*EURO2020 ラウンド16 ウェールズvsデンマーク戦の記事です。
2日間の小休止を経て再開するEURO本大会。
トーナメントに入って最初の試合はグループAを2位で勝ち抜いたウェールズとグループリーグ第3戦で劇的な大量得点から逆転でのノックアウトステージ進出を決めたデンマークの対戦です。
この2チームの対戦成績はウェールズ4勝-デンマーク6勝とやや後者が優勢で、直近2試合のどちらもデンマークの勝利で終わっているので前評判で言えばデンマークの方に分があると考えられます。
スタメン
GKはレスターの1st、2nd対決となりましたが今大会のパフォーマンスだけで言えばウォードはカスパー・シュマイケルを凌駕する活躍。
ウェールズは前回のイタリア戦からアンパドゥをレッドカードの出場停止で欠き、デンマークはユスフ・ポウルセンとダニエル・ヴァスの主力2人がそれぞれ怪我と病気で欠場とお互いに重要なプレイヤーを欠いた中で行われるこの1戦。(クリスティアン・エリクセンも勿論含まれますが)
ウェールズは4-2-3-1、デンマークは3-4-2-1スタートの予想。
ウェールズは相手WBとCMの間のスペース、デンマークはドイツ-ポルトガル戦の前者のように大外の選手をどこまで活用できるかがこの組み合わせでは1つのポイントになりそうです。
試合内容
会場はオランダはアムステルダム ヨハン・クライフ・アレーナ。
ウェールズからの入国は認められなかったので会場はデンマークサポーターの数が圧倒的多数です。
前半:デンマークの修正の速さが光る
序盤はベイル、ジェームズがサイドで起点を作り、特にベイルがアタッキングサードでフリーになる場面の多かったウェールズ。
実際に最初の15分間でウェールズはシュート6本、デンマークは1本と完全にドラゴンズペースでした。
理由としてはジェームズ、ベイル、ラムジーがかなり流動的にピッチの左右広い範囲に顔を出す攻撃に5バック気味で後ろに比重を置いた3-4-2-1でスタートしたデンマークのCM2枚(ホイビェアとデラネイ)が対応しきれなかった事が一因だと考えられますが、デンマークのカスパー・ヒュルマンド監督はこの問題の修正が非常に迅速かつ的確でした。
大体15分を過ぎた頃からデンマークはクリステンセンをアンカーに一列上げ、WB2枚を少し下げた4-1-2-3のような陣形に変更。
ウェールズはオーソドックスな4-2-3-1で守備時には両ウイングとムーアが前3枚でプレスをかけるのでこの変更により常に1枚余らせた状態でのビルドアップが可能になり、守備でも中盤のミスマッチが解消されたので徐々にデンマークが優勢に。
先制点は27分。
アヤックス時代には同クラブOBのズラタン・イブラヒモビッチ2世とも称されたカスパー・ドルベアのミドルシュートでデンマークがリードを奪います。
勿論ドルベアのゴラッソだったのですがその前のヨアキム・メーレの斜めのパスが勝負を決めたワンプレーでした。
32分にもデンマークはエリクセンの抜けた穴を感じさせない活躍を続けるミッケル・ダムスゴーアとトーマス・ディレイニーのワンツー、ATには右サイドからファーサイドを狙うクロスにメーレのシュートとゴールを脅かすチャンスを複数作り前半はデンマーク1点リードの折り返し。
ウェールズは38分にここまでRBとして全試合に出場しているコナー・ロバーツがライン際のボールに足を伸ばして追いつこうとした際に右足を過伸展してしまい負傷交代に追い込まれるなど不運も重なり先制を許した後は正に踏んだり蹴ったり。
後半:ダニッシュ・ダイナマイトの再来
後半に入り48分には右サイドからマルティン・ブレイスウェイトが縦に突破し折り返しのボールをロバーツに代わりRBに入ったネコ・ウィリアムズが信じられないようなクリアミス。そしてこれがドルベアへの完璧なラストパスになってしまいデンマークは追加点を思わぬ形で得ています。
比較的早い時間に2点のリードを奪ったデンマークは負担の大きいディレイニーとデムスゴーアを下げ、70分には殊勲のドルベアもアンドレアス・コーネリウスと交代させる見事なトーナメント・マネジメント(ガレス・サウスゲート監督の受け売り)。
75分にはDFリーダーのシモン・ケアーがハムストリングと思われる箇所を痛め、そのまま77分にヨアキム・アンデルセン(デンマーク語ではアナ―センと呼ぶらしい。つまりアンデルセン童話もアナ―セン童話)に後を託しピッチを退くアクシデントもありましたが、ウェールズがハリー・ウィルソン、デイビッド・ブルックス、タイラー・ロバーツと攻撃的なカードを続々と切って圧力をかけた際には再びクリステンセンをCBに戻して5バック気味に戻すなど最後まで油断を見せません。
終盤はカウンターから何度も決定機を作り、86分のヨアキム・アンデルセンのシュートは僅か数センチ枠の外に逸れますが88分にはRBに移っていたメーレが途中出場マティアス・イェンセンの正確なファーサイドへのロングパスから3点目。
更にAT4分にはメーレの浮き球⇒コーネリウスの落としからここまでゴールを奪えていなかったブレイスウェイトがダメ押しの4点目を決めてゲームセット。
ウェールズは90分にハリー・ウィルソンがレイトタックルで一発レッドになるなど最悪の試合になってしまい、結局15分以降はデンマークの陣形変更に翻弄されてほとんど持ち味を発揮できずEUROを去る事に。
選手交代
40分 in:ネコ・ウィリアムズ out:C.ロバーツ
59分 in:H.ウィルソン out:J.モレル
78分 in:T.ロバーツ、ブルックス out:ムーア、ダニエル・ジェームズ
60分 in:M.イェンセン、ノアゴーア out:ディレイニー、ダムスゴーア
70分 in:コーネリウス out:ドルベア
77分 in:ボイレセン、J.アンデルセン out:ストリガー・ラーセン、ケアー
データ
ウェールズは枠内1本、デンマークは8本とシュート数の差以上にチャンスの質に大きな違いがあった今回の対戦。
カスパー・ドルベアはこれで代表通算得点数を9としましたが、彼は固め取りが多く、9得点の内訳は1試合2ゴール×4回、1ゴール1回となっています。
デンマークからはヨアキム・メーレの3点目をアシストしたマティアス・イェンセンをピックアップ。
プレミアリーグへの昇格を果たしたブレントフォードの中核を担うパサーで、セットプレーでも高精度のキックを持っているので1点の勝負になる機会が多いトーナメントではキーマンになり得る存在。
ウェールズ戦では30分の出場でキーパス2回、ビッグチャンスクリエイト1回の活躍でチームの大勝に大きな貢献を果たしています。
一方、ウェールズとしてはリバプールに籍を置く2選手が大きな誤算でした。
ネコ・ウィリアムズのドルベアへの実質アシストのクリアミスは正直に言えばプロレベルでは犯してはいけないボーンヘッド。ハリー・ウィルソンは判定もやや厳しかったので同情の余地はありますが、3バック⇒4バック⇒5バックと臨機応変にシステムを替えてドラゴンズを機能不全に陥れたデンマークへ抱いたフラストレーションをそのまま爆発させてしまったかのような不用意なタックル。
頼みの綱のベイルとダニエル・ジェームズもこの日は中々デンマークボックス内に侵入出来ず、ベイルのシュート3本のうち2つはゴールから20m以上離れた所から撃たされているかのようなミドルで後者もこの日は前半左サイド、後半右サイドと位置を変え局面の打破を試みましたが一歩及ばず。
ただ、ジェームズに関してはベイルが去った後のチームで間違いなく彼が顔役になると確信させるような今大会のプレーぶりだったので、ジェイドン・サンチョ加入が濃厚で今季よりも更に熾烈な争いになるマンチェスター・ユナイテッドにおけるウインガーのポジション争いでも献身性とスプリントの回数・スピードで居場所を掴んで欲しい。