※24/25 イングリッシュプレミアリーグ
マンチェスター・ユナイテッドvsリバプール戦の記事です。
致命的なまでに修正能力に欠けているというのが良く分かった試合で、何故マウント抜きでこれまでと同じ4-2-4ハイプレスが成立すると思ったのかよく分からない。その時の戦力に沿った戦い方をこれほどまでに選べないとは……
Defeat at Old Trafford.#MUFC || #MUNLIV
— Manchester United (@ManUtd) September 1, 2024
【Match Review】
Starting lineup
前半
ノースウエストダービーは4-2-3-1ミラーとなり、ユナイテッドはポゼッション時の可変で2CB+アンカーの3枚を中心にビルドアップを試みるが、リバプールのゲーゲンプレスに対して3人でプレス回避をしろというのはあまりに酷な話であり、なおかつ選手間の横と縦の距離が開き過ぎているのでパスコースも無い。
ただ、それを差し引いてもこの試合におけるカゼミロのボールプレーは悲惨な程に質が低く、更にボールロストやパスをインターセプトされるケースが何度が出ると本来いるべきポジションを放棄し相手1stプレスの背中に隠れてボールレシーブを避けようとする為、CBの前に誰もいない空間が広がっているという最悪の状況が高い頻度で発生してしまう。
相手がハイプレスを仕掛けてくる事は百も承知だったと思うのだが、ここで湧いてくる疑問は、何故Inverted-WBとして高いレベルで中盤でのプレーをこなせる2人のフルバックを大外に留まらせて宝の持ち腐れにしたのかという点だ。局所的に見ればダロトはアレクサンダー=アーノルド相手に1on1で優位性を確保したり、マズラウィも持ち前の器用さで厳しいプレッシャーを回避したものの、チーム全体で見た時にそれらが中央のゾーンの主導権を半ば放棄してまで得る価値のあるものだったかは甚だ疑問である。
これはあくまで素人意見だが、ボールサイドと反対側のフルバックが中盤にスライド、ボールサイドのフルバックがバック3を形成するという簡単なルールだけ決めてしまえば、後は各々がボール保持者に対して前向きかつプレスをかける相手の真後ろにならない場所に位置取りするという根本的な規則を徹底する事でもっと簡単にボールを前進させられる構造が作れたはず。
また、このパターンの場合フルバックが低い位置でタッチライン付近に陣取りしてしまう現象そのものが発生しないのもメリットであり、オナナの+1としての才覚もより有効活用出来る。昨季までは左右両方にこれが出来る選手を揃えられなかったので机上の空論だったものの、今のダロト-マズラウィ体制では言い訳の余地はない。
残念ながらテン・ハフ体制下では選手の拠り所となるルールが存在せず、圧倒的なボールスキルと状況判断能力を兼ね備えた卓越した個の集団によるアドリブ性の高いビルドアップが要求され、ポジショニングやボールを受ける姿勢といったディテールがいつまで経っても粗く、なおかつ前線に人数をかける事が美学のようになっている。
言うなれば誰も彼も何がしたい・するべきなのか分からないまま白紙の設計図で指揮官の脳内にだけある帆船の組み立てを求められているような状態なので、アヤックス時代の教え子の獲得に異様なこだわりを見せているのもある種納得がいく。
更に、相手陣内における守備でも前方に人数をかける際のアフターフォローが不足しており、4-2-43ラインの2列目、メイヌー-カゼミロ両脇に生じる広大な空間に対し、ウイングの立ち位置を修正するかミドル/ローブロックに切り替えるかなどといった対処がまるで見られず。全体的なディテール不足は残念ながら改善される気配がない。
もう1つ、不可解に思う点はRWにアマドを起用せずガルナチョでスタートした事。これが完全にポゼッションを捨ててウインガーをDFライン裏に走らせ続けるシャトルランスタイルならば走力とスタミナの観点から今回の両ウイングにしたのも理解出来るものの、先述のように低い位置から繋いでいこうとしているので、1人で時間を作るキープ力と周りと呼応してコンビネーションが得意な彼をベンチに置いておく判断は明らかに間違っているように思えてならない。
リバプールの方に目を向けると、新監督アルネ・スロットは自身の色を強く出すというよりはクロップイズムを継承しながら既存戦力に適した戦い方を選んでいるように現時点では見えた。その上でビルドアップでのDFラインの横の距離感やサポートに加わるGKの立ち位置が改善され、ロンドでフリックなどのアクロバティックプレーを禁止した事で話題になったようにパスも確実性の高いインサイドキックを各々が強く意識しているのが伝わってくる。
また、相手の横パスに対しての縦に飛び出るインターセプトの意識が非常に高く、CBが中盤に、CMがトップ下やFWの領域に積極的に応戦して常に奪回からのショートカウンターを狙っており、先述の通り明確な指針がなく不要な横パスや後ろ向きで止まって処理する時間も多いユナイテッドのディフェンシブサード~ミドルサードでのポゼッションは正に丁度いい獲物だった。
よって試合は序盤からリバプールのカウンターが刺さりに刺さり、6分にはフラーフェンベルフのインターセプトからスピーディーなショートカウンターでユナイテッド側のゴール前を強襲。アーノルドのシュートがゴールラインを越えて得点が認められたがVARの確認によりオフサイドで取り消しとなっている。
一方のホームチームは守備対応の脆さを持つ相手右サイドに照準を定め、ラッシュフォードやダロトが度々可能性のある崩しを見せるが、そこまでボールを運ぶ構造が確立されておらず、ビルドアップの段階で相手のプレス網に引っかかってしまうので中々自分たちが安定してボールを保持する時間を作れない。
数少ない収穫の1つはデリフトの適応力の優秀さ。ポゼッションでは無茶なパスを選び過ぎるきらいがあったものの、この試合ではリチャですらその傾向が見られた為チーム全体の問題と指揮官及びコーチ陣の指導力に対する疑念が勝り、守備面では球際の強さと自身の背後を狙うボールへの準備の速さが印象的であり、ゼロからのダッシュでよーいドンになれば話は変わるが大柄な選手にありがちな鈍重さは無かった。
35分、ユナイテッドは自陣でのボール保持において前向きで相手選手とも距離を確保出来た状況にもかかわらず、碌に首を振らずボールプレーに移行する遥か前からパスコースを決め打ちした上に複数人の間を通さなければ成立しないパスを選んだカゼミロの致命的な意思決定能力の低さでチャンスの芽を潰すどころか一気にピンチへ直滑降。リバプールは確実なプレーを徹底し、サラーからルイス・ディアスへのファークロスで先制に成功した。
先制はリヴァプール🔥🔥
— U-NEXTフットボール (@UNEXT_football) September 1, 2024
ルイス・ディアス🇨🇴は2戦連発⚽️⚽️
🏆プレミアリーグ 第3節 #マンチェスター・U v #リヴァプール
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流石にこのプレーに関しては采配の問題を超越してただひたすらにカゼミロのエラーとしか言いようがなく、バックパスの瞬間に首を振って右サイドのフリーの味方を確認していれば失点どころか自分たちの得点機会に繋がる最高の状況だったはず。ボールロスト後の中途半端な守備対応も含め、この一連の流れに私が彼を放出すべきと言い続けた理由が詰まっている。
続いて42分、先述した4-2-4プレスの穴をアリソン→ディアスのロングフィードから突いたリバプールが陣地獲得に成功。この攻撃自体は途中でボールを失い止まるが、マズラウィからの縦パスを受け反転したカゼミロに対しディアスが背後から圧をかけてボールを突っつくと高い位置でのカウンターチャンスを得る。
そして、またしてもサラー→ディアスのホットラインからゴールネットを揺らしてリードを2点に広げた。
リヴァプールが追加点👀
— U-NEXTフットボール (@UNEXT_football) September 1, 2024
再びのルイス・ディアス弾🔥🔥
オールド・トラフォードも沈黙😨
🏆プレミアリーグ 第3節 #マンチェスター・U v #リヴァプール
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上空視点の動画があったので確認するが、カゼミロはパスを受ける時点でディアスを視認しているので距離感や時間的猶予は判断出来るはずで、次へのビジョンが明確ではないのならば素直に後ろの味方に戻すべきだろう。その上、ロスト後のリカバリーも皆無で先程の失点同様今のカゼミロの悪い部分が強く出たプレー。
Brilliant, Lucho 💫 pic.twitter.com/R8FOUrrVM1
— Liverpool FC (@LFC) September 2, 2024
アウェイチームは正に狙い通りの形で相手の脆弱性を突いてリードを奪い前半を終えた。得点シーンまでのディアスはマズラウィに苦戦しあまり冴えていなかったものの、ゴールという結果で全てを帳消しに出来るのもまたFWという仕事である。
後半
あまりにも無残なパフォーマンスだったカゼミロはハーフタイムでの交代を命じられ代わりに入ったのはプレシーズンで一定の出場機会を得ていたコリアー。デビュー戦がこの相手というのは可哀想だったが、持ち前のダイナミックさやデュエルの強さを存分に発揮しており、現状アンカーを任せられるタイプでは無いがマクトミネイ的な運用をすればシニアチームの戦力になるという感触もあった。
流石にコリア―にアンカーを任せる訳にはいかず、どのようにしてハマり続けていたビルドアップに変化を加えてくるかに注目したが、結論としては2-1ベースのままカゼミロのところをメイヌーに替えただけ。コリアーがサイドに流れるので代わりにダロトが中盤にスライドする回数が増えたが、見ている限り約束事というよりはその場の判断によるもので、全体的には引っかかるべくして引っかかる前半の形が再現されるケースが目立った。
また、守備でも半端な前線プレスでぽっかり空いたダブルピボットの両脇を起点に相手の陣地獲得を許す点が変わらず、この2つの懸念事項を放置した結果が3失点目。
🔴リヴァプールが
— U-NEXTフットボール (@UNEXT_football) September 1, 2024
リードを広げる3点目🔥
この試合2アシストのサラー🇪🇬が
芸術的なカウンターを完結⚽️
これでプレミア開幕3試合連続ゴール😃
🏆プレミアリーグ 第3節 #マンチェスター・U v #リヴァプール
📺https://t.co/IQcfgHP0GD pic.twitter.com/N3qkrAeSrR
前向きである程度猶予のあったカゼミロのケースとは訳が違い、CBの前でパスを受けられる選手がメイヌー1人という状況かつ後ろ向きでのレシーブを余儀なくされている為失うべくして失ってボールロスト。そして、先程触れたダロトの中盤化が明確なルールによるものではなくその場の流れ任せというのもこの場面のポジショニングで明確になっており、完全に指揮官の修正能力の低さが露呈した失点だ。
3点ビハインドになった後にようやくアマドを投入したテン・ハフだが、時すでに遅し。タメを作りつつ自分で局面打開も出来るウインガーが入った事で明らかにチャンスが増加したが、フィニッシュワークの部分でGK正面へのシュートを連発するユナイテッドの質の低さが反撃を阻むような形で結局アリソンの牙城を突破出来なかった。
特にジルクゼーは3度いい形での得点機会に面していながらノーゴールというのは少々頂けない結果。ラッシュフォードのファークロスからの2度の決定機についてはあれでどちらも外すというのは余りにもお膳立てをした側が報われない。一方でクロスを待つ姿勢やデコイで味方にスペースを与えるオフボールなどは良かったと思うので兎にも角にもゴール数を増やして欲しいところだ。
データ
Standard
シュート数8:3、枠内シュート3本ずつと得点機会の数で言えばそれほど差が無かったが、3回のオンターゲットで3失点を喫しているように1つ1つの局面の内容が悪く、これは試合内容の方で触れたビルドアップと前線プレスの機能不全を放置し続けた末路と言えよう。
ポゼッションで上回っていても、その中で完全に自分たちに主導権のあるコントロール状態がどれだけあったかと言えばこの53:47という見かけ上の数字は実態とかけ離れており、45分間でポゼッションロスト14回、パス成功率26/37という悲惨なスタッツを叩き出したカゼミロが端的に答えを示している。
understat.comによればこの試合のゴール期待値はマン・ユナイテッド1.50、リバプール2.10と実際のスコアよりも差が縮まっている様子。ユナイテッドは3回ビッグチャンスを作り出しているが、その内2回はラッシュフォードのインスイングクロスにジルクゼーが合わせるというパターン。
ラッシュフォードとどう向き合っていくかというのは今後数年のクラブの悩みの種になる事がほぼ確実だが、強引かつ独りよがりなテイクオンから、この高いミドル・ロングレンジのキックの質を活かす為のプレーにモデルチェンジを促していく事で光明が見えてくるかもしれない。昨季から何度か思っていた事だが、ジルクゼー加入によりその思いはより一層強くなった。
Man Utd 0 : 3 Liverpool
— markstats bot (@markstatsbot) September 1, 2024
▪ xG: 1.6 - 2.36
▪ xThreat: 1.39 - 1.49
▪ Possession: 52.6% - 47.4%
▪ Field Tilt: 50.9% - 49.1%
▪ Def Action Height: 43.2 - 47.3#msbot_eng #epl pic.twitter.com/fFtcvVqRm7
あとがき
解任が現実的なものになった敗戦だと思います。これまでの2年間は「自らの哲学を実践できる戦力が不足していた」という言い分に理解を示せるスカッドでしたが、理知的なバックラインが揃ってみても結局は同じような詰まり方をするポゼッションを繰り返しており、フレンキー・デ・ヨングがいないとビルドアップが成立しませんというのがもしかするとETHの真実なのかもしれない。
スーパーマンが11人いれば強いと言われてもその条件ならばもっと結果を出せるコーチは多くいるのでは。