*EURO2020 グループF Matchday3 ポルトガルvsフランス戦の記事です。
最も苦手にしていると言ってもいいドイツ相手に4失点、右サイドの守備をまるで改善出来ず痛恨の大敗を喫したポルトガル。
ハンガリー相手の3得点のお陰でフランス戦ではハンガリーが勝利しなければ3点差敗北までは許容される状況ですが、自力でのトーナメント進出を決める為にもフランスに対し引き分け以上の結果が欲しいところ。
▼ポルトガルのここまで2試合
一方、優勝候補筆頭のフランスはドイツとのビッグマッチにマッツ・フンメルスのオウンゴールで勝利すると2戦目はホーム6万人の大声援を背に戦うハンガリーにドロー。
決して順調とは言えない歩みですが既に決勝トーナメント進出は決めています。
個の力は抜群なのですがここまでの試合を見ていると崩しのパターンが個人技頼みなので引かれた相手から得点を奪うのは難しいように見えます。
ただ、ポルトガルはどちらかと言えば打って出るチームなのでこの1戦に限ってはこの懸念は心配しなくて良さそう。
スタメン
ポルトガルはようやくダニーロ-ウィリアンのダブルDMに見切りをつけてここまでの2試合で4-3-3を採用したフランスに合わせてミラーマッチ想定か。
本大会に入ってからブルーノ・フェルナンデスを全く生かせなかったのは大きな損失ですがこの布陣はバランスのとれたものだと思うので好結果に期待。
一方のレ・ブルーは過去2試合とは異なりポグバ-カンテを3列目に置いた4-2-3-1。
ポルトガルの左サイドを警戒してなのか右サイドはトリッソ、クンデとかなりディフェンシブな選手を起用しています。
このチームは連動性という分野ではそれほど優れている訳ではないので、ポグバやヴァランからのロングパス一本でエンバぺ、グリーズマン、ベンゼマが裏に抜け出すパターンが主な得点源。
鍵を握るのはセメドvsエンバペのマッチアップ、そしてレナトとポグバのフィジカルモンスターの中盤での主導権の取り合いも注目です。
試合内容
ダニーロ-ウィリアンの機動力という意味であまりにも不足しすぎた組み合わせから脱却しバランサーのモウチーニョ、推進力の高いレナトがスタメンに入った事でかなり攻守両面でスムーズになったポルトガルは序盤からW杯王者を自陣に押し込む割合が多い上々の立ち上がり。
ただ、一発の怖さという意味ではフランスに分があり、16分にはポグバのロングパス一本でエンバぺにビッグチャンス。
ネルソン・セメドにとってはドイツ戦に続きタフな状況が継続される事になりましたがエンバペがボールを保持している場面ではよく対処していたと評価したい。
ポジショニングやオフザボールの動きへの対処は相変わらずでしたが……
余談ですが、会場はハンガリーのブダペスト。一際大きな声援が上がったタイミング=同時刻にドイツのミュンヘンにて試合を行っているハンガリーの得点という事で、一風変わったネタバレを食らうというある意味フットボールの醍醐味のような出来事もありました😏
フランスはベンゼマが形の上では1トップに入っていますが実際にはフォルスナインのような動きで中盤の組み立てにも降りてくる事が多く、彼の元居たスペースをエンバぺが利用する形でポグバから一発のロングパスというプレーがこの試合では何度もありました。
10分の攻撃は少しパスが伸びてGKに取られますが続く16分には同じ形からエンバぺに両チーム通じてこの試合初のビッグチャンス。
ポルトガルの守備に目を傾けると、ドイツ戦では両ウイングが守備にあまり戻らず高い位置に留まる事が多く大量失点の一因でしたがこの試合ではベルナルド、ジョタが最終ラインに吸収されるような形で場合によっては6バックでフランスに対応。
追い詰められてからようやく本気を出すポルトガルクオリティは今大会も健在で、"これが出来るなら最初からやってくれ"と少し嘆きたくなる気持ちもありましたがこの献身性もあって試合の主導権はポルトガルの手にありました。
マテウ・ラモス久々の大暴れ?
先制点はポルトガル
26分に3人目の動きを多用する小気味良いパス交換でミドルサードを攻略するとレナトが中央やや右寄りでFKを獲得。
このFKでウーゴ・ロリスがやや苦手としているハイボール対応で後手に回り、ボールを狙ったつもりがダニーロ・ペレイラの頭に向かってパンチングしてしまいポルトガルにPKが与えられます。
かなり危険なプレーだったのでロリスにはレッドカードが出されてもおかしくないシーンでしたが提示はイエロー。ダニーロはその後プレーに復帰しますが結局HTで交代しているので頭や首へのダメージが心配なところ。
肝心のPKに関してはクリスティアーノ・ロナウドが大胆にもど真ん中を狙うキックでロリスをあざ笑うかのように逆を取って得点ランキング単独1位となる今大会4点目!
自身が持つEURO本大会の通算得点記録もまた1つ更新して13としています。
この時点で裏のドイツ-ハンガリーは後者リードで進んでいたので暫定順位は1位ポルトガル⇒2位フランス⇒3位ハンガリー⇒4位ドイツ。
ポルトガルにとっては天敵がグループステージで姿を消す最高の状況でした。
先制後のポルトガルはフランスの重心が前に傾いた事もありショートカウンターからアタッキングサードに侵入する頻度が増加します。
フランスはファウルで止めるしかない場面も多くなり36分にはベルナルド・シウバのドリブル突破を腕で塞いだリュカ・エルナンデスがチーム2人目のイエローカード。
更には39分にはダニーロに激しいチェックを行い主審マテウ・ラモスに呼びかけられたグリーズマンが手を上げる仕草でこれを無視するような反応を取り、審判への反発にはかなり厳しいジャッジをする事で知られるラモスはすかさず7番にイエローを提示。
前半だけで3枚もの警告を貰ったフランス。
後半に入り結果的にはこれがおおきく響きあるトラブルを招くことに。
それは一旦置いておくとして再び試合が動いたのはまたしてもPK。
45分のフランスはエンバぺがポグバヘ一旦ボールを戻すと急加速して斜めのランでDFとGKの間へ走り、ポグバからワンツーの形でロブパスが出ます。
エンバぺをマークしていたセメドは思わず後ろからプッシュしてまい、正直かなりDFに厳しい判定でしたが判定はペナルティキック。
キッカーは久々の代表復帰もここまで無得点のカリム・ベンゼマ。
彼はPKの際にほぼ左側にしか蹴らない事で知られていてレアル・マドリー時代に同僚だったペペやロナウドはそれを把握していたと思いますがGKルイ・パトリシオは右に飛んでフランス同点。
この直後にペペがかなり激しい口調でパトリシオに話しかけているシーンがカメラに映し出されていました。
前半は1vs1で折り返し。
後半開始直後にベンゼマ勝ち越し弾
先述の通り、ダニーロがおそらくPKになった場面でのダメージを考慮し前半いっぱいで交代。
代役は私も今回のメンバーではイチオシだったスポルティングCPのパリーニャ
189cmと非常に大柄のDMで機動力もダニーロとウィリアンを遥かに凌ぎ、タイプとしては所謂ピボーテに分類される選手。
懐の深さを生かしたボールキープやキャリーはネマニャ・マティッチを彷彿とさせるものがあり、マクトミネイとの年齢層の被りに目を瞑ればマンチェスター・ユナイテッドの補強候補としても合致するところが多いと思っていますが、それはまた別の機会に。
フランスの方も前半にイエローを貰ったLBのリュカ・エルナンデスに替えてエバートンで複数シーズンに渡り安定した成績を出しているリュカ・ディーニュを投入。
しかしディーニュは開始5分足らずでおそらくハムストリングを痛めてプレー続行不可の大誤算。
この緊急事態でLBに入ったのは中盤のプレイヤーであるアドリアン・ラビオでした。
結論から言えば不慣れなポジションに関わらずラビオは綻びを見せない堅実なパフォーマンスだったので致命傷には至りませんでしたが、試合後の会見でディディエ・デシャン監督の口から今大会中の復帰は難しいと明言されたのでフランスのLBはトーナメントでアキレス腱になるかもしれません。
さて、試合の方に話を戻すとフランスは47分にポグバのハーフウェーライン付近からのロングパスでルベン・ディアスを出し抜いたベンゼマがこの日2点目となるシュートを決めてフランスが勝ち越し。
マン・シティでは加入直後からDFリーダーとなりプレミアリーグシーズンMVPに輝いたディアスでしたがEURO2020ではやや不調気味。
呆気なく裏を取られる場面も少なくないのでやはり公式戦50試合、計4,330分に出場した疲労が溜まっているのかもしれませんね。
Data
ロナウドがアリ・ダエイの世界記録に並ぶ代表通算109ゴール目をマーク
前半相手を押していながらフランスの個人技によってこの時点でグループ最下位に転落したポルトガル。
それでもEUROデビューのパリーニャ→ロナウドへの正確なロングパスを起点にした攻撃で58分、この試合チーム2つ目のPKを獲得。
🇵🇹 PORTUGAL 1- 2 FRANCE 🇫🇷
— TF1 (@TF1) June 23, 2021
58' - Pénalty pour le Portugal ! Cristiano Ronaldo centre et Koundé détourne le ballon de la main : l'arbitre n'hésite pas... #FRAPOR pic.twitter.com/LWraEvFs4f
クンデは何故だか手を不自然に上げてしまい、これは流石にルール改定後でも問答無用のハンドボールなので勿体ないプレーでした。
クリスティアーノ・ロナウドは1つ目同様に左側、コースはサイドネットに突き刺さる完璧なキックで大きなプレッシャーのかかるPKを難なく成功しゴール後はお決まりのこのパフォーマンス。
遂にイランの英雄アリ・ダエイの記録に並ぶポルトガル代表での通算109点目を挙げ、クラブのみならず代表戦でも世界の頂点に立ちます。
試合のレベルで言えばアジアよりもより厳しい環境であるヨーロッパでこの大記録を樹立したのは本当に快挙としか言いようがありません。
109ゴールという数字はクラブレベルでも現役生活通算の数字としてよくやったと言われる部類の数字なので、今後ロナウド程のゴールマシンがフットボール界に現れるとは思えないくらい傑出したスタッツです。(マンチェスター・ユナイテッドで例えるとマーカス・ラッシュフォードがクラブ通算88G、アントニー・マルシャルが通算78Gなのでロナウドの記録の異質さがよく分かると思います。)
再び同点になった試合は67分にポグバのインフロントにかけた横回転のミドルシュート、そのこぼれ球をグリーズマンとポルトガルの大ピンチもありましたがここはルイ・パトリシオのビッグセーブ2連発で何とか凌ぐことに成功。
パリーニャの印象的なプレーは71分。キングスレイ・コマンのドリブルをスライディングで阻止。その後カンテとのボールの奪い合いも制しボールを保持した後はワンツーを挟みポグバの股を通すと1人でフランス中盤のプレスを外してカウンターの起点に。
🗣️ "Dei tudo o que tinha de mim, foi o que o mister me pediu".
— Sporting Clube de Portugal 🏆 (@Sporting_CP) June 24, 2021
E se haviam dúvidas de que a estreia do João Palhinha no #Euro2020 foi incrível, aqui fica uma pequena prova. 😉#LeõesNasSelecções
🎥 @RTP1 pic.twitter.com/gpRGUute0O
この攻撃は得点に繋がりませんでしたが、世界一のペア相手に1人で崩せる選手はそうそういないのでトーナメントでも彼をスタートから起用して欲しいという想いがより一層強まるの巻。
終盤に入ってもポルトガルのインテンシティの高さは変わらず、得点こそ生まれないものの非常に見ごたえのある試合でしたが後半ATには途中出場のブルーノ・フェルナンデスが自陣ボックス内でコマンを倒しあわやPKという場面にヒヤリとさせられます。
個人的な順番で言えば
- ダニーロへのパンチング
- ブルーノのプレー
- クンデのハンド
- セメドのファウル
というくらいにはこのプレーは笛が吹かれると覚悟しました……
最後の数分は先にドイツ-ハンガリーが引き分けに終わった事もあり、フランスがパスを回してポルトガルもそれに乗るような形で終了。
▼死のグループF最終順位
1位:フランス⇒勝ち点5 得失点差+1
2位:ドイツ⇒勝ち点4 得失点差+1
3位:ポルトガル⇒勝ち点3 得失点差+1
(トーナメント進出ライン)
4位:ハンガリー⇒勝ち点2 得失点差-3
*ポルトガルとドイツの順位は直接対決の結果により決定
動画ハイライト
選手交代
72分 in:ブルーノ out:ベルナルド・シウバ
73分 in:ネベス out:モウチーニョ
79分 in:ダロト out:セメド
フランス
46分 in:ディーニュ out:リュカ・エルナンデス
52分 in:ラビオ out:ディーニュ
66分 in:コマン out:トリッソ
87分 in:シソコ out:グリーズマン
データ
スタッツは互角。
xGもポルトガル2.21-フランス1.86(Sofascore)と僅差の試合でしたがどちらかと言えばポルトガルの方が内容は良かったと思っています。
理由としてはキリアン・エンバペをほぼ完封できたこととトーナメントに向けて新戦力の発掘に成功したというこの2点。
後半から出場したパリーニャはパス成功率88%、ドリブル4/4成功、ロングパス3/5成功と攻撃面ではウィリアンとダニーロを遥かに凌ぐ結果を出し、守備でもデュエル勝率7/8、タックル成功3回と上記2人の対人の強さに勝るとも劣らないスタッツ。
また、ネルソン・セメドはキリアン・エンバペにほぼ仕事をさせず、PKは残念でしたがそれを除けばエンバペに遅れを取ったのは恐らくオフサイドであっただろう16分の裏抜けくらい。
後半に足を負傷しダロトと交代でピッチから退いたのは不安要素ですがドイツ戦の大失態の分を取り戻すとまではいかないものの、ある程度信頼を取り戻したのは確かでしょう。
フランスからはポール・ポグバをピックアップ
キーパス3、ビッグチャンス創出2回は共にピッチ上最多の数字で67分のシュートは惜しくもパトリシオの好守に防がれましたがレ・ブルーのMVPは間違いなくこの男です。
両チーム最多の103回のタッチを記録している事からもチーム内での彼への信頼度が伺えますが、逆に言えばポグバをマンマークで潰されるとフランスの組み立て・チャンスメイクは大きく質が低下するので、彼の個人能力に頼らない攻撃の構築がフランスの課題でもあります。
あとがき
ロナウドがロナウドたり得るわけというのがよく分かるPK2得点だったので守備の貢献などを理由に彼をラインナップから外そうとする考えはやはり理解できない。
フランスは不要なイエローを複数枚貰ってしまい、特にLBはリュカが次戦でもう一枚提示されると準々決勝ではスタートからラビオをこの位置で使うハメに。
ラウンド16はルーマニアの首都ブカレストでスイスとの対決なのでイングランドと戦うドイツ、ベルギーと戦うポルトガルと比べればやや楽なカードではありますが、スイスと最後に戦ったEURO2016ではスコアレスドロー、通算でもフランス16勝-スイス12勝-10引き分けとフランス目線ではやや苦手にしている方のチームなのでまさかまさかの結末も考えられます。
ポルトガルは圧倒的攻撃力のベルギーとの対決ですが赤い悪魔には30年以上敗戦しておらず、相性で言えば希望を持てる対戦カード。
それでもグループステージの戦いぶりを見るとベルギー優勢であることには違いないので簡単なミッションではありませんがロナウドがアリ・ダエイの記録を越して単独1位になる決勝点を挙げてくれると信じています。