ジェイドン・サンチョ、ブルーノ・フェルナンデスと推定週給25万ポンド以上の選手については、ゴシップも含まれているが昨年加入したばかりのメイソン・マウントを除き全員に放出の噂が取り沙汰されており、間違いなく新体制は膨れ上がったサラリーの健全化を強く意識している。

 

ジルクゼー、ヨロに続く戦力補強が行われるか否かについては、上記のうち移籍金収入が見込める上に取引相手が見つかっているとされるカゼミロを説得できるか、そしてどれだけ金額を上乗せさせられるかどうかにかかっているのかもしれない。

 

一方、ラッシュフォードやマクトミネイのようなアカデミー育ちの選手については、プレミアリーグや欧州コンペティションとの兼ね合いを気にしなければならず、仮にオファーが来てもスカッド全体のバランスを考えながらどのポジションならば放出可能なのか慎重に判断する必要がある為そう簡単には進まないだろう。

 参考:UEFA主催大会のBリストの対象外かつアカデミー出身に定義される選手

  ヒートン

  エヴァンス

  ルーク・ショー

  マクトミネイ

  ラッシュフォード

 

 

 

【 #Euro2024 】Ra Rojaが4度目の優勝、負傷交代が思わぬ効果をもたらす

個のスキルは全ての根底にあるもので勿論重要ですが、拮抗した中でユニット単位での陣取り要素が勝敗を分けたような展開になった事も忘れてはいけない。

 

 

 

 

【Match Review】スペインvsイングランド

ベンチ入り

スペイン
1 Raya, 4 Nacho, 5 Vivian, 6 Merino, 9 Joselu, 11 Ferran Torres, 12 Grimaldo, 13 Remiro, 15 A.Baena, 18 Zubimendi, 21 Oyarzabal, 22 J.Navas, 25 F.López, 

イングランド
8 Alexander-Arnold, 12 Trippier, 13 Ramsdale, 14 Konsa, 15 Dunk, 16 Gallagher, 17 Toney, 18 A.Gordon, 19 Watkins, 20 Bowen, 21 Eze, 22 J.Gomez, 23 D.Henderson, 24 Palmer, 25 Wharton

 

前半

 

ルーク・ショーがLBに入ったイングランドはトーナメントで一定の成果を上げたサカWBの可変システムではなく、シンプルに4-2-3-1で戦っていく。一方のスペインもファビアン・ルイスの上下動でアンカー+2枚のCMかダブルピボット+トップ下かを使い分けるいつもの形は変えず、互いに守備陣形が噛み合いやすかったためにそれ程大胆に動きがあるような序盤ではなかった。

 

イングランドはダニ・オルモ、スペインはメイヌーとビルドアップの出口になりつつライン間でのレシーブ及びその後の配球やシュートで脅威になる中盤の選手を強く警戒し、彼らがこれまでほど自由に動けなかった事も締まった試合になった理由の1つ。相手CBに張り付いた所からMF-DFライン間に下がって縦パスを引き出すモラタ、イングランドの4-4-2守備に対して3人目のCB化して数的優位を作るロドリらの動きでビルドアップで苦労する事は無かったが、そこから先のイングランドのブロックを崩しきる決定打も同様に存在しなかった。

 

ラ・ロハの躍進を支えるヤマル、ニコの両ウイングはウォーカー,ショーと純粋な1on1で打開する事はそう容易ではないデュエル自慢のイングランドフルバックに対してこれまでとは違い単独ではサイドでの優位性を作れなかったが、対ウォーカーでは右サイドから早めにクロスを入れる事を強く意識してクロス対応の悪さを積極的に突き、対ショーでは選手なのか横のラインなのか縦のレーンなのか、何を基準にマークを定めているのかがハッキリしないスリーライオンズ左サイドの連携面の不安をカルバハルの的確なポジショニングで露呈させてユニット単位での優位は確保した。

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一方のイングランドはスペインの中盤逆三角形をミドルサード以降では4-2-3-1の2-1でマンツーマン気味にマークする守り方が有効であり、スローイン,カウンター,セットプレーといった身体能力をフルに活かせる局面からスペイン陣内でのチャンスを作り、左大外を順足のショーが取る事でプレスのハマり所になりづらくなった事やサカvsククレジャ対面で打開してゴール前にボールを運んでいく。ル・ノルマンが攻守に瞬間的な状況判断を求められると粗を出す為、彼の周囲でプレーが出来れば得点機会が生まれる。

 

後から振り返ったとき、試合の行方を左右していた事が分かったプレーは45分、後ろ向きでボールを持つカルバハルからベリンガムがボールを奪い始まったイングランドのカウンター。中央でパスを受けたケインのシュートはロドリにブロックされるが、このプレーが影響したのかスペイン中盤のキーマンは前半いっぱいでピッチから離れる事となる。ポゼッション時の貢献のみならず守備でも危険なスペースを消し、時に球際で決定機を防ぐ等絶対的な存在だった彼を欠く事でラ・ロハは苦しい展開になるとばかり思っていたのだが……

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後半

 

スペインはロドリに代わりスビメンディを投入。ポゼッション時の形がアンカー+2枚のNo.8からダブルピボット+OMに代わった事で得られた思わぬプラスについては後述する。

 

47分、ベリンガムの斜め後ろかつショーがスライドするには高いという絶妙な位置取りをするカルバハルにファビアン・ルイスから縦パスが入ると、百戦錬磨のベテランRBはヤマルのマークが甘くなっている事を見抜いて右足アウトサイドでダイレクトパス。チャンスボールを受けた若きRWはそのままゴール前に向かって斜めにドリブルし、ダニ・オルモのオフボールに合わせてウォーカーが絞った瞬間を見計らって大外のニコへラストパスを送ると、最後はピックフォードの動きをじっくりと見ながらファー側のサイドネットへボールスピードの速いグラウンダーショットを蹴り込んでラ・ロハ先制!!

 

 

右でチャンスクリエイト→左で決めるという形は前半から狙っていたが、中盤構成を後ろ重心にした事でイングランドの前線守備にメイヌーが参加するようになり、上下動を繰り返すスタミナの無い彼がターンオーバーの際に間に合わず中央の守備強度が低下するという構造が生まれやすくなった為、上記の先制点直後にもオルモの決定機を作る等ロドリ離脱がスペインにとっては思わぬ展開利となった。

 

なお、ライン間でボールを引き出して展開する事も少なく、そもそもゴール前までボールを持っていけない状況が続いた後半はより一層存在感が希薄になっていたケインを60分で下げてワトキンスを投入した判断を個人的には支持しているが、これは代表チームの王がケイン→ベリンガムへ変わった事を示唆する決断でもあり、1つの時代が終わった瞬間かもしれない。

 ワトキンスは背後を狙う動きを好むのでDFライン前にスペースが生まれ、ベリンガムの推進力が活きるようになった。

 

同点に追いつく必要のあるイングランドは重心を前に持っていきたいところだが、ショーが持ち場を離れて上がった際のグエイのコミュニケーションが悪くヤマルのマークが空くシーンが散見され、メイヌーは上下動が増えて既に疲労困憊。サウスゲートはメイヌーに代えてコール・パルマー投入を決断し、中盤のフィルター役はライス1人に任せて得点能力・創造性の高い若手カルテットの同時起用に踏みきる。

 

すると73分、スペインのカウンターを凌いだイングランドゴールキーパースローイングから一気にスピードを上げて相手陣内に侵入し、サカがタメを作るとボックス内でパスを受けてベリンガムが潰れ役となり、最後は後ろからタイミングよく合わせたパルマーのミドルショットで同点!!

 

3-1-1-5でベリンガムが遊撃になるイングランドのハイリスクな攻撃に対し、誰が中盤からバックスに降りて人数差を埋めるかという部分を整備する前の僅かな隙を突かれた事がスペイン視点から見た失点の要因であり、ロドリ負傷後の中盤構成変化も含め陣取りゲーム的要素が試合展開に大きな影響を与えている事が分かる。

 

ライスの守備負担は更に高まった点については、グエイがオルモに迎撃することで対応したイングランド。一時的にはこれがプラスに作用していたのだが、前後の動きが増えた事で彼の消耗が加速した事をケアし切れなかったのは後から振り返ると後悔したくなる要素。

 

アタッカー陣が元気な一方で疲弊するバックスはトランジションが遅くなっており、折角ボールを奪ってもその後のパスコースが無くスペインのカウンタープレスで直ぐに奪い返されるシーンが増えていく。82分のスペインの決定機はピックフォードの素晴らしい反応で何とか危機を凌いだものの、序盤から怪しい対応が多かったル・ノルマンを終盤で交代したデ・ラフエンテの采配を加味すると、この異変を感じ取れたか感じ取れなかったかが勝敗の分かれ道である。

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86分、ワトキンスのDFライン裏へのオフボールに対しグエイがロングボールを蹴るが、味方がセカンドボールを回収出来る状態ではなかった上にキック精度が伴わずスペインボールのスローインに。リスタート後間延びした1stプレス隊の背後でオルモがノンプレッシャーでパスを貰い、オヤルサバルへの意表を突いたアウトサイドパスから彼がダイレクトで外へ叩くと、丁度左外に走り込んでいたククレジャはダイレクトでゴール前へグラウンダーのパスを送り、オヤルサバルはグエイの前を取ってボールを押し込み値千金の勝ち越しゴールを奪った。

 

グエイのエラーが連発したので彼に批判が集まりがちな失点ではあるが、先述の通りエラーが生じやすい状況が作られていた事と、その前から簡単に相手FWに前に入られる場面が何度かあったことを見逃したという点で指揮官にも至らない部分があったと思う。 ただ、グエイの守備はこの試合以外だけでなく全般的に自分の身体能力の高さに自信があるのか動き出しの準備や初期対応が甘い事が多く、確かに大半はその後のリカバリーの速さで危機を凌いでいるが、より完成された選手になる為には改善しなければならない要素だ。

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何度もビハインドから試合をひっくり返してきた成功体験もあってまだ目の死んでいないイングランドアディショナルタイム直前にはCKからライス、グエイに連続して決定機が訪れたものの、それぞれウナイ・シモン、オルモの素晴らしいブロックに阻まれて得点に結びつけられなかった。

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スコアは2-1から変動せず、ラ・ロハがアンリ・ドロネートロフィーを掲げて4度目の欧州王者に輝く。大会MVPにはロドリ、最優秀若手選手はヤマルが受賞し世代バランスの良さも含めてこれが完成系ではなくまだ発展途上というこのチームは2年後のワールドカップでも有力な候補である。

 

一点、カルバハルという「気が利く」の極致にいる選手が大ベテランの域に入っているRBを除けば。

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【 #Euro2024 】Wat a Goal!! 途中出場のWatkinsが大仕事

ワトキンスを使って欲しいとずっと言ってきたので彼が結果を残してくれた事が本当に嬉しい。素晴らしい一撃でした。

 

 

 



【Match Review】オランダvsイングランド

ベンチ入り

オランダ
2 Geertruida, 3 De Ligt, 8 Wijnaldum, 9 Weghorst, 12 J.Frimpong, 13 Bijlow, 15 Van de Ven, 16 Veerman, 17 Blind, 19 Brobbey, 20 Maatsen, 21 Zirkzee, 23 Flekken, 25 Bergwijn, 26 Gravenberch

イングランド
3 Shaw, 8 Alexander-Arnold, 13 Ramsdale, 14 Konsa, 15 Dunk, 16 Gallagher, 17 Toney, 18 A.Gordon, 19 Watkins, 20 Bowen, 21 Eze, 22 J.Gomez, 23 D.Henderson, 24 Palmer, 25 Wharton

 

前半

 

 

イングランドは出場停止明けのグエイをコンサの所に替えた以外は前回と同じラインナップで3バック継続、オランダはユニットでの機能性よりも個の破壊力を重視してRWにマレンを選んで両チーム1か所ずつ変更を加えたスタメンでゲーム開始。

 

ゲーム開始当初のオランダは4-2-4ハイプレスでイングランドのボールの出所を全て抑えきる積極策に出たように見えたが、直ぐに4-2-3-1のミドルブロックへ切り替えた。これによって3-2-5の2から1-1の縦関係になるライス-メイヌーを誰が捕捉するのかが曖昧になってしまい、イングランドに主導権を明け渡す事になるのだがそれはまた後で。

 

ポゼッション時にはバックス+スハウテンのビルドアップ部隊と受け手役になる前の選手たちで意図的に空間をあけ、イングランドの守備隊形を前後分断する事を狙ったオランダ。スハウテンのターン及びその後の縦パスの出口を見つける・正確に繋げる力が大会序盤とは別人レベルで改善された為、マレン、シモンズ、ガクポらのアジリティを活かした疑似カウンターで相手ボックス内を陥れる事が出来た。

 

また、彼らの裏抜けのスペースを生み出すのはメンフィスの降りる動きであり、7分にはラインデルスがそのメンフィスと入れ替わる形で抜け出してダンフリースからロブパスを引き出し、グエイにパスを処理されたがボールの所有権が安定しない内に素早くカウンタープレスをかけてライスからシモンズが奪取してショートカウンタ―発動。

 

ぽっかり空いたDFライン前を運ぶシモンズはウォーカーのコースブロックが間に合わない内に1テンポ早くシュートに踏み切り、レールガンから発射されたような強烈な弾丸がゴール左上に突き刺さった。

 

個人的にライスのエラーというよりはカオスを意図的に狙ったオランダの戦略勝ちのような得点だと思っているが、オランダ視点で見ていくとこの先制弾で悪い意味でゆとりが出来てしまい、追加点を積極的に狙って相手の心を折りに行くという能動ではなくあくまで出方を伺う受動的なメンタリティが伝播した事が痛かった。

 

ストーンズ、グエイが楽にボールを持てる上に展開を作り出すメイヌーのマークも不明瞭な為イングランドのポゼッションが続くと、14分にはグエイ→ベリンガムの縦パスを起点に斜め前の選手にボールを渡していって最後はサカのシュートのこぼれ球にケインがボレーで合わせる。

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この際、ショットブロックに入ったダンフリースがケインの右足に足裏を見せて交錯したプレーがVARの意見によりPKの対象ではないかと審議され、主審フェリックス・ツヴァイヤーはオンフィールドレビューの後ペナルティスポットを指さした。ダンフリースの対応が迂闊だった事は大前提として、このプレーでPKが与えられるのはどうかとも思うが、もしかするとロナルド・クーマンイングランドで忌み嫌われる原因となったアメリカW杯予選での疑惑の判定のお返しだったのかもしれない。

 

上記の件については「AN IMPOSSIBLE JOB」というタイトルでドキュメンタリ―になっている為、興味が湧いた方は下の動画を見るとその詳細が分かる。

 

 

ペナルティキックの名手ハリー・ケインはコースを読まれようがお構いなしで左下への強烈なシュートを放ち、フェルブルッヘンも正しい方向に飛んだがボールに触れる事は叶わずイングランドが同点に追いついた。

 

同点後も主導権を握るイングランド。23分にはリターンを思わせる身体の向きでメンフィスを騙して一瞬のリードを作り、サイドからのパスから方向転換してゴール前にキャリーしていったメイヌーの卓越したボールプレーで得点機会を作り、最後はフォーデンがGKのタイミングを外してシュートを流し込んだがPKを与えたダンフリースがライン上で素晴らしいクリア。

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自由に動き回る割に肝心なところでボールを引き出すオフ・ザ・ボールが少なかったこれまでのフォーデンだが、この日はメイヌーと呼応して瞬間的なコンビネーションでチャンスを作るだけでなく、囮になる裏抜けも数を増やしてようやく本領発揮。縦だけでなく横方向にドリブルして相手の守備隊形に綻びを作れるサカを含め、ようやく圧倒的なボールスキルを持つ3人が繋がった瞬間でもある。

 

また、メイヌーは高い位置でのボールロスト後のカウンタープレスやパスコースを読んだインターセプトなど課題であった守備面の成長も著しく、純粋な身体能力勝負にさせる手前でボールを奪い切るという自らに適した対応をすっかりモノにしてまた1つコンプリートMFへの階段を上った。

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オランダはロングボールからのカオスやイングランドのボールロストからのカウンター、更にその攻撃で得たセットプレーから定期的に得点機会を作り、30分にはダンフリースのヘディングがクロスバーに直撃するシーンもあったが、チャンスの数を増やすような組織的な守備が出来ていたかと言えば否であり、中盤のマーク管理を改善しない事には今後もその状況が変わらないように思えた。

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変化のキッカケは皮肉にもエースのメンフィス・デパイの負傷で選手交代を強いられた事であり、代わりにフェールマンを入れて中盤3枚は守備時にフラットで並ぶようになってマーク管理もよりシンプルに。

 

 

後半

 

両チームHTで1人ずつ入れ替えを行い、イングランドはトリッピアー🔁ルーク・ショーで左サイドのテコ入れ。一方のオランダはカウンターでの馬力要員で守備貢献やポストプレーなどCFに求めたい要素は不得手にしているマレンを下げてジョーカーのヴェフホルストをピッチに送り込んだ。

 

 

ヴェフホルストは守備の献身性が高く、尚且つコースを限定してメイヌー,ライスへのパスコースを切りつつタッチラインへ誘導していくのが上手い為、内側に絞って1stプレス隊になるシモンズと2人でイングランドの中央からのビルドアップを制限させる事に成功し、中盤はラインデルス-フェールマン-スハウテンがフラットに並ぶ事でスペースを減らしつつマーク管理の簡素化にもなったのでイングランドは苦し紛れにサイドにボールを集めざる得ない場面が多くなる。

 

また、押し込まれた状態ではなくミドルサードでボールを奪える回数が増えた事で、ラインデルスやガクポといった自分で長い距離を持ち運べるカウンターが得意な選手が存在感を増し、前半から継続して優位性を保っているセットプレーを含めてオランダの時間が続いたが、グエイ,ストーンズが守備対応で的確な選択肢を選び続けた事もあって最後の一押しが足らないまま時間を費やしていく。

 

すると、劣勢のスリーライオンズは80分少し手前で久々に相手陣内高い位置で作ったポゼッションからチャンスを作る。フォーデンのライン間でのドリブルで守備陣形を崩し、大外で待つウォーカーを経由して最後はサカがネットを揺らし追加点……かに思われたがオフサイドによって無効に。

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この直後、イングランドは珍しく的確な選手交代を行った。まずはフォーデンに代えてパルマーを投入し、中盤に降りての組み立てが少なく元々裏抜けを積極的に行うタイプではないので試合から消えていたケインに代えてオフボールの量が多いワトキンスを送り込む。

 

90分、右サイドでライスからメイヌーへの縦パスは僅かにズレたが、咄嗟につま先を当ててコースを変えた先に構えていたパルマーがボールを収めてチャンス継続。そして、チェルシーを1人で牽引したプレイメイカーのスルーボールに対しデ・フライの背後から一気に加速して前に入りそのまま斜めに走り込んだワトキンスは身体を当てて空間を広げ、ゴールを視認出来ていない状況から思い切って右脚を振り抜くと、ボールはゴールマウス左下隅に吸い込まれていきイングランド勝ち越し!!

 

角度的にはデ・フライが冷静にコース制限に専念してニア側にシュートを誘導するような対応をしていれば得点になっていなかったかもしれないが、大胆にゴールを狙ったストライカーとしてのエゴイズムと優れた空間認識能力がもたらした見事な得点である事に変わりはないので素直にワトキンスを褒めたい。

 

アディショナルタイム直前に生まれた得点を守り切ったイングランドは前回大会に続く決勝進出を決め、ガレス・サウスゲート体制の集大成をアンリ・ドロネートロフィーで飾るまで残すところあと1勝。

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【 #Euro2024 】恐るべき成長速度でクラックへの階段を上るYamal

この年であの完成度、一体どこまで昇り詰めるのだろうか。

 

 

 

 

 

【Match Review】スペインvsフランス

ベンチ入り

スペイン
1 Raya, 5 Vivian, 6 Merino, 9 Joselu, 11 Ferran Torres, 12 Grimaldo, 13 Remiro, 15 A.Baena, 18 Zubimendi, 21 Oyarzabal, 25 F.López, 26 Ayoze Pérez

フランス
1 B.Samba, 2 Pavard, 3 F.Mendy, 6 Camavinga, 7 Griezmann, 9 Giroud, 15 M.Thuram, 18 Zaïre-Emery, 19 Y.Fofana, 20 Coman, 21 Clauss, 23 Aréola, 24 Konaté, 25 Barcola

 

前半

 

スペイン、フランス共に4-1-2-3なので基本的にはミラー配置になるが、てレ・ブルーは当初守備時にも中盤構成を1-2のままにしていたため、ロドリを誰がマークするのか曖昧になり、尚且つエンバペに守備免除を許している分何処かで数的不利が起きるので中々自分たちの思うような展開にならない。

 

ただ、先制したのもそんな彼らで、コロムアニのポストプレーで得たFKから相手陣内でのポゼッションに移行すると、デンベレが警戒の緩むエンバペにボールスピードの速い横断パスを出してエースのテイクオンのお膳立て。エンバペのクロスに合わせてプルアウェイの動きで自身のマークに付くラポルトのマークを剥がしたコロ・ムアニはフリーで豪快にヘディングシュート。

 

エンバペに対するヘスス・ナバスの対応はスピードに乗らせずシュートコースを塞ぎながら一定の距離感で構えるというセオリー通りの悪くない守備だったものの、フェイスガードから解放された背番号10のボールプレーの圧倒的な質の前にはどうしようもなかった。

 

先制されたスペインについては両ウイングの優位性とMF-DFライン間でボールの中継地点になれるダニ・オルモ、ファビアン・ルイスの貢献でバイタルエリアに侵入する事に苦労せず、なおかつフランスがナチョ-ラポルトのCBペアにそれほど強くプレッシャーをかけてこないので依然として主導権を握っている状況。

 

フランスはデンベレが相手を複数引き付けて素早く横方向へボールを散らし、相手のスライドが間に合う前にエンバペにボールを届ける事を徹底しており、中継地点として重要な役割担うテオ・エルナンデスは今大会試合を重ねるごとにアンダーラップやハーフスペースでパスコースを作るMF的なオフボールが良くなっているので選手として1つ幅が広がったように思う。

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21分のスペインはラビオ-チュアメニ間でナチョからの縦パスを受けたオルモが反転して前へ進み、モラタに一旦預けようとしたボールはサリバが足裏で軌道を変えて弾き出すがこぼれ球をヤマルが拾う。モラタが内→外に広がる動きで一瞬DFの集中を解くと、細かいボディフェイクで目の前のラビオを交わした16歳のワンダーキッドはファーポスト直撃の完璧なカーブショットで芸術的な同点弾をマーク。

 

過大なプレッシャーと怪我の影響で早期引退を強いられたかつてのスイスの神童、ヨハン・フォンランテンが保持していた記録を大幅に更新する16歳362日での得点で更新不可能にも思える最年少ゴールを奪ったヤマル。既にクロアチア戦のピンポイントクロスでアシストを記録しており、強豪国の文句なしの主力として叩き出したこの記録の価値は非常に大きい。

 プレーの質だけ見れば既に世界トップクラスと言える彼だが、肉体的にはまだ未完成である為、FCバルセロナにはペドリ,ガビといった先例を反面教師とする形でどうか出場時間を管理しながら大切に満開の時までエスコートしてもらいたい

 

勢いづくラ・ロハはエンバペの背後でヤマルがボールを受け、彼の守備意識の低さを利用する形で横方向にボールを運ぶと、またしても相手の中盤の脇でオルモが縦パスを引き出してバイタルエリアへ侵入。右幅を取るヘスス・ナバスにボールを預けた背番号10はベテランRBの放ったクロスのこぼれ球を処理し、2タッチ目で意表をつくアウトサイドを挟んでチュアメニを交わしてシュート体制を確保すると、右足を振り抜いて勝ち越しゴールとなった。

 

なお、このゴールは一度ブロックに入ったクンデのオウンゴールと記録されたが後にオルモの得点に修正されている。

 

外とハーフスペースで脅威になれる選手がいるスペインに対し、大外にいるアタッカーの質で上回っていてもそこに繋げるまでに時間がかかりがちで中々デンベレ,エンバペのテイクオンの試行回数を稼げないフランスは同点への足掛かりを掴めずに前半終了。

 

後半

 

全体のプレスラインを前半より高めにしたフランスに対し、スペインはニコのスピードを活かすロングボールを増やして牽制。DFライン後方の広大なスペースを優れたディストリビューションでカバーするメニャンのスイーパーとしての能力が光る後半序盤となる。

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フランスのウインガーがCBにプレスをかけるようになる→スペインは相手ウイング後方を有効利用する為にフルバックを上げる→フランスのフルバックも高い位置でのプレスに参加するという順序でミドルサードの人数が増えてこの局面での球際の強度が上がると、フィジカルに勝るレ・ブルーがボール奪取からのショートカウンターでチャンスを生み出すように。

 

一方のラ・ロハもラポルトのボールキャリーが活きやすい状況となり、彼起点から左サイドでボールを前進するシーンが増加し全体的に縦のスピードが上がっていく。両ウイングは献身性も高く時に大外でフルバックのように振る舞う事も厭わない為、これにより局所的な人数差が生まれづらかった点は守備強度の維持に繋がった。

 

 ヘスス・ナバスに替えてヴィヴィアンをスペインが投入して最初に動くと、追いかけるフランスは一気に3枚のカードを使い中盤と前線の構成を変える。グリーズマンがトップ下の4-2-3-1になった事で相手の中盤3枚に対するマークは整理されたが、カンテが消えて縦の機動力と機転が利かなくなった事はマイナス。

 

もう1つ、エンバペが中央になった変化も1stプレスでコースの限定が効きにくくなった点と彼にポストプレーを期待出来ないという点であまりいい方に転ばなかった。後ろ向きでのプレーが増えれば魅力が減るのは自明なので、投入するアタッカーはシンプルにマルクステュラムかジルーで良かったのではと思う。

 

トランジションゲームにして身体能力の優位性を押し出したいフランスに対しスペインは得意のポゼッション・コントロールでテンポを落として時間を使っていくが、いざカウンター対応になると交代で入ったヴィヴィアンはスピードのある選手に対して両かかとをついて対応するなど姿勢の作り方に脆さが見られる。

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70分台後半に1試合1度はあるウナイ・シモンのミスキックを失点に絡ませる事無く消化したスペイン。ククレジャに対して終始優勢だったデンベレを何故かフランスが交代させてくれた事で助かった部分もあるが、それを差し引いたとしても激闘のドイツ戦を経てチームとしての完成度が高まった事を思わせる安定した試合っぷりで危なげなくタイムアップの笛をリードしたまま迎えた。

 

 

 

 

【 #Euro2024 】勝ちはしたが隙の多い両チーム

終盤のオランダは完全にトルコの圧に呑まれていた。

イングランドも依然として攻撃陣のかみ合わなさが目立つ。

 

 

 

【Match Review】イングランドvsスイス

ベンチ入り

イングランド
3 Shaw, 8 Alexander-Arnold, 13 Ramsdale, 15 Dunk, 16 Gallagher, 17 Toney, 18 A.Gordon, 19 Watkins, 20 Bowen, 21 Eze, 22 J.Gomez, 23 D.Henderson, 24 Palmer, 25 Wharton

スイス
2 Stergiou, 3 Widmer 4 Elvedi,6 Zakaria, 9 Okafor, 11 R.Steffen, 12 Mvogo, 14 Zuber, 15 Zesiger, 16 Sierro, 18 Duah, 21 Kobel, 23 Shaqiri, 24 Jashari, 25 Amdouni

 

前半

 

 

イングランドは守備で混乱しないようにと考えたかスイスの3-2-5ポゼッションにそのままミラー配置で対応しやすい3-4-2-1を採用。ポゼッションでも3CBというのが選手の意識にあるからなのかサイドの選手が低い位置でタッチライン際に張る事が減り、なおかつ自分たちのボールプレーではサカがウイング化してこれまでと同じ形でプレー出来るのでこの変更はかなり良かった。

 

スイスとしても相手がシステムを変えてくる事は予想外だったのか、試合の序盤は左サイドのフレキシブルなポジショニングやエンドイェの馬力で打開する右サイドとこれまでの強みを発揮できず、逆に対人守備がそれほど得意ではないアエビシェールがサカを見なければいけない守備のマッチアップからイングランドに何度もボックス内へ侵入されてしまう。

 

ただ、イングランドも基本的に足元でボールを受けたい選手で構成されている為、明確な指示が無い選手主導だとどうしてもピッチの縦幅を広く使う事が出来ず、更に左サイドでトリッピアーがウイングプレイでの攻撃貢献をしなければいけない構造もまだ解消されていない事から決め手になるような場面は生まれない。

 

マン・シティの選手は無条件で器用かつ相手に合わせたその場でのプレーが上手いと思われがちだが、恐らくペップが明確な基準を打ち出しているからこそそう見えるのであって、スリーライオンズにおけるウォーカー,ストーンズ,フォーデンの見ると、勿論身体能力やライン間でのボールプレーと各々の強みの質は素晴らしいが、クロス対応や相手がロングボールを蹴ろうとする際の背後を抜かれない為の準備、そして味方とのスペースの共有はむしろ悪い意味で目立つ回数が多い。

 よってウォーカー,フォーデンの右サイドでは無秩序に慣れているメイヌーやそもそものインテリジェンスの優れたサカが受け身になって下支えする形。

 

今回も33分の自陣中央~敵陣ボックス手前へのボールキャリーのように狭いスペースでのボールを相手から隠しつつ確実に前進する力の優秀さを見せたメイヌー。苦手だった撤退守備でCB前に生まれるスペースを封鎖しマイナスのクロスをケアする動きもこの試合ではこなしており、欠かせない選手と言っても過言ではない。

 

そして、他のスターを押しのけてというのは現時点ではまだ早いが、本質的には攻撃的MFに最も適性があると思われ、直近で現役引退を考えているという報道がなされたチアゴ・アルカンタラの柔軟性と所属クラブのレジェンド,ポール・スコールズの得点レンジの長さ及びキック精度をミックスしたような選手が完成系になるのかもしれない。

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そんなメイヌーの決定機はサカのテイクオンからだったが、ジャカが素晴らしい球際の粘りを見せてシュートを打ち切らせず、スイス,イングランド共にゴールが生まれないまま前半を折り返す。

 

 

後半

 

スイスはイングランドミドルサードでの守備、特にどちらがボールをコントロールするか安定しないカオスの直後にフォーデンが持ち場を離れている事で生まれるサカvsリカルド・ロドリゲス-アエビシェールの1on2に活路を見出し、ロドリゲスのアーリークロスからエンボロがシュートを放つという形をパターン化。

 

イングランドにとって悩ましいのはケイン,ベリンガム,フォーデンが実質的に変えられない選手の枠に入っているように見える点。中でもCFはタイプの違う3枚を招集しているので、その中から裏抜けや横に流れてスペースを作る意識の高いワトキンスを起用する方が上手くいく可能性が高いと思われる。

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最初に動いたのはスイス。対人に滅法強いウォーカーが相手とあってイタリア戦と違い1on1での優位性を作れなかったバルガス、逆足アタッカーとしてRWで先発していたファビアン・リーダーを下げてフルバックのヴィドマー、技巧派ウイングのツバーを投入した。

 

トリッピアー、コンサ相手に裏抜けやテイクオンでチャンスを作っていたエンドイェがシャドーに入ってよりゴールに近い位置でのプレーが増え、更にヴィドマーが積極的なデコイランで相手を釣り出す事で左サイドで見られたようなユニットでの崩しが増えたスイス。

 

すると、75分には流れの中でフルバック化したファビアン・シェアが横方向へのドリブルを見せてボールを晒し、自分に目線を集めた所でDFライン背後を狙うエンドイェへスルーパスを通してニアポケットに侵入すると、コンサの股を抜くグラウンダ―クロスに対しストーンズが対応出来ず、ファー側で準備していたエンボロがプレゼントボールを押し込んで先制!

 ストーンズ、ウォーカーのマークの受け渡しと後者のクロス対応で簡単に相手を前に入れてしまうウィークポイントが出てしまった形。

 

ラウンド16に続いて先制を許したイングランドは一挙3枚替え。この大一番でルーク・ショーを実戦復帰させて左CB、その前にはエゼを置く超攻撃的な11人になり、ポゼッション時はボールサイドのCBが前に上がる2-1-7でリスクをかけて圧を強める。

 

スイスもウイングから1人MFラインへ下げて5-3ブロックでこれに対したが、常に1on1、或いは1on2でも違いを作り出していたサカが卓越した個人技術でゴールを奪いスリーライオンズは5分で同点に追いついた。

 

追い詰められると火事場の馬鹿力を発揮するイングランド、ただ、ここで試合を決めきてしまえない所が世界屈指な戦力を有していながら結果が出ない理由でもあり、むしろスイスに勝ち越し弾を奪われそうになりながら90分を1-1ドローで終える。

 

延長・PK戦

 

 スイスはエンドイェを下げてCB本職のザカリアをそのままRWに置くという奇策を見せたが、勿論攻撃面でそれがプラスに作用する筈はなく、恐らくは試合を塩漬けにする為の交代だった思われる。延長前半はベリンガムに1度チャンスがあったくらいで比較的静かに過ぎ去ったのでその点では効果ありだったか。

 

延長後半、スイスはエンボロに代えてシャキリを送り込み、彼がフォルスナインとして中盤にボールを受けに降りたり或いはデコイの動きでDFライン裏へ走り込んだりと疲労しているイングランド守備陣を揺さぶる事で延長が終わるまでの残り10分はスイスに幾度も得点機会が生まれた。

 

ただ、アタッカーを下げてディフェンダーを投入し続けた結果として、フィニッシャーがザカリアやヴィドマーになるので右大外のマークが空いていた優位性を活かせず、準決勝進出の権利はPK戦の結果に委ねられる。

 

 

イングランド1人目は途中出場のパルマー。冷静に名手ゾマーの逆をついてプレッシャーのかかる最初のキッカーとしてきっちり仕事を果たした。

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スイス1人目は大会を通して好パフォーマンスを続けているCBアカンジ。ただ、助走の短さ+威力を犠牲にしてタイミングを外す事を重視する蹴り方を選んだDFリーダーのキックは利き足側のグラウンダーという最もGKにセーブされやすい場所に飛んでいきピックフォードの左手に弾かれて失敗。

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ケインに代わって入ったトニー、115分に投入されたアレクサンダー=アーノルドとプレースキックに自信のある選手がズラリと並ぶイングランドは3人目のサカが少々危うい内容だったものの、5人目まで全員がネットを揺らして勝利。

 

 

【Match Review】オランダvsトルコ

ベンチ入り

オランダ
2 Geertruida, 3 De Ligt, 8 Wijnaldum, 9 Weghorst, 12 J.Frimpong, 13 Bijlow, 15 Van de Ven, 16 Veerman, 17 Blind, 18 Malen, 19 Brobbey, 21 Zirkzee, 23 Flekken, 26 Gravenberch

トルコ
2 Çelik, 5 O.Yokuşlu, 7 Aktürkoğlu, 9 C.Tosun, 11 Yazıcı, 12 Bayındır, 13 Kaplan, 17 Kahveci, 23 Çakır, 24 Kılıçsoy, 25 Akgün, 26 B.Ö.Yıldırım

 

 

前半

 

 

トルコは大会途中から採用し好循環の要因となっている5バックを継続し、ラウンド16で2ゴールを奪いオーストリア撃破の立役者となったデミラルがその際のゴールパフォーマンスを理由に出場停止処分を下され不在となったCBの1枠にポルトガル戦で致命的なオウンゴールを生み出していたアカイディンを使い汚名返上の機会を与える。

 

オランダはルーマニア戦のイレブンをそのまま起用し、ロナルド・クーマンはダブルピボットの関係性の深まりやダンフリースありきで構築する右サイドのリンク役としてのベルフワインに一定の手ごたえを掴んでいる様子。

 

基本的にはオランダがボールを持つ展開となり、その際のバック3のポジショニングや中央を固めるトルコに対して左サイドに流れてビルドアップの出口及びダイレクトプレーでの敵陣攻略の起点になるシャビ・シモンズは効果的だった。

 

ただ、5-4-1のブロックを崩しきってゴール前まで侵入するのはそう容易ではなく、前掛りになり過ぎるとエムレ・ギュレルを中心とするトルコのテクニカルでアジリティにも優れたアタッカーの餌食になるので丁度いい塩梅を探りながら試合を進めているように見えた。

 

トルコの攻撃は先述の強みを活かすカウンターとその速攻で獲得したセットプレーの2軸であり、中長距離レンジのパス一発でチャンスを作り出す事が出来るアイハン,チャルハノール、ボールキャリーの際の姿勢が良く常に周りの状況を見ながら次のプレーを選べるカディオールの働きぶりが鍵に。

 

35分、高い位置でのボールカットから始まったポゼッションでCKを獲得したトルコはCK後の2次攻撃でギュレルの右足のクロスをアカイディンが豪快に叩き込み先制。

 

大会期間中、左足の質の高さを嫌という程相手に植え付けていたギュレルが裏をかいてシンプルに右足でクロスを上げたのが得点に直結した要素だが、ゴールを決めたアカイディンのマークを外してしまっただけでなく、自らのミスジャッジでCKを与えてもいるダンフリースは常に懸念されているフットボールIQの部分で脆さを一気に出した。

 

DFライン裏へのロングボールに対して、自分より一回り大きいファン・ダイクに対してアジリティという強みを生かし身体を前に入れボールを収めたユルマズの存在もオランダにとっては脅威であり、総じて前半はトルコの狙いが上手くハマっていた。

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後半

 

 

オランダはターゲットマンになれるヴェフホルストを投入しブロックの外からボックス内に侵入出来る手段を増やした。後半最初のチャンス、52分のメンフィスの決定機はアケのアーリークロスを途中投入のこの長身FWが折り返して生まれたものであり、この交代策は早速効果が発揮されている。

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一方のトルコは前半と同じくロングボールを積極的に使って少ない手数で相手陣内にボールを運び、そこからFKを得ればギュレル、チャルハノールと左右の素晴らしいプレースキッカーが待ち構えているので、最初の45分よりは劣勢だったが全く追加点の匂いが無かった訳ではない。

 

70分のオランダは左サイドタッチライン際からガクポがターンや股抜きを駆使する圧倒的なテイクオンでチャンスを作り、アタッキングサードの9人の選手が入るリスクを取って最終的にヴェフホルストのシュートでCKを獲得する。この場面ではボレーシュートではなくGK前を通過する横パスを出していればオープンゴールだったが、浮き球への合わせ方を見ると恐らくミスキックのような形で結果的にシュートになったのだろう。

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続くCKのチャンスではメンフィスが一度ボックス角のスハウテンにボールを預け、リターンパスからゆっくりと右足のカーブクロスをゴール前へ蹴り込んで完全にマークがついていなかったデ・フライが強烈な一撃を頭で叩き込んで同点に追いついた。

 

結果的にリスクをかけた攻撃が実って得点まで持っていたオランダはそのまま勢いにのり、セットプレーから始まるアタッキングサードでのポゼッションから、ダンフリースのグラウンダークロスにガクポとアカイディンがもたれこむように反応しヌルっと勝ち越しゴール。

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中盤でフィルター役になれるホールディングMFがいないオランダは逆にリードしてからの方が隙が多く、半ばヤケクソ気味に前へ前へとボールを運んでいくトルコの圧力に押されまるでマンチェスター・ユナイテッドを見ているかのようなドタバタ感で薄氷を踏むが如く首の皮一枚で失点を防ぐ場面が頻発。

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アディショナルタイムにはクロス対応の悪さ及びその前段階でのプレスが間に合わないところからフェルブルッヘンのスーパーセーブが無ければ確実に失点していたであろうゴール前でトルコの決定機を許すなど、勝利したとはいえリードしたゲームを安全に閉じる事が出来ず、準決勝に大きな不安を抱えたままタイムアップを迎えた。

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【 #Euro2024 】優勝候補同士の対戦、スクランブルのOlmoが大活躍

 

 

 

 

【Match Review】スペインvsドイツ

ベンチ入り

スペイン
1 Raya, 4 Nacho, 5 Vivian, 6 Merino, 9 Joselu, 10 Dani Olmo, 11 Ferran Torres, 12 Grimaldo, 13 Remiro, 15 A.Baena, 18 Zubimendi, 21 Oyarzabal, 22 J.Navas, 25 F.López, 26 Ayoze Pérez

ドイツ
5 Groß, 9 Füllkrug, 11 Führich, 12 O.Baumann, 13 T.Müller, 14 M.Beier, 15 Schlotterbeck, 16 W.Anton, 17 Wirtz, 18 Mittelstädt, 20 Henrichs, 22 Ter Stegen, 23 Andrich, 24 Koch, 26 Undav

 

前半

 

試合開始からまだ間もない4分、敵陣でボールを失ったドイツは鋭いカウンタープレスで相手の攻撃を潰すが、この際にクロースの残した脚がペドリの膝にぶつかる形で危険な接触。治療のあと一旦はプレーに復帰したが、やはり左膝が気になる素振りを見せてラ・ロハはいきなり重要な選手を失う。

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代役に指名されたダニ・オルモはより相手陣内でMF-DFライン間での貢献に比重を置いたシャド―ストライカー要素の強い選手という事もあってか、スペインはゴールキーパからのビルドアップでロドリとファビアンを並列に置く3(1-2)-4の台形となり、ドイツもCB+MF2枚にはタイトにマークをつけてくるので結果としてGKウナイ・シモンのミドル・ロングフィードで相手の前線プレスを回避する回数が多くなった。

 

オルモはDFラインに張り付いてレーダーに捕捉されるのではなく、距離をとって前向きかつスピードに乗ったor乗りやすい状態でボールを受ける事が上手い為、彼がスペインのサイドアタックの出口となりアタッキングサードで常にドイツの脅威に。

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このレベルのマッチアップになるとターンオーバー(カウンター)が発生してもよほど全員が前掛りになっていない限りは中央封鎖が早いため、打開手段は準備が整う前にDFライン裏にロングボールを落とすかサイドから個の質・位置取り・連携の優位性を作って崩すかのどちらかになりがちだが、こうなるとフルバックウインガーのコンビネーションが抜群なスペインが試合の主導権を握る形となる。

 

開催国はリュディガーのフィードをハヴァーツがバイタルエリアで収めた35分のチャンスが最もゴールに近づいた瞬間で前半はトータルシュート3本。スペインはボックス内に侵入した回数で上回りシュートも8本放ったものの、xGベースで比較すると共に0.50未満と様子見と守備強度の高さの両面で決定機の無い前半。

 そしてククレジャのネガティブトランジションの速さと危険になりそうなスペースを埋める察知力は今大会常に素晴らしい。

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後半

 

ドイツは2人、スペインは1人選手交代を行い両チーム不安要素を取り除くような入れ替えをHTで決断。ル・ノルマンはイエローカードを既に貰っていて強く当たりに行けない懸念、サネはハーフスペースでの仕事がメインなので小回りの利かなさで活きず、エムレ・ジャンはファビアン・ルイス対象のマーク屋として一定の仕事を果たしたものの、それ以外の貢献が薄かったというのがそれぞれの交代理由だと推測している。

 

47分、ウナイ・シモンのフィードをムシアラの背後で受けたカルバハルがそのままピッチを斜めに横断するようにボールを持ち運び、中央で待つオルモへパス。そこからボックス内のニコ・ウィリアムズにボールが渡り、ニコは逆サイドのヤマルへロブパスを送ると、16歳のウインガーからお膳立てを受けたモラタはヨナタン・ターを背負いながら強引にシュート。枠を捉えられなかったものの、遂にビッグチャンスを作り出した。

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タイミングよくハーフスペースに入るのがダニ・オルモならば、モラタのポゼッション時の仕事は前線から中盤に降りてパスコースを作りつつ、ターを釣り出して中央にスペースを生み出す事。そんなスペインの前線の役割分担が51分の先制点を生み出す。

 

ジャンに比べるとアンドリッヒはCBが迎撃した事で空くスペースを埋める意識が高いのだが、オルモの入り方が完璧であるのと本来ダブルピボットで対処するクロースの横がスペインのスムーズなコンビネーションで不在になってしまった結果遂にゴール前の守備を崩されてしまった。

 

リードを許したドイツは実質的なエースとなっているフュルクルクを投入しクロスからの得点パターンを作り、一方のスペインは疲労を考慮した交代策でヤマルを準決勝に向けて温存。

 

この試合ではポゼッションでキミッヒに大外を取らせる事が前提となっている為、右ウイングに求められるのは大外からの局面打開よりも狭い空間での貢献度。後半からRWに入るヴィルツはサネに比べると周囲の状況を把握する事に長けており、出力では劣るがプレーのキャンセルをギリギリまで出来る点やボールタッチの細かさで勝る。

 最終的にアンドリッヒのシュートまで行った69分のカウンターは正にそんな彼の長所が遺憾なく発揮されたシーンであり、ポストプレーでチャンスを繋いだフュルクルクを含めドイツの選手交代は概ね効果的だった。

 

真ん中での競り合いである程度無理が効くフュルクルクを最終的なターゲットに置きつつ、ここから逆算して攻撃を組み立てられるようになったドイツ。スペインが4-5-1とそこからファビアンorオルモが前に出る4-4-2のミドル~ローブロックでボールの出所にそれほどタイトにプレッシャーをかけなくなった事も相まって70分を越えた辺りからはゴールにあと一歩というチャンスを数多く作るようになり、77分には倒れ込みながらのシュートがポストに直撃する決定機。

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押せ押せのドイツに対してニコ・ウィリアムズ、モラタを下げて前線の守備をもう一度引き締めると共にカウンターからの追加点を狙うスペインだったが、ここまで素晴らしいミドル・ロングパスを連発していたGKウナイ・シモンがハヴァーツにプレゼントボールを与えるなどここにきて不安定な部分が顔を覗く。

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なお、80分にターを下げてベテランのトーマス・ミュラーをピッチに送り込んでからはアンドリッヒをCBに落としてクロースアンカー、その前にハヴァーツ,ミュラーというかなり攻撃的なラインナップに。

 

89分、ドイツは相手ボックス内に6人の選手を入れるパワープレイから、ミッテルシュタットとクロスをファーでキミッヒが折り返し最後はヴィルツ!!劇的なゴールが決まり90分目前で遂に同点に追いつく。

 キミッヒのヘディングはABEMA解説鄭大世氏の言う通り競り合う相手の妨害をしつつ、叩きつけるというよりはボールの軌道上に頭を置いておくようなイメージでゴール前にボールを折り返す巧みなプレーだった。

 

 

延長戦

 

同点に追いついた事でハイリスクの戦い方からもう一度バランスを意識するドイツはハヴァーツに変えてCBのアントンを投入しダブルピボットに中盤構成を戻す。

 

延長に入っても機敏さに陰りの見られないムシアラ、ヴィルツのヤングスター2人を中心に開催国が主導権を握ったが、後半に入りPK戦も頭をよぎる119分、本来は味方に当てたかったアントンのクリアがタッチラインを割って得たスローインから敵陣でのポゼッションへ移行すると、ペナルティボックス角付近でパスを受けたオルモのインスイングクロスにメリーノが合わせて勝ち越し!!

 

メリーノのオフボールを見ると、一度ニア前へのダッシュを意識させてリュディガーの動きをストップさせてオルモがクロスを蹴る瞬間に方向を変えゴール前方向へ動き直すという完璧なコース取りをしており、2人の間の呼吸かそれともチーム全体の共有事項か、合わせる地点を決めておく事でそれまでの選択に幅を持たせるというハイレベルなコンビネーションが隠れている。

 

1996年大会以来のアンリ・ドロネートロフィーを自国開催で勝ち取る為、あるいは今大会限りでプロフットボール選手としてのキャリアにピリオドを打つと宣言しているトニ・クロースに有終の美を飾らせる為にも何としてももう一度奇跡を起こしたかったドイツだが、残された時間で次のゴールが生まれる事は無くダニ・カルバハルの退場という置き土産を次にスペインと戦うチームに残して大会を去る。

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【Match Review】ポルトガルvsフランス

ベンチ入り

ポルトガル
1 Rui Patrício, 2 N.Semedo, 5 Dalot, 9 G.Ramos, 11 J.Félix, 12 José Sá, 13 D.Pereira, 14 Inácio, 15 J.Neves, 16 M.Nunes, 18 R.Neves, 21 D.Jota, 24 A.Silva, 25 P.Neto, 26 F.Conceição

フランス
1 B.Samba, 2 Pavard, 3 F.Mendy, 9 Giroud, 11 O.Dembélé, 15 M.Thuram, 18 Zaïre-Emery, 19 Y.Fofana, 20 Coman, 21 Clauss, 23 Aréola, 24 Konaté, 25 Barcola 

 

 

前半

 

 

ポルトガルはラウンド16と同じラインナップで臨み、フランスはサイドアタッカーを配さない中盤ダイアモンドの4-3-1-2を採用し驚きを与えてくる。基本的にひし形の攻略法は左右のセントラルMFの脇を突く事なので、ベルナルド、ブルーノの両司令塔がこのスペースに入り込む事でセレソン・ダス・キナスは序盤の主導権を握ったように見えた。

 

また、CM脇を突くうえで良い補助になっていたのがRWのベルナルドが中央~左サイドにかけてのポゼッションにおいてサイドレーンを大きく外れてトップ下のように振る舞って中央でのフランスのマークを混乱に陥れた事。

 

レ・ブルーは中央を固く閉じる4-3-3からカンテorカマヴィンガが前に出ていく4-2-4気味の守備陣形になるが、ベルナルドのフリーマン化によってより外の警戒を薄くして中に人数を割くようになる為、左サイドでクンデとの1on1に備え前残りしているラファ・レオンがより抑圧から解放される状態となってサイドチェンジから彼の個で局面を打開するシーンが多く見られた。

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ただ、レオンについては1on1で突破、或いは一歩前にでて次のプレーに移行出来る状態になった後のキック精度が初戦から著しく低く、ゴール前のロナウドの動きをまるで考慮しない左足の低いクロスを入れてはクリアされるという繰り返しでもあるので手放しに評価できる内容ではない。

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フランスのサイドレーンの扱い方はボールを持っている際にも上手くいっていない部分があり、実質ウインガーフルバックに起用しているようなテオ・エルナンデスはともかく、右サイドでクンデが大外を取って個の力で打開しなければならない状況になる事は明らかに適性を外れている。ウパメカノのカバーがあるとはいえ、ただでさえレオンとの1on1で心身のスタミナを削られていく中、攻撃時に高い位置を取って尚且つチャンスクリエイトまでやれというのは1人の選手に多くのタスクを背負わせ過ぎだろう。

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もしもこの右サイドにグリーズマンやエンバペが顔を出してレオンの守備免除を突く形をフランスが取っていたとすれば、両チーム合わせてオンターゲット1本というゴール前の迫力に欠けた前半ではなかったかもしれないが、ポルトガルもフランスも残念ながらコーチングスタッフ発信の修正力には乏しく、ピッチ上の機転頼りなので変化のない45分は両者非合理な要素を多く含んだまま終了。

 

後半

 

フランスは少し攻め方を変え、自分から相手に飛び込んでいく、或いは自分の間合いで勝負出来る対人では強いもののオフボールへの対応や逆サイドからのクロスなど受け身になる守備がとことん苦手なカンセロに対しテオやエンバペが積極的に背後を狙い始める。

 

また、前線の守り方、特に構造上の問題で劣勢だったクンデvsレオンの右サイドに人数を増やす為、コロ・ムアニが中央から外に意識を寄せて守るようになり、出来るだけ2人以上で強力な相手FWに対峙するように修正。

 

これらの変化もあってポルトガルも前半ほどは簡単にミドルサードにボールを進められなくなったが、ターンオーバーからの速攻や左に比べれば警戒されていない右大外のカンセロ経由のコンビネーション等で相手ゴールに忍び寄る。60分のブルーノのシュートとそのこぼれ球から再展開したカンセロのボックス内からの一撃は相手GKメニャンの好反応に阻まれ得点に繋がらなかったものの、ようやく最終局面まで到達して可能性を感じさせるものだった。

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この直後にもヴィチーニャがボールを運んでレオンを経由しリターンを受けてゴール前での決定機を作り、ポルトガルペースは確実と思ったが、前掛りになった所でのフランスのカウンターはやはり強烈。なお、66分のコロムアニのシュートに至るまでのプレーを見て頂けると一目瞭然だが、守備のセオリー自体は分かっているのでやろうと思えば効果的なプレーが出来るロナウドと違い、レオンの場合はそもそもの座学が足りていない印象すら受けるほど根本からツッコミどころの多い対応をしてしまう。

 (このケースでは最初から自分が内にいたにも関わらず、タッチライン側に押し出すのではなく何故か外に回ってボールホルダーを追いかけている)

 

フランスがグリーズマンを下げてデンベレを投入し彼の個人打開で右サイドを掌握するようになると今度は彼らがゲームをコントロールするようになり、尚且つロベルト・マルティネスがブルーノに代えてフランシスコ・コンセイソンという交代策を行った後はただでさえ相手DFとの駆け引きに対して勝負になるクロスやパスがなかなか出てこなかったロナウドがより一層孤立を深めてしまう。

 

カウンター要員としてアウト・オブ・ポゼッションでの前残りが許され、他に比べれば体力の消耗が抑えられているかに見えたレオンもこの辺りでは既に余力を使い果たしたかの如く存在感が消え失せ、選手交代でフランスが勢いづくのと対照的にポルトガルは悪化の一途を辿りながら90分を終える。

 

 

延長・PK戦

 

93分、コンセイソンのテイクオンからようやくロナウドにチャンスらしいチャンスが舞い込んできたが、僅かにイレギュラーバウンドしたボールに合わせきる事が出来ず。

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ベルナルドがロナウドの横に出る4-4-2で守るポルトガルファーストプレスで相手のプレーを限定できないと2:3になっている中盤の枚数差でフランス打開されてしまう為、CMにかかる守備負担は大きい。延長前にパリーニャを下げたのは恐らくこれが理由だと思われる。

 

延長前半いっぱいで交代したエンバペについては身体面で鼻骨骨折の影響は特に見られなかったが、フェイスガードによる視界悪化が作用しているのかボールプレーの精度が普段よりも低く、なれるまで狭いスペースでは頼りにならなそうな雰囲気。

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延長後半はレオンとの入れ替えで投入されたフェリックスがロナウドの衛星役としてフィニッシュワークでの存在感を発揮しつつも、シュート精度が今一歩でヒーローになり切れず、ガス欠になりながらも要所での強度の高さを120分維持したヌーノ・メンデスにも最後の最後で決定機が生まれたがこちらもモノに出来ず、ポルトガルにとっては悔いの残る15分に。

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ゴールが生まれないまま突入したPK戦では先攻フランス、後攻ポルトガルの2人目まで順調にネットを揺らす。先攻3人目のクンデがショットスピード、コース共に完璧なキックを決めた後、後攻のフェリックスは短い助走+途中でストップを入れるというフラグを積み重ねて失敗。

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ディオゴ・コスタの神通力もここでは振るわず、完全にヤマ勘で飛んでいるような所をレ・ブルーの面々に見透かされたかことごとく反対側に蹴られ続けて最終結果5-3でディディエ・デシャン率いるフランスがセミファイナル進出。

 

 

 

 

【 #Euro2024 】セットプレーから2ゴール、Demiralがベスト8への扉をこじ開ける

まさかオーストリアがここで姿を消すとは……

 

 

 

【Match Review】ルーマニアvsオランダ

ベンチ入り

ルーマニア
4 Rus, 5 Nedelcearu, 7 Alibec, 8 Cicâldău, 9 G.Pușcaș, 12 Moldovan, 13 Mihăilă, 14 Olaru, 16 Târnovanu, 23 Sorescu, 24 Racovițan, 25 Bîrligea, 26 Șut

オランダ
2 Geertruida, 3 De Ligt, 8 Wijnaldum, 9 Weghorst, 12 J.Frimpong, 13 Bijlow, 15 Van de Ven, 16 Veerman, 17 Blind, 18 Malen, 20 Maatsen, 21 Zirkzee, 23 Flekken, 26 Gravenberch

 

前半

 

 

ラインデルスをダブルピボットで起用するという第一関門はクリアし、人選定まらぬRWにはベルフワインを抜擢したオランダ。ラインデルスの相方にはスハウテンを辛抱強く起用し続けているが、そんな指揮官ロナルド・クーマンの期待に応えた27歳のMFは遂に本来のポテンシャルを発揮。ミドルサードでのボールキャリーやライン間でのレシーブは相方に任せ、DFライン前で相手のファーストプレスを引き寄せながらボールを受ければシンプルかつ的確な判断で味方にパスを繋いでいく。

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ルーマニアは相手のビルドアップに対しマンツーマンでハイプレスをかけて序盤はショートカウンターからのチャンスでオランダゴールを脅かしたが、ここであと一歩が届かず徐々に4-1-4-1のミドルブロックへ移行。ベルフワインが右ハーフスペースに入りシャビ・シモンズと左右で攻撃的MF2枚、ダンフリースを右ウイングまで押し上げる3-2-5に対して守備位置がハマらず、MF-DFライン間を使われる回数が増えていくうちに4-1-4-1の中盤の4が下がって後ろ重心になった。

 

19分、デ・フライからパスを受けたスハウテンは相手1トップのプレスを交わすと、MFラインの隙間を縫う精密なキックでシャビ・シモンズにラインブレイクのパスを通してオランダにチャンスをもたらす。シモンズから左大外でパスを受けたガクポはタッチ幅を狭めながらタイミングを見てゴール側へ方向転換し、そのまま狭いゴールマウスのニアサイドをぶち抜いて先制ゴール。

 

ルーマニアはブロックで守る際にダンフリースを見るのがDFではないイアニス・ハジになるケースで中途半端なポジショニングをしてCBとの間にスルーパスを通される事があり、それ以外にも全体的な1on1で劣勢気味なのでボックス内まで侵入されてドラグシンの踏ん張りで何とか失点だけは回避というスレスレの守備が多くなる。逆に言えば彼のDFとしての能力の高さはこの試合を見るだけでも明らかに上位である事が良く分かる。

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ルーマニアでもう1つ気になったのはLBで先発したヴァシレ・モゴシュの負傷交代により途中から出番が回ってきたボグダン・ラコヴィシャンのプレー全般から漂う見込みの甘さ。44分にはゴールラインを割ろうかというルーズボールに対して相手をブロックする身体の入れ方が十分ではなく、ダンフリースに突っつかれて危うく失点というピンチを作り出してしまう。

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後半

 

オランダはベルフワインに変えてマレンを投入。ルーマニアがブロックを固めると予想してより個の力で守備陣形を崩す事に長けたアタッカーを入れる判断は正しかったのではないか。

 

54分のオランダ。右サイドのコンビネーションからダンフリースvsハジの優位局面を作り、超攻撃的RBのカットバックをニアポケットに侵入したマレンが合わせ、ドラグシンがブロックしたこぼれ球がゴールエリアに待つメンフィスへの絶好球となったが、チャンスボール過ぎて逆に上手くいかないというアタッカーあるあるでこの決定機をモノに出来ず。

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ビハインドのルーマニアもしばしばカウンターのチャンスを得るが、相手DF陣の出足が良い事もありミドルサードでパスを引っかけて前線までボールを供給できない事が多く、なおかつ気がはやってボール保持でのテンポが単調だったのでボールを持っている時の方がかえってピンチに繋がっていた印象。

 

一方、リードを広げたいオランダの方もファン・ダイクのCKからのヘディング、セットプレー後の2次攻撃から押し込んだガクポの幻の2点目、途中出場から汚名返上の機会を得たフェールマンのボックス内左45度からの一撃など決定機を逃す場面が相次ぎ悶々とした時間が続いた。

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このまま最少スコアで行けばCKやカウンターからチャンスがやってくるとルーマニアに僅かな希望が見え始めた頃、オランダは敵陣左サイドからのスローインでボックス内にボールを運び、それまで素晴らしい守備対応を続けていたドラグシンがゴールライン上でのデュエルで一瞬隙を見せ、優れたボディバランスでボールをピッチ内に留めたガクポのプレゼントパスで遂に追加点獲得。

 

更に、アディショナルタイムにはCK守備で左サイドに前残りしていたマレンが1人で長い距離を運びそのままフィニッシュまで完結してダメ押しの3点目を奪い、最終スコア0-3でオランダがベスト8進出。

 

途中出場から2ゴールを奪ったマレンも本来は左サイド起用の方がより多く得点に関与出来るタイプだと思われるが、圧倒的な質を見せ続けるガクポをどかしてLWに使うかと言われれば現実的ではなく、なおかつ彼をCFにスライドしてメンフィスをスタメンから外す選択も取れないのでRWに収まる事になりそうだ。

 

【Match Review】オーストリアvsトルコ

ベンチ入り

オーストリア
1 Lindner, 2 Wöber, 8 Prass, 10 Grillitsch, 11 Gregoritsch, 12 Hedl, 14 Querfeld, 17 Kainz, 21 Daniliuc, 22 Seidl, 24 Weimann, 25 Entrup, 26 Grüll

トルコ
2 Çelik, 5 O.Yokuşlu, 7 Aktürkoğlu, 9 C.Tosun, 11 Yazıcı, 12 Bayındır, 13 Kaplan, 15 Özcan, 17 Kahveci, 23 Çakır, 24 Kılıçsoy, 25 Akgün, 26 B.Ö.Yıldırım

 

 

前半

 

両チームがどのような戦い方をしてくるのか見ていこうとしていた内にいきなりスコアが動く。

 

トルコはCKから左利きのエムレ・ギュレルが低めの弾道でゴールキーパー前を通過し遠い方のゴールポストに落ちる軌道のボールを蹴り、これに対し守備側はファー側のストーンだったバウムガルトナーがボールに触れたものの、目の前にいたポッシュが壁になってゴール側にディフレクトしてしまい、GKペンツはゴールラインを割りそうなボールを咄嗟に掻きだしたがリバウンドを狙っていたデミラルが詰めて先制。

 

オーストリアは一気にギアを上げてトルコ陣内深い位置にボールを進めていき、5分にはCKからバウムガルトナーにリベンジの機会が与えられたがデミラルが一歩前に入ってボールに触り、先程の先制点と合わせて早くも2点分の大仕事を果たす。

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トルコはこれまでと違い3CBなので中央をこじ開ける難易度が高くなり、ライマー-サイヴァルトのDM2枚のうち片方がバックスに吸収される3-1-4-2でポゼッションするオーストリアは基本的にサイドからの攻略を目指す事となるが、こうなってくると典型的なウインガーを守備貢献やプレー強度の面から嫌ってスカッドに招集していないラングニックのチームは決定打に欠ける。

 

RBのポッシュはブロックの外から上げるクロスの質が高いものの、瞬間的コンビネーションで局面を打開できるタイプではなく、LBのムウェネはアジリティーに光るモノはあるが細かいところで気が利かず、大外でボールを受けても右足に持ち直してから次のプレーを考える為その間に相手の守備陣形が整ってしまう。

 

それ故に、トルコとしては相手のビルドアップに人数をかけて一気に剥がされるという失点パターンをプレスラインを低くする事でケアし、ディフェンシブサードではクロスに対してデミラルを中心とするCBが集中を切らさず弾き返し続ければ、後は最終防波堤となるGKのパフォーマンス次第という割り切った守りにも見えたが、先述の今回はたまたま相手に強力なウイングがいなかった事もプラスに作用しているので次戦も同じように運べるかは疑問。

 

 

後半

 

トランジション強度の違いやロングボールに対するセカンドボール回収のディテールとカオスになった場面での立ち回りの差で勝ちあがってきたオーストリアはRWのシュミッドを下げてFWのグレゴリッチュを投入。そして折角左サイド深い位置でボールを受けてもその後の選択肢に乏しかったムウェネもオランダ戦で内容の良かったプラスに替え、バウムガルトナーを中央から右に移してラングニックの代名詞である4-2-2-2にベースのシステムを変えてあくまでも哲学を貫く構え。

 

 右サイドに入ったバウムガルトナーはカディオールとバルダグチの間、トルコ最大のウィークポイントをオフボール,オンボール問わず積極的に突いて見せ場を作り、前半とは異なりオーストリアは右サイド起点でのチャンスが増えた。

 

この辺りでは流れは完全にオーストリアに傾き、同点弾も時間の問題と思っていたのだが、トルコは右サイドで得たCKからギュレルのキックにデミラルがこの2ゴール目となる完璧なヘディングシュートで応えて追加点を手にした。

 

彼1人で試合の結果を左右させる程に得点が生まれるかどうかの瀬戸際で攻守に素晴らしいプレーを連発し、まさにデミラル・デイといった様相でこのゴールに関してもダンソから頭1つ分抜け出したパーフェクトなタイミングの合わせ方をしている。

 

希望が見えていた所からのどんでん返し、メンタル的に非常に厳しくなったオーストリアだが、ポストプレーやクロスターゲットとして効いていた後半投入のグレゴリッチュがCKからのニアズラし→ファー詰めの得点が生まれる黄金パターンで反撃ののろしを挙げて再び1点差に。

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ただ、全体を総括すると5バック,時には6バックになってボックス内への放り込みに対して人数をかけるトルコに対しウイングプレイヤー不在の余波は大きく、相手のターンオーバーを凌いだ後のカウンター返しが流れの中では最も得点に近かったという決め手不足、そしてアルナウトビッチ,バウムガルトナーが最後の所で精彩を欠いたまま目覚めなかった事も影響して同点弾が遠かった。

 

それでも、アディショナルタイム4分にはプラスの高弾道のキックで背番号19に全てを帳消しにして英雄になるチャンスが与えられたが、トルコ守護神ギュノクが逆をつかれている状態からの驚異的な反応で失点を阻止。トルコはセットプレーからの2ゴールで難敵オーストリアを下し準々決勝最後の1枠を勝ち取った。

 

 

 

【 #Euro2024 】解せない采配の尻拭いをする #POR の若き守護神

ポルトガルvsスロベニア、悪い意味でロベルト・マルティネスが何を考えているのか分からな過ぎて怖かった。。。

 

 

 

【Match Review】フランスvsベルギー

ベンチ入り

フランス
1 B.Samba, 2 Pavard, 3 F.Mendy, 6 Camavinga, 9 Giroud, 11 O.Dembélé, 12 Kolo Muani, 18 Zaïre-Emery, 19 Y.Fofana, 20 Coman, 21 Clauss, 23 Aréola, 24 Konaté, 25 Barcola

ベルギー
2 Debast, 6 Witsel, 8 Tielemans, 9 Trossard, 12 T.Kaminski, 13 Sels, 14 Lukebakio, 16 Vranckx, 17 De Ketelaele, 18 O.Mangala, 19 J.Bakayoko, 23 A.Vermeeren, 25 De Cuyper

 

前半

 

 

フランスはチュアメニをアンカーに置き、両脇にカンテ,ラビオと守備面での不安を取り除いた手堅い中盤構成の4-1-2-3を選び、RWには個の力で打開できるデンベレではなく周りとのリンクで崩していくグリーズマンを起用。これについてはおそらくベルギーの強烈なアタッカー、ジェレミー・ドクにへの守備対応も考慮されたものだと考えられる。

 

一方のベルギーはこれまでの4-2-3-1ではなくルカクの隣にオペンダを置いたフラット4-4-2で意表を突いてきた。このシステムの利点としては攻守で大きく役割が変わる選手がおらず、それぞれの役割・担当エリアが明確になりやすいというものがあり、RMにカラスコを起用したのは上述のフランスの右サイドと同様にエンバペ対策だろう。

 

フランスはミドルサードのポゼッションで両フルバックを前に押し上げ、相手のファーストプレス2枚に対して数的優位を確保するためにチュアメニが左に降りて3枚目を形成、ラビオかカンテのどちらかがアンカーに入って横と縦のパスコースを確保出来ていた。恐らく決まり事では無かったと思うが、それぞれのインテリジェンスが高いのでこのような修正をピッチ発信で行えるのが彼らの強み。

 

また、3:2の関係性になる互いの中盤構成を利用したのはビルドアップだけでなく、フィニッシュワークではアンカーのチュアメニがタイミングよくバイタルエリアに侵入したマイナス方向の折り返しに合わせるというのもパターン攻撃としてよく見られた。

 

ベルギーはどういう風にフランスから得点を奪おうとしているのか,崩しの形がイマイチはっきりとせず、例えば左サイドのドクvsクンデ,オペンダvsウパメカノは一方的とまではいかないものの1on1である程度の優位を確保出来るように見えたが、積極的に利用する事は無く、ルカクについても彼に楔を入れた後のフォローが相変わらず少なく、尚且つ今の彼にはサリバ相手に単独で得点まで持っていけるほどの身体的な出力は無いのでただただ守備貢献の低さばかり目立ってしまう。

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一方でビルドアップにおけるカスターニュ上げ可変バック3は彼の対面のエンバペの守備意識の低さを利用したいい案だった。ただ、こちらもカラスコと縦の位置取り被りになっているケースが少なくなく、風呂敷を広げた後の畳み方に困っている漫画を見させられるような気分に。

 

前半はスコア変動なしで折り返したが、自分たちの狙いが上手くいった上での結果であるフランスとフラット4-4-2を持て余すような形でほとんど得点機会を作れずに終わったベルギーとでは内容に差があった。

 

 

後半

 

ベルギーはポゼッション時のCMの関係性を前半と入れ替え、オナナがDFライン前に構えてデ・ブライネは遊撃としてある程度動きに幅を持たせる事で彼の推進力やチャンスクリエイト能力をより生かそうと試みる。

 カラスコのシュートで最後まで行ききった61分のカウンターなどは正にこの狙いがハマったプレーでキッカケになったオペンダの猛烈なプレッシング含めレッド・デビルズが向かうべき道筋が示されていたと思うのだが……

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ただ、相変わらず相手のビルドアップのファーストライン3枚に対してオペンダとルカクの2人、特に守備意識というかそもそも身体が動かない後者を入れた2枚で行う前線守備の為フランスにミドルサードまで簡単にボールを運ばれ、なおかつデ・ブライネも自分のマークを捕まえ続ける事はやや苦手としているのでラビオ,カンテのいずれかが受け手になる事で中央にボールを侵入させてしまう。

 

試合に少し変化が加わるキッカケになったのは両チームの選手交代。フランスはマルクステュラムからコロ・ムアニにCFを入れ替え、ベルギーは前線プレスやウパメカノを苦しめる瞬間的な加速力など効いていたオペンダを下げて中盤のマンガラを投入。

 

一見すると似たキャラクターにも見えるテュラムとコロ・ムアニ。しかしアジリティーとボールプレーの技術については後者に分があり、ストレングスに優れたテュラムで相手のDFを疲弊させてからコロ・ムアニで勝負を決めると最初からプランを立てていたのかもしれない。また、利他的なプレーで周りを活かせられるベテランのジルーの出番が少ない理由も身体能力重視の選手起用が根底にあると考えれば合点がいく。

 

ベルギーの選手交代については、デ・ブライネとルカクを同時起用する以上、例え4-2-3-1にしても相手の中盤3枚を完全にマークし続ける事は難しく、どうせボールを持てないのならばボール保持での気の利かなさに目をつぶって守備でのデュエルに強いマンガラを投入しようというのが意図だったのだろう。

 確かに彼のプレーだけ見れば自分たちがボールを持つ展開だった大会初戦に比べ明らかにいい所が目立ったと思うが、やはりビルドアップでオナナと縦関係を作る事が出来ずボールに近づいていってしまってスペースを潰す傾向も変わっていない為、総合的に判断すればティーレマンスを起用するのがベターだったのは間違いない。

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85分、フランスはルカクへの楔をインターセプトして反撃に転じ、テアテをDFラインから引きづり出しながらグリーズマンが後ろ向きでパスを受けると、その背後の空間にカンテが走り込んでアタッキングサードでのポゼッションに移行。

 その後左右にボールを振ってベルギーの守備ブロックを揺さぶると、ボックス内でボールを受けたクンデからのバックパスをカンテが鋭いダイレクトキックでコロ・ムアニへ渡し、途中出場の背番号12は小さい動作で反転してシュート。これがフェルトンゲンにディフレクトして遂にこの試合最初の得点が生まれる。

 

注目の対決を制したのはレ・ブルーディディエ・デシャンは史上初となる選手・監督両方でのワールドカップ&EUROのトロフィー獲得へ向けて一歩前進、不可能に思われていた快挙まで残り3勝となった。

 

【Match Review】ポルトガルvsスロベニア

ベンチ入り

ポルトガル
1 Rui Patrício, 2 N.Semedo, 5 Dalot, 9 G.Ramos, 11 J.Félix, 12 José Sá, 13 D.Pereira, 14 Inácio, 15 J.Neves, 16 M.Nunes, 18 R.Neves, 21 D.Jota, 24 A.Silva, 25 P.Neto, 26 F.Conceição

スロベニア
4 Blažič, 5 J.G.Stanković, 7 Verbič, 8 Lovrić, 12 Belec, 14 Kurtić, 15 Horvat, 16 Vekić, 18 Vipotnik, 19 Celar, 23 Brekalo, 24 Žugelj, 25 Zeljković, 26 Iličić

 

前半

 

 

ポルトガルはグループステージ第2節、トルコ戦と全く同じ構成を選び、スロベニアもコンパクトな4-4-2で堅守速攻からチャンスを伺うお馴染みの戦い方で始まった一戦。ポルトガルはパリーニャのカウンターを未然に防ぐ潰しやパスコースを読んだインターセプトで中盤のルーズボールを多く収め、ヴィチーニャがポゼッションのリズムを作り中盤の2枚がチームの心臓として八面六臂の活躍を見せていく。

 

決して悪い内容ではなく、むしろ左はレオンの個人解決力と彼の守備貢献の低さを1人でカバーするヌーノ・メンデスの圧倒的な身体能力の高さ、右ではベルナルドやカンセロからの質の高いクロスでロナウドをターゲットに安定してボールが供給されるためいつでも得点が決まりそうな気配もあったが、それだけに普段ならあり得ないようなボールロストを頻発するブルーノについてはかなり悪目立ちしていた。

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スロベニアの4-4-2ミドルブロックは最後方を3でビルドアップするポルトガルに対しボールサイドのサイドアタッカーが前に出てスムーズに4-3-3に変化するのも特徴で、ファーストプレスは中を切りながら外へ相手を追い込み、その後ろの2ラインは非常に縦の幅を圧縮して布陣するので彼ら相手にライン間にパスを入れて崩すのはそう容易ではなかった。

 

なお、ロナウドに関しては以前ならば追いついていたであろうボールに半歩遅れたり、以前ならば上から叩きつけていたであろうクロスに下から当たっていたり、どうしても瞬間的な馬力が要求される場面では衰えを隠せないが、それ以上に何か思い詰めているかのような表情・仕草が目立つように、メンタルの問題がゴール前での冷静さを損なわせ今大会の深刻なゴール欠乏に繋がっているのではないかと思う。

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後半

 

後半もポルトガルアタッキングサードでボールを持つ時間が長くなるのは変わらず、レオンやカンセロのドリブルでゴールに程近い位置からのフリーキックを何度か得ていたが、FKの感覚が良さそうなロナウド以上にスロベニアの守護神オブラクのセービングが冴えている為ゴールを奪えずジワジワと時計の針を進められていく。

 

有利な展開でありながらゴールを奪えない事で血迷ったか、ポルトガルの指揮官ロベルト・マルティネスは65分という早いタイミングでポゼッションのキーマンであったヴィチーニャを下げてしまう。

 

ジョタ投入自体を否定するつもりはない。ただ、それならば明らかにパフォーマンスレベルの低いブルーノかボールに関与していない時の貢献に乏しいレオンにするべきで、FWを増やしてもその前段階でボールの循環が滞るようになったセレソン・ダス・キナスは試合をコントロール出来なくなってしまった。

 

更にマルティネスの理解に苦しむ交代策は続く。レオンに変えてほとんどRWでの経験しかないフランシスコ・コンセイソンをLWで投入した事でアタッキングサードで左サイド深い位置を侵攻する手立てが無くなり、ただでさえヴィチーニャがいなくなってポゼッションの質が低下していた所に追い打ちをかけてチャンスはカウンターのみという状況が生まれる。

 

仮にRWでの起用だとしても、似たタイプのアタッカーにネトというより強力な個人打開能力を持ったレフティーを抱えている中でのコンセイソンという選択自体が指揮官への信用を損なわせるには十分であり、ハッキリ言ってしまえばこのゲームでポルトガルが延長・PKまでもつれ込んだ原因はほぼほぼマルティネスの無駄な交代策にあるといっても過言ではない。

 

 

延長・PK

 

ヌーノ・メンデス、パリーニャとトランジション局面の水際で素晴らしい対処をし続けていた選手が疲労で強度が低下し、元々危うさを孕んでいるフルバック起用のカンセロも突発的なエラーでピンチを作るなど終始一貫カウンターに徹するスロベニアに運が向いてくるような延長戦。

 

しかし、103分にはジョタがミドルサードからドリブルで4,5人の固まるスロベニアの中央のブロックに突っ込んでいき、延長戦でなければ無謀な意思決定であると批判するような決断ではあったが結果としてこの強引さがPK獲得をもたらした。彼の得点に対してのエゴイズムはポルトガル代表にとって常に有用なスパイス。

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PKテイカーはもちろんロナウド。中央から左にステップを踏んで斜めにボールに向かう普段通りの助走でインパクトの瞬間を迎えたが、彼にしては珍しく置きにいったような利き足方向へのキックで何度も対戦してきたオブラクにコースを読まれストップされた。

 

延長前半から後半までの僅かなクールタイムの間、円陣を組むポルトガル代表にカメラが入るとロナウドが若き頃、クライベイビーと言われていた頃のように感情のまま涙を流している姿が映ったが、後輩たちは白けるのではなくダロトに代表されるように連帯を示して彼に「もう一度奮起しよう」と心に灯を再点火させるようなアクションをしていたのが印象的。ダロトのリーダーシップと味方に寄りそう優しさがこのような形で世界に知れ渡ったのは複雑ではあるが。

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最後の15分、スロベニアはビヨル-ドルクシッチが獅子奮迅の動きで厳しく球際に寄せていく姿に呼応するように全員が残りの力を出し切るかの如くハードワークを続ける。彼らにとってもEUROが特別な大会である事を証明しているが、そんな姿勢が実ったか115分には前線プレスでペペのボーンヘッドを誘発させて決定機を迎える。

 

しかし、将来性を高く評価されるベンジャミン・シェシュコはゴールマウスから大きく飛び出していたディオゴ・コスタとの1on1を決めきる事が出来ず、ポルトガル九死に一生スロベニアにとっては掌の中にあった勝利への光が零れ落ちる結果に。

 

120分でも勝敗決まらず準々決勝への1つの椅子を争う戦いはPK戦に委ねられる。

 

 

PK戦では、上述のショットストップでの成功体験でゾーンに入ったコスタがスロベニアのキックを3回連続でストップする大活躍。

 

セレソン・ダス・キナスはロナウドが一番手のキッカーとして先程の悪夢を払拭し、更にブルーノ→ベルナルドと3者連続でネットを揺らして何とかフランスが待つ次のラウンドへ駒を進めた。

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【 #Euro2024 】これぞスターというBellinghamの勝負強さ

持っている男とは彼のような人間を指す言葉なのだと思う。

 

 

 

 

【Match Review】イングランドvsスロバキア

ベンチ入り

イングランド
3 Shaw, 8 Alexander-Arnold, 13 Ramsdale, 14 Konsa, 15 Dunk, 16 Gallagher, 17 Toney, 18 A.Gordon, 19 Watkins, 20 Bowen, 21 Eze, 22 J.Gomez, 23 D.Henderson, 24 Palmer, 25 Wharton, 

スロバキア
4 Obert, 5 Rigo, 6 Gyömbér, 7 Suslov, 9 Boženík 10 Tupta, 11 Bénes, 12 Rodák, 13 Hrošovský, 15 De Marco, 20 Ďuriš, 21 Bero, 23 Ravas, 24 Sauer, 25 Kóša

 

前半

 

 

イングランドは3戦目で後半からチームに良い変化をもたらしたメイヌーを先発に抜擢。他はそれまでと同じ4-2-3-1で臨み、スロバキアもイタリアの指揮官らしいコレクティブな守備をベースにした可変ありきの4-3-3でゲームに入る。

 

ハラスリン、ロボツカといったグループステージから素晴らしい活躍を続ける選手たちの他に、スロバキアで非常に目立っていたのが9番を背負うボジェニクに代わりスタメンの機会を得た18番のストレレツ。守備では1度相手にプレスをかけて交わされたらハイ終わりではなくしっかりと2度追い3度追いをする献身性とCBに圧をかけながら背中でメイヌーやライスへの縦パスを切り続ける賢さを見せ、攻撃でもグエイやストーンズを背負ってロングボールを収めてカウンターの起点になるなど控えだったとは思えないプレーでチームを牽引。

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一方、イングランドはビルドアップが機能不全のままであり、4-4-2のスロバキア前線プレスに対してウォーカー,トリッピアーが低い位置でタッチライン際に張るかバック3を作っても少し位置取りが前なので相手のウインガーに丁度ハマるポジショニングなっている点、ライスが相手の1stプレスの水平から前方まで降りてしまうのでただ無駄に距離感が近くなるだけで前進する為の有用な経由地点にならない点、そして素晴らしい技術を持つメイヌーも細かなポジショニングはまだ年長者たちをカバーできるほどの次元には到底及ばないのでバックス~ダブルピボットが全て消されているような状況。

 

よって序盤から多くチャンスを作るのは整った守備からカウンターという矛を出せるスロバキアであり、ハラスリンのキャリー・テイクオンにおけるコース選択の巧さや先述したストレレツの気の利き方、何より中盤のロボツカや大ベテランのペカリーク含めて全員がトランジションで手を抜かないハードワークを続けてイングランドゴールを脅かし続ける。

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イングランドのチャンスはライスのインターセプトや相手のパスのズレなど自分たちがポゼッションしていない状況下で発生する事の方が多く、これまでの試合同様に開き直って堅守速攻に切り替えた方が戦いやすいのではないかという意見は変わらない。

 

25分のスロバキアはヴァヴロのクリアボールで生まれた競り合いにクツカが勝ち、真っ先にボールの落下地点に入ったストレレツが自分での仕掛けや逆サイドへのパスを意識させて自然にタメを作りつつボールサイドのスペースに走り込んできた味方にラストパス。パスを受けたシュランツはバランスを崩されながらもつま先で押し込んで先制。

 (ここでもストレレツのプレーに無駄がなさすぎて一体なぜこの選手がクラブレベルで目立った成績を残していないのか逆に不安になる。)

 

この失点シーンにはイングランド守備陣が秘かに抱える課題を明確に表れており、グループステージからストーンズとグエイは連携面がまだ深まっていないのかハイボールに対してダブルコミットしてしまうケースが散見されており、もしこれが無ければ失点までは行っていなかった可能性が高い。

 

ビルドアップの上手くいかなさに業を煮やしてベリンガムが低い位置まで降りるようになると、その推進力やメイヌーとのコンビネーションなど瞬間的な個の力で何度かチャンスに繋げる場面が見られるようになるが、この際勿体ないのがボールに関与していない左サイドでトリッピアー-フォーデンが外外の関係性になってしまっている事。ベリンガムが空けたスペースを使う選手が誰もいない為、位置取りゲームの観点からすれば勝手に後ろ重心になっているだけというケースが多い。

 

ベリンガムがオープンな状況で力を発揮する一方、狭いスペースで輝きを放ったのはメイヌー。AT2分にはFKからの2次攻撃でバイタルエリアに侵入しシュートまで完結させ、彼のドリブルスキルは後半に更に目立つ事に。

 

 

後半

 

50分のイングランド、メイヌーがCB横に降りてウォーカーの攻撃参加を促すと、彼からサカへボールが渡り、更にケインへの斜めのパスが入って一気にスピードアップ。ケインはスペースのある左サイドでボールを呼ぶトリッピアーへ展開すると、最後はトリッピアーの折り返しを中央へ位置取りしていたフォーデンが詰めて同点ゴール……かに思えたがフォーデンのオフサイドで幻に。

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このプレーをきっかけにイングランドが攻勢を強め、一時は同点も時間の問題かと思われたがFKからのリスタートでウォーカーとストーンズのコミュニケーションエラーが出て完全にGKが無警戒の状況でボールを失い、ストレレツに超長距離のロングショットを決められそうになった後はトーンダウン。

 

固定メンバーで戦うスロバキアも時間と共に守備強度に陰りが見え始め、アタッキングサードまではボールを運べるようになったが、そこからボックス内に侵入する手段は59分に見せたテイクオンのようにメイヌーの個くらいしか見当たらず。それならば開き直ってサイドからクロス爆撃を続けていけばと思わなくも無いが、コントロール型のクラブチームで主力を張っている選手が多いという状況がそれを許さないのかもしれない。

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スロバキアが消耗したパーツを入れ替えるが如く前線プレスの負荷が高かった所から選手を入れ替える中、イングランドはよりにもよって層の薄いLBのトリッピアーを負傷交代という形で失ってしまう。

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この危機的状況にガレス・サウスゲートの出した答えはサカのLB起用だった。

 

トリッピアーをLBで起用していた背景にある左利きフルバックを実戦に復帰していないルーク・ショーただ1人しか招集していない問題について、サカのLBを前提に考えていたのかとしばらく彼と周囲のプレーぶりを観察していたが、ウォーカーを右のCBにして左上がりの可変にするといった雰囲気は特になく、相変わらず相手のプレスがハマる立ち位置のままだったので完全にスクランブルなのだろう。サカLBは詰めていけばチームの強みになり得ると思うが、今から、それも悪い意味での実績があるイングランドのコーチ陣にそれを期待するのは酷な話。

 

80分台に入ると疲労が目に見えて分かるようになっていたメイヌーを下げてエゼ投入、フォーデンをライスの隣に置いてパルマーとのマン・シティ下部組織勢同士のコンビネーションを促すが終盤になってもスロバキアの集中力は高くボックス内に人数がいるので崩しきる事は容易ではない。

 

いよいよもってここまでかと諦めかけたアディショナルタイム5分、イングランドは相手陣内右サイドコーナーフラッグ付近でスローインを得ると、ウォーカーのロングスローでボックス内に良質なボールが供給され、グエイが後ろにそらしてベリンガムがこの土壇場でバイシクル!!

 

スロバキアからすればあと2分弱耐えていれば初の準々決勝進出が見えていただけに落胆の色を隠せない一撃となったが、一発勝負のトーナメントの、それも負けている状態のエクストラタイムでこのようなアクロバットを決めるベリンガムの主人公性には恐れ入った。 

 

 

延長戦

 

延長始まって間もない91分、イングランドは右サイドで得たFKから始まるチャンスから一度相手にクリアされたセカンドボールをエゼがダイレクトでゴール前へ蹴り返し、後半ATから出場していたトニーが上手くボールをファーサイドへ頭で折り返すと、ここまで決定機を逃していたエースストライカーが遂にゴールネットを揺らした。

 

同点弾も勝ち越し弾もセットプレー関連で生まれたとあって無駄に足元で繋ごうとせずクロスやロブパスで早めに前線の選手にボールを集めろという世論?では無いがスリーライオンズサポーターに根強く支持される論調が正しかった事も証明された。

 

イングランドはケイン,トニーの2トップにMF3枚の5-3-2、追いつかなければならないスロバキアはDFラインの前をロボツカ1人で何とかする3-1-5-1で前線の枚数を増やして機会があれば積極的にボックス内にクロスを入れていく。

 

イングランドウイングバックの経験値に乏しい選手を両サイドに入れている事もあってシンプルにペナルティボックス角付近からファーポスト向かって上げるクロスは有効であり、105分にはペカリークに決定的なチャンスが訪れるもタイミングを合わせられず。

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スロバキアは延長後半にもボジェニクのシュートがサイドネットに突き刺さるなどいくつか見せ場はあったものの、同点ゴールのショックが癒えないまま入ってしまった延長前半最初のプレーが尾を引いて惜しくもラウンド16で大会を去る事に。

 

 

【Match Review】スペインvsジョージア

ベンチ入り

スペイン
1 Raya, 4 Nacho, 5 Vivian, 6 Merino, 9 Joselu, 10 Dani Olmo, 11 Ferran Torres, 12 Grimaldo, 13 Remiro, 15 A.Baena, 18 Zubimendi, 21 Oyarzabal, 22 J.Navas, 25 F.López, 26 Ayoze Pérez

ジョージア
1 Loria, 5 Kvirkvelia, 8 Zivzivadze 9 Davitashvili, 11 Kvilitaia, 12 Gugeshashvili, 13 Gocholeishvili, 14 Lochoshvili, 16 Kvekveskiri, 18 Altunashvili, 19 Shengelia, 23 Lobjanidze, 24 Tabidze, 26 Sigua

 

 

前半

 

 

大会中のベストメンバーを固められていて戦い方も明確な両チームの対決。序盤からスペインがジョージア陣内を制圧するような展開となり、ハーフコートマッチの様相を呈したため、自陣側のゴール裏にいるスペインサポーターは常に遠くを見続けるような状況だった。

 

ジョージアはミカウタゼ以外の全選手が自陣ペナルティボックス内に入ってとにかくゴール前に空間を与えさせないという徹底した姿勢を見せるが、それでもスペイン両ウイングの個の力やカルバハル,ククレジャの巧みなサポートでサイドから打開され鋭いクロスをゴール前へ入れられ続けていつ失点しても不思議ではない状況が続く。

 

ただ、そんな状況ですら何とかしてしまいそうに思えるほどに圧倒的なショットストップ能力を見せるママルダシュヴィリが彼らの最終防衛ラインには待ち構えているため、スペインも簡単にはゴールネットを揺らす事が出来なかった。

 

フィニッシュワークのパターン練習が行われているのかという位に一方的なスペインのポゼッションが続いた試合に転機が訪れたのは18分のこと。

 

自陣左サイドでボールを持つジョージアはスペインの前線プレスをクヴァラツヘリアの瞬間的な往なしの技術で回避し、そこから斜めのパスを受けたミカウタゼが力強いキャリーでピッチを横断しながら右サイド大外に待つカカバーゼに絶妙なパスを送る。カカバーゼは少し早めのタイミングでゴール前に低弾道の高速クロスを蹴り込み、戻りながらの対応で上手くクリアする為の体勢を作れなかったル・ノルマンのオウンゴールという形で押し込まれていたチャレンジャーがワンチャンスを活かし先制。

 

スペインにとって不幸中の幸いだったのは失点した時間帯が比較的早く、いくらでもチャンスを生み出せるというポジティブな切り替えをしやすかった事だろう。実際に失点の前後でプレーの精度に変化は無く、ビハインドになっても淡々とサイドから打開してゴール前にボールを送り続ける事を徹底していた。

 

一方のジョージアはゴールエリアにさえ侵入されなければママルダシュヴィリが何とかしてくれるという思い切りの良さでスペインのクロスやDFラインを前に釣り出す為のミドルシュートを凌ぎ続け、ゴールキックや低い位置のFKからのリスタートでは丁寧にボールを繋ぎながら更なる成果を狙ったが、39分のロドリの左足の正確なミドルで遂に追いつかれてしまう。

 

 

後半

 

開始しばらくは相手のパスのズレやディフェンシブサードで奪ってからのミカウタゼ,クヴァラツヘリアの推進力でカウンターチャンスを作るジョージアペース。自陣ゴールマウスから大きく飛び出していたウナイ・シモンに冷や汗をかかせた48分のクヴァラツヘリアのロングショットが決まっていればその後の展開も違ったかもしれない。

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序盤の波を乗り越えたスペイン。ヤマルがダイアゴナルのテイクオンでゴール正面の位置でFKを獲得すると、直接ゴールを狙った左足のキックはママルダシュヴィリの好セーブに阻まれるが、セカンドボールを回収して攻撃続行。右サイドに戻っていたヤマルはファーポストに向かうような左足のカーブクロスを蹴り、相手CBカシアの背後から抜け出したファビアン・ルイスがノンプレッシャーでヘディングシュートを放ち勝ち越し弾が生まれた。

 

こうなってしまえばラ・ロハのターンであり、ジョージアもカウンター対応にツッコミどころのあるスペイン両CBの隙を突きたいところだがククレジャ,カルバハルの献身性と非常に身体が動いているファビアン・ルイスカバーリングなどで常に複数人の選手に囲まれる状況のためにゴール前が見た目以上に遠いという状況。

 

スペインのゴールがオフサイドで取り消された事で更なる失点は避けてきたが、それもファビアンのロングパスで抜け出したニコ・ウィリアムズの圧倒的な個の前に崩れ去り、75分の追加点でビハインドは2点に広がる。

 

とどめは途中出場のダニ・オルモが軽快な身のこなしとタイミングを外したコントロールショットで心を折り、スペインは4-1でドイツが待つ次のラウンドへ駒を進めた。

 

高い得点力を見せてきたドイツ,スペインの直接対決は準々決勝の目玉になること間違いなしで、キーマンはムシアラとニコのウインガーになるだろう。オンボールのみならずオフボールでも違いを生み出せる彼らが共に不安定な箇所を抱える相手のバックラインの急所を突けるかどうかで試合の難易度は大きく変わってくる。

 

 

【 #Euro2024 】イタリアのお株を奪うスイスのモダンな3バックシステム

ウイングバックのポゼッション時の中盤化というのは今大会の隠された裏テーマでありトレンドなのかもしれない。

 

 

 

【Match Review】スイスvsイタリア

 

ベンチ入り

スイス
2 Stergiou, 4 Elvedi,6 Zakaria, 9 Okafor, 11 R.Steffen, 12 Mvogo, 14 Zuber, 15 Zesiger, 16 Sierro, 18 Duah, 21 Kobel, 23 Shaqiri, 24 Jashari, 25 Amdouni, 

イタリア
3 Dimarco, 4 Buongiorno, 6 Gatti, 7 Frattesi, 8 Jorginho, 10 Pellegrini, 11 Raspadori, 12 Vicario, 15 Bellanova, 19 Retegui, 20 Zaccagini, 24 A.Cambiaso, 25 Folorunsho, 26 Meret

 

前半

 

 

3CBにこだわっているように見えたアズーリはここに来ての4バック、スイスはフリーマンとしてトップ下に入れていた大エースのシャキリを起用せずシンプルな3-4-2-1で右WBにはアタッカーのエンドイェが入る。

 

前評判とは異なり、試合の主導権を握ったのはスイス。イタリアの中盤3枚の守備強度不足、特にアンカーでの試合経験の乏しいファジョーリの周囲を狙ってボールを集め、なおかつクリスタンテのトランジションとアンカー脇を埋める意識の低さ、バレッラが試合序盤に脚を痛めて本来のパフォーマンスを発揮出来てなった事も彼らにとってはプラスに作用し、苦労せずアタッキングサードでボールを持てるような状況が多くなった。

 

スイスは左右で相手陣内でのポゼッションに大きな違いがあり、右サイドはファビアン・リーダーがハーフスペースに入って大外ではエンドイェの推進力を活かすというシンプルな造りである一方、左はWBのアエビシェールが内に入ってアタッカーのルベン・バルガスは1on1の質的優位性でディ・ロレンツォを圧倒。WBが内に入った分薄くなる後方サポートには左CBのリカルド・ロドリゲスが入り、この3者の役割は流動性を持たせているのでイタリアは中々マークを整備する事が出来ず。

 

アエビシェールのWB起用はキミッヒをフルバックで起用してプレッシャーの薄い所にプレイメイカーを置くドイツ,或いはFCバイエルンと同じ狙いがあり、実際に24分には彼のロブパスからエンボロが裏抜けしてGKと1on1になるビッグチャンスが生まれており、イタリアはMFとDFのラインの間にアンカーが入る4-1-4-1なので1の周囲にどうしても空間が生まれてしまい、スイスの大外に張る選手やアンカー脇を突く選手への対応が後手後手に。

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37分、スイスは相手陣内でのポゼッションから、ゲームを通してマンチーニに対して優位性があるエンボロがアカンジからのラインブレイクの縦パスを収め、ここに内側に寄ってサポートに加わるエンドイェがボールを中継して左外のバルガスへパスが渡る。バルガスはタメを作りながら味方の攻撃参加を待ち、フロイラーがタイミングよく相手のアンカー脇に走り込んた所にグラウンダーのクロスを送ると、最後はスイス中盤のハードワーカーが見事なボレーを叩きこんだ。

 

戦術的な噛み合わせで負けているイタリアだが、更に厳しいのはダルミアンvsエンドイェ、ディ・ロレンツォvsバルガスと両サイドのデュエルで劣勢に回っている点。ダルミアンをLBで起用した意図は正直分からないが、エル・シャーラウィ含めて人選を一新した左の縦ユニットは全くと言っていいほど機能していない。

 

また、イエローカード累積で出場停止だったカラフィオーリはともかく、不慣れなファジョーリアンカーに踏み切ってまでジョルジーニョを控えに置いた理由は一体何だったのか、この試合のルチアーノ・スパレッティにはアズーリに精通しているわけではない私ですら疑問に思う判断が多く、初戦のワクワク感は一体へ何処へいってしまったのかと困惑した。

 

 

後半

 

イタリアのキックオフプレーで前線へのロングフィードを狙っていたであろうファジョーリのキックが短くなっていきなりスイスが高い位置でのポゼッションを得る。ゲームの立ち上がりだったからかイタリアのネガティブトランジションはかなり遅く、ボックス内左45度ほぼノンプレッシャーで横パスを受けたバルガスはゴールマウス右上を狙いすましたコントロールショットでドンナルンマの牙城を破った。

 

自分たちのエラーでリードを広げられてしまったイタリア。後半からはエル・シャーラウィを下げてLWにクロアチア戦のヒーロー,ザッカーニを投入し中盤構成をアンカー+CM2枚からダブルピボット+OMの形に変更しアンカー脇を使われ続けた問題に対して対策を講じた。

 

ただ、ファジョーリ,クリスタンテはそもそも純粋にセントラルMFとしての守備力に長けている訳ではなく、前者はストレングス、後者はトランジションと明確なウィークポイントがあるので劇的に何かが改善された訳ではない。

 そんなアズーリが最もゴールに近づいたのはファジョーリのロブパスをファビアン・シェアが頭で弾き返そうとしたボールが運悪くゴールポストに向かっていった52分のプレーなのだから、いかに彼らの攻撃が機能していなかったが反映されている。

 

そもそも論としてスイスはフロイラー,アエビシェール,エンドイェのボローニャ組をベースに、代表の中心選手であるジャカもレヴァークーゼンで3バックでのポゼッションに慣れているためユニット間のコンビネーションで上回っており、見方を変えればイタリアがイタリアに負けたとも言えるだろう。

 

 2点を追うイタリアは序盤の脚の怪我の影響か本調子ではなかったバレッラに変えてレテギを投入した後は4-2-4で前線の枚数を増やしてゴールを狙ったが、5-4ブロックに切り替えてスペースを潰すスイスの堅牢なブロックを最後まで突破できず、そのまま2-0で敗れラウンド16での敗退となった。

 

 

【Match Review】ドイツvsデンマーク

ベンチ入り

ドイツ
5 Groß, 9 Füllkrug, 11 Führich, 12 O.Baumann, 13 T.Müller, 14 M.Beier, 16 W.Anton, 17 Wirtz, 18 Mittelstädt, 20 Henrichs, 22 Ter Stegen, 24 Koch, 25 E.Can, 26 Undav

デンマーク
4 Kjær, 7 M.Jensen, 12 Dolberg, 13 Zanka, 14 Damsgaard, 15 Nørgaard, 16 Hermansen, 17 V.Kristiansen, 19 Wind, 20 Y,Poulsen, 22 Rønnow, 24 Dreyer, 25 R.Kristensen, 26 J.B.Larsen

 

 

前半

 

 

ドイツは4-2-3-1、出場停止のヨナタン・ターに代わる左CBとしてW杯の日本戦ですっかり評価を落としてしまったシュロッターベックに汚名返上のチャンスが巡ってくる。他にはLBにミッテルシュタットではなくよりキック精度にパラメータを振ったラウム、RWには左利きのサネを起用し所々に変化を加えてきた。

 

一方のデンマークも中盤で見事なパフォーマンスを見せていたモルテン・ヒュルマンドが出場停止なので代わりに以前のレギュラーであったディレイニーを起用。また、左サイドに降りてバック3を形成するクロース対策の面もあるのか、ここまで先発していたよナス・ウィンドではなくウインガータイプのスコヴ・オルセンを3人目のアタッカーに起用し、5-2-3↔5-3-2の併用で開催国を迎え撃つ。

 

4分、ABEMAゲスト解説の長谷部誠氏からも良い時と悪い時の差が大きいと評されたシュロッターベックがCKから豪快にヘディングシュートを決めるもGKへのファウルを取られて得点は幻に。この日の彼はハヴァーツへのミドルレンジのボールやセットプレーでのターゲットとしての仕事など非常に効いているプレーが多く、まさしく良い時の姿だった。

 

ドイツは初戦から一貫して相手DFラインの背後を使う意識が高く、リュディガーの対角線パスにハヴァーツが反応した9分の得点チャンスのように後方でボールをもっている状態から一気に相手のゴール前まで迫る事が出来る為、極端なブロック守備を敷かない限りは非常に練度の高いプレッシングを続けなければ彼らの攻撃を防ぐ事は出来ない。

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しかし、デンマークもDFラインだけがズルズルと下がってMF-DFライン間を広げてしまってギュンドアンやムシアラにスペースを与えてしまうという事は全くもってなく、ある程度の高さで最終ラインを維持し続ける。ドンピシャのタイミングで出た裏へのボールでは一度抜け出されてしまうものの、その後のリカバリーが早いのとGKシュマイケルが最後の所で踏ん張ってくれるので押され気味ではあったものの0-0でドイツにじわりじわりとプレッシャーを与えていく。

 

35分を過ぎた所で主審マイケル・オリバーは突如ゲームを止める。何があったかと一瞬戸惑ったが、会場であるジグナル・イドゥナ・パルク(ドルトムントの本拠地)上空に雷が光っていた事で事態を察し、さらに雹までふってくるとんでもない悪天候に見舞われ一旦試合は中断となった。

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20分ほど様子を見た後、雷が鳴りやんだ事を確認してウォーミングアップを挟んで試合再開というレアイベントを見届けた後、残り10分ではスコア動かずゴールレスで前半を折り返す。こんな酷なコンディションですらお祭りにしてしまうフットボールファンはとても楽しむ事が上手である。

 

 

後半

 

 

ドイツは後半キックオフから中盤及びバックラインの動かし方に少し変化を加え、クロースが左に降りるのではなく彼を中央に残してアンドリッヒがCB2枚の間に落ちるバック3へ切り替えた。理由としてはクロースに対するマークを混乱させるという攻撃面と被カウンター時の守備強度を懸念した守備の面の両方が考えられる。

 

48分、デンマークは敵陣で獲得したFKから始まるセットプレーのチャンスでゴール前の混乱状態を作り出すと、アンデルセンがこぼれ球を左足で押し込んだ。

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しかし、彼が反応したこぼれ球のキッカケになったディレイニーのシュートの際、ほんの僅かに左足が飛び出ていたとして得点は取り消されてしまう。

 

更に彼の悲運は続く。ドイツはリスタートから手数をかけずシュロッターベックのロングフィードでムシアラを走らせてカウンターチャンスを作ると、デンマークも一度はボールをゴール前からクリアするがラウムリカバリーされ、スタメン出場の機会を得たLBのクロスはバランスを取るために無意識的に出ていたアンデルセンの右手に当たってPKのジャッジが下される。

 

PKテイカーのハヴァーツはコースを読まれながらも好調シュマイケルの手が僅かに及ばぬコースにボールを流し込んでドイツが先制点を奪った。

 

59分にはアンデルセンとヴェスターゴーアがダブルコミットしてパスを受けるハヴァーツへの守備対応が中途半端になったところからドイツに追加点のチャンスが生まれるが、前に出てきたGKの上を狙ったループショットは僅かに枠を逸れてデンマークは命拾い。

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攻撃面ではホイルンドのボールキープ力や反転の巧さなどを活かす形でエースストライカーにボールを集めるが、ドイツの非ボール保持での5-3-2化によってWBが攻撃参加した際のギャップを生み出せなくなる。

 

68分、シュロッターベックのロングフィードに対し、一度マイナス方向への動きを入れてアンデルセンを釣り出したムシアラが完全に抜け出して状態でこれを収めると、斜めに侵入していってGKシュマイケルとの1on1を冷静に決めきってドイツ追加点。

 

5バックでリスクをかけずに相手の陣形が乱れたところにロブパスを入れていくドイツに対し攻略の糸口を掴めないデンマーク。高身長の選手が集まっていて得点の脅威になるCKでもギュンドアンに変えて投入されたフュルクルクが守備面でも競り合いの強さを発揮してニアポスト前でボールを弾き返すなど相手の交代策・修正力に上回られてしまい、80分過ぎには前回のEUROでチームのエースだったドルベアなど一挙3選手を投入するがノイアーの牙城を崩す事は叶わずラウンド16で大会を去る事に。ドイツはカウンターから途中出場のヴィルツがゴールネットを揺らしたがオフサイド取り消されている。

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終盤のデンマークに1つだけ注文をつけるとすれば、しっかりと自分たちの戦い方を貫いた上で、それ以上にドイツ代表の質が高かったという試合なのでやれる事はそれほど多くなかったと思うが、アディショナルタイムに入ってからようやくヴェスターゴーアを前線に上げてロングボールを多用するようになった点について、高さでは確実にこちらが上だったのでもっと早くこの決断に踏み切るべきだった。