※23/24 UEFAチャンピオンズリーグ グループA 第2節
マンチェスター・ユナイテッドvsガラタサライSK戦の記事です。
ディフェンシブサードで人任せにする、或いは球際の攻防で毎回のように相手に優位を奪われるような選手がCBにいてはこのようなしょうもない失点も増える。更に彼らは攻撃でも相手にタックルされにくい持ち方やポゼッションでのスピードコントロールの概念に乏しく、リチャが離脱している間にいったい何勝できるのかと悲観的な見方をせざるを得ない。
— Manchester United (@ManUtd) October 3, 2023
【Match Review】
Starting lineup
ベンチにもデミルバイ,メルテンス,エンドンベレ,バカンブと一時はトップクラスの注目を集めていた選手を多く抱えるガラタサライ。怪我人の多い今のユナイテッドと比較するとスカッドでは決して劣っていない。
前半
マンチェスター・ユナイテッドはハンニバルが先発に再び戻りブルーノが空白地帯の右ウイングへ。守備はマウントの上下で4-1-4-1と4-2-3-1を使い分け、ハンニバル-ブルーノは後者の中央進出に合わせて前者が空いたスペースを埋めるのが常になっていたが、時折指揮官が指をぐるぐると回すような仕草をピッチ上の選手に見せていたのでこれはそういう指示があったのだと推測される。
ガラタサライは前線守備でGKにまでしっかりとタイトなプレスを仕掛け、上の画像で示す通りオナナがボールを持つポゼッション時の動き直しが皆無なCB2枚+カゼミロの影響もあってユナイテッドは中々ボールを繋いでミドルサード以降まで進出する事ができず、上手く行ったのはロングフィードやルーズボールをホイルンドが収めてからの疑似的なショートカウンターか両チームのトランジションの中からのチャンスくらい。
また、ヴァランもリンデロフもボールキャリーのスピードが緩急の急しか存在せず、勝手に相手との距離感を近づけて難しいシチュエーションにしたりヴァランに至っては右足でボールを持てるかる持つべき状況でも左足に拘って精度の低いパスや不必要に前に急ぐプレーが余りにも多かった。
カゼミロともどもレアル・マドリー時代は元々カウンター志向のチームスタイルかつ、ポゼッションでもセルヒオ・ラモスやトニ(クロース),ルカ(モドリッチ)頼りで自身の知性を求められる場面が少なかった事が影響しているのか、ボールプレーの判断能力やキック精度、そしてスキャニングを怠りがちで自身が引っ張っていく立場にある今のユナイテッドではそれらの拙さが全面に顔を出している。
先制点はホームチーム。
流れの中で一時的にブルーノとラッシュフォードがサイドを入れ替わっていた所から、ガラタサライの前線へのパスが中途半端になった所をDFラインでカットし、カゼミロの取りあえずロングフィードという普段は批判している選択がこの場においては前残りするラッシュフォードへの絶好のパスとなり、カウンターから最後はホイルンドが助走をつけてそのままゴールネットを突き破ろうかというパワーヘッダーで合わせ先制!!
新たなエース候補の強烈なゴールで勢いづきたいユナイテッドだったが、ダビンソン・サンチェスのなんて事の無い前線へのロングボールに対しDF陣及びアンカーのまずい対応が連続して発生し、最後はボールにアプローチするのかそれともゴールライン上でシュートへの対処に専念するのか中途半端になったオナナの頭上を越えたボールがそのままラインを越えてしまう。
まずはトランジションの遅いリンデロフ,カゼミロ。当初ヴァランの近くにいたイカルディはボールから一歩引いた姿勢を示しているが、カゼミロが余りにもゆっくり帰陣しているのでDFラインの前に広大なスペースが広がっており、リンデロフはまだマシだがシンプルにスピード面で追いつけていない。
更に、この時に誰もマークしておらず最も容易くボールを処理できるはずのヴァランはザハとの落下地点争いをするダロトに全てを委ねた上にカバーリングに入る意識も皆無とこちらも酷い対応。
そしてダロトも同情できる要素はあるとはいえボールをクリア出来ず身体を前に入れられてしまい、先に語ったようにオナナの対応にも疑問が残る本当に残念な失点。
咄嗟の判断、言い換えると思考の瞬発力を求められるケースでヴァラン,カゼミロ,マグワイア,そしてエリクセン等は時折明らかにおかしな選択を取る事があり、これはかつての正GKダビド・デヘアにも見られた現象だが、共通するのは全員が30代の選手である事で、故障からの復帰明けや十分な試合間隔が空いているケースではその頻度が少ない(除マグワイア)。年齢を重ねる事による脳の老化/劣化が理由なのだとすれば、数年後にはブルーノを筆頭に多くの出場時間を誇る他の主力たちも他人事ではないという事になるので、現段階ではただの暴論に近い推論だが頭の片隅には入れておこうと思う。
後半
ハーフタイム明けのユナイテッドはハンニバルを下げてエリクセン投入。エリクセン自体のパフォーマンスはこの試合のチーム状態を考慮すればかなり良いものだったと思うが、中長期目線で言えば彼を所謂ピルロ・ロール的な攻撃的なアンカーとして置いて回りを献身性の高いMFで固めるというやり方を試した方が有意義かつ効果的だったように感じている。それくらいハンニバルの気配りや運動量は要所で効いていた。
53分には相手のセットプレー後の2次攻撃でザハのテイクオンをダロトが1on1に勝利してボールを奪い、そのままエリクセンに斜めのパスを通してカウンター始動。背後からトレイラが身体を寄せていたがしっかりと半身で相手の位置を見ていたエリクセンはダイレクトで裏のスペースに走るラッシュフォードへ芸術的なスルーパスを通してオープンな決定機となったが、ここで得点を阻むのは10番のルート選択と1テンポ2テンポ遅いボールを蹴るまでの間の長さ。
これ以上ない勝ち越しのチャンスを失ったユナイテッドだが、エリクセンがパスを散らしながらの右サイドでのブルーノ,マウント,ダロトを中心とするコンビネーションにはポゼッションからでもある程度継続して得点の匂いが感じられ、マウントの右CMもやはり問題なく機能するという事が実際のシーズンでも確かめられたのは収穫と言える。
そして67分、負傷交代したルーカス・トレイラに代わり入ったセルジオ・オリベイラのバックパスが短くなった瞬間を見逃さなかったホイルンドが左サイドでボールを奪い、近くにいたダビンソン・サンチェスがスリップした事もあって単独カウンターでボックス内まで侵入すると、追いすがるバルダクチュとの距離感を見極めながらシュートに至る前のタッチで少し弱めに触ってスピードダウン、最後は冷静に飛び出てきたGKを横を抜くチップキックで丁寧にゴールネットへボールを送り届けたという圧巻の2点目!!
ゴールセレブレーションを終えた後、試合再開のタイミングでホームチームは先制弾のアシスト以外殆ど貢献の無かったラッシュフォードを下げてガルナチョをピッチへ送り込む。
71分、相手の右サイドのスローインからアムラバトが簡単に身体を入れ替わられてボールがイカルディに入り、更にそこを潰しにいったリンデロフもあっさりウォールパスを許しカウンターを食らうと、バリシュ・ユルマズのラストパスにアクトゥルコールが応えてガラタサライは再び試合をイーブンに戻した。
リードを守り、更に広げていこうかという所だったがまたしても防げるエラーから失点に繋がってしまう。
アムラバトの守備についてだが、やはり本職中盤の選手という事もあって内側から外に追い込むのに比べて外から前に出ていくような対応を非常に苦手としており、更に利き足とは反対側のサイドというのも影響しているかもしれない。よって今回の失敗はフルバック起用によるリスクとして受け入れなければならない類のプレーだと思うが、それにしてもこのタイミングでそれが出る辺り本当に今のユナイテッドはツイていないチームなのだろう。
76分のユナイテッド。ゴールキックからの繋ぎでエラーが生じディフェンシブサードでパスカットされると、カゼミロが後ろからメルテンスを倒してPKかつ2枚目の警告で退場となった。
ペナルティキックはイカルディのキックが枠を捉えず失点を免れたものの、1人少なくなった事で試合を勝ち切る難易度は格段に上昇した上に上述した奪われ方が醜悪。カゼミロやリンデロフは個人のポジショニングが悪く、全体で見てもしっかりとオナナを+1として使えるような配置にする意思が見られなかった。
更に81分にはアムラバトのマズいパス選択+ヴァランのラインコントロールの散漫さ+リンデロフがメルテンスへのマークを怠ったところから一気にガラタサライのオープンなカウンターに移行して痛恨の3失点目。
MAURO💎@GalatasaraySK || #UCL pic.twitter.com/lIyXQJxJb3
— UEFA Champions League (@ChampionsLeague) October 5, 2023
何故ここまでしょうもないエラーをこのチームは毎試合のように繰り返しているのか、まるでノルマでも課されているかの如く。
1から100までとことん自滅で試合の状況を悪化させたユナイテッドは最終スコア2-3で敗戦。2節を消化した段階で勝ち点0、得失点差-2の最下位に沈んでいる。
データ
Standard
ポゼッション55-45,シュート数16-14とゲームを思う通りの運べなかったユナイテッドの拙さがスタッツにも反映されており、特にパス成功率75%というのは余りにも低すぎて話にならない。
アタッカーならばまだ少しは許容範囲が広がるが、カゼミロのパス成功率41/56(73%)は失格の烙印を押しても何ら問題ない水準。そんな彼やCB2枚のディフェンシブサードでのポゼッション時の動き及びプレー選択の悪さが全体的な停滞感をもたらしていて、更に3-2のビルドアップを行う際にオナナを+1として3のサポートに参加させられない事もかなり気になる点だ。
選手個人を見た場合、少ないチャンスをモノにして尚且つサイドに流れてのボールキープ、及びキャリーでチャンスクリエイトにも多大なる貢献をしたホイルンド以外は褒められた出来ではない。
Man Utd 2 : 3 Galatasaray
— markstats bot (@markstatsbot) October 3, 2023
▪ xG: 1.42 - 2.83
▪ xThreat: 2.0 - 1.3
▪ Possession: 55.5% - 44.5%
▪ Field Tilt: 68.7% - 31.3%
▪ Def Action Height: 50.1 - 41.2#msbot_ucl #ucl pic.twitter.com/xMEwy78gGP
markstats算出のxGはマン・ユナイテッド1.42、ガラタサライ2.83。
ペナルティキック(大体xG0.76)を含めずともアウェイチームに期待値で完敗している時点でこの試合の内容は悪かったと断言していい。2回のシュート機会(オフサイドになって記録されなかった幻のチャンスもある)をいずれも得点に結びつけたホイルンドは正にコンプリートFWになれる資質を持っていると証明したが、その彼のスタッツを抜くとシュート数14に対しオンターゲット3と他の選手は精度が低い。
PASSING NETWORKをみるとダブルピボットでポゼッションしたガラタサライと1アンカーで行ったユナイテッドでハッキリと差が出ているが、何故テン・ハフはスキャニング頻度の少なさ,雑なレシーブ,2失点目に見られるポジショニング修正を怠る点,リスク管理の視点がないパス選択とあらゆる角度から全くもって役割をこなせていないカゼミロにいつまでもこの動きを行わせているのかと本当に理解に苦しむ。
ようは彼に少しでも難しい事をさせると毎回破綻するので、セントラルMFの枚数が揃った今はアムラバトアンカーでカゼミロは取り敢えずCBにでも置いておくのが一番マシかもしれない。背負うプレーと左右の選択を瞬時に迫られる事が少ないバック3の両端、特に利き足側でも仮に無理なのだとすればその時は……
また、メイヌーが戻ってきた場合も彼のインテリジェンスを考慮すればLBダロト,RBメイヌーは十分機能すると思われ、その際にもカゼミロをベンチへ落とす決断が迫られる事になると思っている。
あとがき
少々トラブルに遭って更新が遅れてしまいました😣
チャンピオンズリーグの次節は否応が無しにカゼミロを出場停止で起用できないため、今のユナイテッドにとってはこれが逆に薬になる可能性もあると思います。彼自身は使い方を考えれば輝けそうにも見えますが、それは確実に今の役割ではなく、こういった事でもないとアンカーが変わる事は無さそうだったので……