まるでボンビーに取りつかれているかのように次々と何かが降りかかってくるルカクのオンリーワン性に驚愕させられた1日。新テクノロジーの良い宣伝機会になったアディダスは彼に感謝しているのでは。
【Match Review】ベルギーvsスロバキア
前半
ベルギー
3 Theate, 5 Vertonghen, 6 Witsel, 8 Tielemans, 12 T.Kaminski, 13 Sels, 14 Lukebakio, 16 Vranckx, 17 De Ketelaele, 19 J.Bakayoko, 20 Openda, 23 A.Vermeeren, 25 De Cuyper
スロバキア
4 Obert, 5 Rigo, 6 Gyömbér, 7 Suslov, 10 Tupta, 11 Bénes, 12 Rodák, 13 Hrošovský, 15 De Marco, 18 Strelec, 20 Ďuriš, 21 Bero, 23 Ravas, 24 Sauer, 25 Kóša
6分から7分にかけて、ベルギーは自陣右サイド低い位置からのスローインでボールを受けたドクは何を思ったかドリブル突破を試み、案の定スロバキア1トップボジェニクの寄せにバランスを崩してボールはボックス内へ。丁度エアポケットに入ったボールをシュランツがヒールフリックで落とし、その後クツカの近距離からのシュートにはカステールスが素晴らしい反応を見せて一度は凌ぐが、こぼれ球に対しシュランツが角度のないところから針の穴を通すような難しいシュートを放ちスロバキア先制。
ベルギーの問題点は選手個人とチーム戦術の両方で数多く浮き彫りとなったが、その中でもマンガラ-オナナのダブルピボットの鈍重さと両者共に相手の1stプレスよりも手前でCBからのパスを受け取ろうとする事で後ろ重心になり過ぎる問題は目立っており、オナナのポテンシャル先行感はもしかすると夏のマーケットにも少なからず影響を与えるかもしれない。
また、CBもデバスト-ファエスで大舞台の経験には乏しく、DM2人も試合中に細かな修正が出来る経験値が無い、或いはそもそもそれを感じ取る力が弱いので、センターラインの機能不全が中々解消される気配が無かった。デバストの相方にベテランのフェルトンゲンを起用するか、デ・ブライネを一列下げて空いたトップ下にはライン間でのレシーブが得意なデケテラーレ辺りを充てるべきだったのではないかというのが率直な感想。
スロバキアはロボツカがDFライン前で全体を指揮する4-1-4-1と左CMのドゥダが相手CB2枚に対し数的同数でプレスを行う為に前に出ていく4-4-2を併用する守備構築で、ベルギーとは違ってトランジションで手を抜く選手がいないので見ていて気持ちのいい纏まった好チーム。
ドゥダ,ロボツカ,クツカの中盤3枚は不動の地位を築いているからなのか、流れの中でポジションチェンジをして相手のマークを幻惑させたり、誰かがDF,特に両フルバックのカバーリングに向かった後に横ずれしてしっかりとスペースを埋めるのでユニットとしての完成度は大会屈指。ただ、ビルドアップでフィールドプレイヤーがかなり距離感を広く取る為、ボールプレーでポカのあるドゥブラフカ,ヴァヴロの所を狙われると、21分のボールロストからの危機のように一気に失点が近づく。
アタッカーの個の力ではベルギーが上回っていて、連携面に不安を抱えていながらもデ・ブライネの創造性やドクの単騎突破でしばしばボックス内まで侵入するチャンスを作れてしまうので見ていてこれ程もどかしさを感じるチームも無い。イングランド代表と並んで個々の役割や配置、そしてチーム戦術を整備出来るならば……と思わずにはいられない。
後半
HT明けのベルギーはトロサールとドクの左右を入れ替えた。
ハーフスペースに侵入したがる前者とカラスコには連携は良くなかったとはいえキャラクター的に化学反応が起きる可能性があったが、どちらも外からテイクオン狙いたい後者とでは外外に縦の立ち位置が被ってしまい、わざわざLBに起用したベテランアタッカーはただ相手のプレスのハメどころになる後ろ向きの味方に対する縦パスを出すだけの存在になってしまうのであまりにも不憫である。
56分には、この日も序盤から決定機のエラーを重ね、なおかつ不思議なくらい突発的なナニカに巡り合うルカクがショートコーナーからトロサールのクロスをファーポストの更に向こうで折り返したオナナのプレゼントボールを押し込んで遂にゴールを奪った。。。かに思えたがオフサイドで得点取り消し。
オナナが折り返したボールの軌道はカメラによっては直接反対側のサイドネットに向かっていたようにも見えた為、そもそもオフサイドポジションにいた事と余計なワンタッチで得点を幻にしたかもという2点で議論の対象にされているらしい。
機能しなかったダブルピボットを解体してデ・ブライネを一列落とし、なおかつRWに左足のキックが強みのヨハン・バカヨコを投入してきたベルギー。トロサールは中央でも仕事が出来る上に、ブライトン出身の選手らしく味方との瞬間的なコンビネーションが得意なのでルカクのポストプレーが効力を発揮し始める。
そして、63分には先述したスロバキアビルドアップの脆弱性をデ・ブライネのプレッシングで露呈させてドクのクロスからバカヨコにビッグチャンスが舞い込んだが、ハンツコの素晴らしいゴールカバーによってこの好機をモノに出来ず。
終盤にはデバストのロングフィードに途中出場のオペンダが相手を背負いながらのファーストタッチ→スピードを活かした縦突破でチャンスを拡大し、そのオペンダのラストパスをルカクが決めて今度こそ正式に得点が認められるかと思いきや……
ルカクの同点弾、最新テクノロジーに負ける
— bleuJ (@bleuJ17) June 18, 2024
オンフィールドレビューの時に現れた波形はボールに取り付けた慣性センサーで不自然な動きがあったかチェックするもの。手に当たったかどうかを瞬時に判断することが可能になった。 pic.twitter.com/nOyh1imKpJ
なお、謎の波形はボールに内蔵されたセンサーによるもので、ボールに対し衝撃が加わったかどうかが毎秒500回の情報通信で明らかになる為、オペンダのハンドが疑われた場面の映像と照らし合わせる事が判定の根拠になったらしい。
Adidas' "connected ball" technology just led to a Belgium goal being overturned in the final minutes due to a handball.
— Front Office Sports (@FOS) June 17, 2024
A sensor suspended inside the ball captures touches at a rate of 500 times per second.
It sealed Slovakia's 1-0 win over Belgium—the biggest upset in Euros… pic.twitter.com/x1AN62WyAR
オナナの折り返しに合わせた50分台のチャンスに続き、またしてもテクノロジーの前に涙をのんだルカクは何故ここまで不運に愛されているのだろうか。本当に不思議でならない。
【Match Review】オーストリアvsフランス
前半
オーストリア
1 Lindner, 3 Trauner, 7 Arnautović, 8 Prass, 12 Hedl, 14 Querfeld, 15 Lienhart, 17 Kainz, 18 R.Schmid, 21 Daniliuc, 22 Seidl, 23 Wimmer, 24 Weimann, 25 Entrup, 26 Grüll
フランス
1 B.Samba, 2 Pavard, 3 F.Mendy, 6 Camavinga, 8 Tchouaméni, 9 Giroud, 12 Kolo Muani, 18 Zaïre-Emery, 19 Y.Fofana, 20 Coman, 21 Clauss, 23 Aréola, 24 Konaté, 25 Barcola,
オーストリアはラングニックらしい守備時4-4-2ハイプレスと走れる選手で固めてトランジション強度とセカンドボール回収に全力を注ぐスタイル。教授に反抗するような飛びぬけた存在がいない為非常にソリッドなチームとしてまとまっていた。
フランスはエンバペが中央から左サイドにかけて自由にポジションを取り、それに応じてテュラム,ラビオ,グリーズマン辺りが気を利かせて立ち回りを変えていくお馴染みの形で、右サイドは大外にデンベレという絶対的な基準があるので縦の位置被りが無いが、左サイドはテオ・エルナンデスが少々対応に苦慮していそうな雰囲気。
走行量の差でチャンスの手前という段階を作る回数はオーストリアの方が多かったのだが、決定的なところまで行ったのはウパメカノの前に出て守備を行った後の帰陣の遅さに付け込んだ36分のバウムガルトナーのシュートが一度あったくらいで、雑な部分があっても圧倒的個で全てを破壊するレ・ブルーの理不尽さを感じるような内容。
オーストリアが千載一遇の機会を逃した直後、フランスは右サイドでデンベレがテイクオンを試み、一度は相手の複数枚でのプレッシャーでボールを奪われるが、ムウェネの意図がよく分からない迂闊なバックパスを奪ってチャンス続行。流れの中でたまたま右端まで移動していたエンバペにボールを渡し、シザースからの急加速で対面のDFを交わしたエンバペのクロスはマクシミリアン・ウェーバーのオウンゴールという形で得点に直結した。
後半
後半始まってほぼ最初のコンタクトプレーでグリーズマンがウェーバーとの接触で額から流血したり、試合終盤にはダンソの肩に鼻がぶつかってエンバペが鼻骨骨折の怪我を負ったりと、ハードな守備対応をオーストリアが徹底する中で負傷者が出てしまったが、最終的なチーム走行距離で120kmに迫った彼らのスタミナとハードワークを続ける献身性については見事だと思う。
エンバペがカウンターからの決定機を逃した事を考慮しても、60分台に入って選手交代でフレッシュな選手を入れ、細かい部分で戦術的変更を加えつつもう一度エンジンを吹かして一時試合の主導権を奪い返す時間があったように、常に次の一手を投じてくるラングニックの采配には非常にワクワクさせられた。
フランスに目を向けると、66分の連続する得点機会のキッカケになったボールキャリー及びその後のクロスに代表されるように、カンテがボールハンターに留まらずチャンス創出の一端を担っていたのが印象的。サウジに移籍した選手の大半はフットボールへの情熱に陰りが見られるようなプレーをクラブでも代表戦でも見せている中、彼やロナウドのようにこれまでと変わらぬクオリティーを発揮する選手たちのプロ意識の高さがひと際際立つ。
なお、個人的に気になっていたユスフ・フォファナはほとんどアディショナルタイムに近い時間からの投入でプレー機会に乏しかったため、彼については次戦以降にまとまった出番が訪れる事を期待したい。