マテウス・クーニャ、ブライアン・エンベウモに続くシニアチームの補強選手はまたしても前線のポジションとなり、2シーズン在籍したRBライプツィヒで公式戦39ゴールとスコアラーとしての才能を爆発させているベンヤミン・シェシュコとなった。
すでに加入から1週間ほどが経過しているので今更ではあるが、インターナショナルチームでもスロベニアのエースとして君臨する彼が何故今のチームに必要とされたのか、データを用いながら探っていこうと思う。

背景:マンチェスター・ユナイテッドの抱える慢性ゴール欠乏症
過去5シーズンのマン・ユナイテッドのプレミアリーグでの得失点を羅列すると、
- 24/25→ 44得点,54失点(得失点-10)
- 23/24→ 57得点,58失点(得失点-1)
- 22/23→ 58得点,43失点(得失点+15)
- 21/22→ 57得点,57失点(得失点±0)
- 20/21→ 73得点,44失点(得失点+29)
このように60ゴールを越えることすら近年では難しくなっており、なおかつ直近2季に至っては得失点差がマイナスに突入するなど、メガクラブとしての権威は地に落ちているといっても過言ではない惨状。
チーム内のトップスコアラーに関してもこの2シーズンは23/24がラスムス・ホイルンドとブルーノ・フェルナンデスで共に10ゴール、24/25はブルーノとアマド・ディアロが8ゴールと低下の一途を辿っており、昨季のチーム得点はリーグ全体の15番目、なんとボトム5まで沈む始末である。

それゆえにルベン・アモリムは今夏の補強方針でこの慢性的な得点力不足解消にむけたタレントの確保を最優先事項に挙げていたであろう事は容易に推測が出来、実際にシェシュコ以前の獲得選手であるクーニャ、エンベウモは同じコンペティションの中位~下位のクラブで15ゴール以上をマークした質の高いスコアラーだった。
比較:シェシュコの相対評価
現在シニアチームの頭数に入れられるシェシュコ以外のCFは先述のホイルンドに加え、2シーズン目のジョシュア・ジルクゼー、ユース所属ながら既にトップチームでも出場機会を確保するチドオビことチドジー・オビ=マルティンの3名。
この中でホイルンドについてはシェシュコ加入でアモリムの構想から外れたとの報道が散見され、チームを離れる可能性も高いが、ここでは出場時間の短かったチド・オビを除く2人+シェシュコで比較を行い、何が彼の獲得の決め手となったのか考えてみよう。
今回はレーダーチャートでの視覚的な相対評価を簡単に行えるDataMBというデータベースを用いる。
シェシュコ、ホイルンド、ジルクゼーの24/25シーズンのスタッツを比べてみると、①PKを除いた得点期待値、②シュートの有効性、③空中戦勝率、の3点においてスロベニア代表FWはライバルを圧倒しており、兎にも角にも得点力、ストライカーとしての脅威度をアモリムが重視しているであろう事が計り知れる。

また、それぞれのベストシーズンで比較する際、スタッツ上ではホイルンドとシェシュコは同系統で完全に後者が上位互換、ジルクゼーは純粋な点取り屋ではなくMF要素の強いという違いもチームとしての選択肢の多さを確保したいという意味でシェシュコ獲得発表後の流れに影響を与えたかもしれない。

なお、シェシュコが2シーズンプレーしたブンデスリーガでは、走行距離や最高速といったこちらからではアクセスが困難なデータも公開されており、昨季の彼のトップスピードはリーグ全体で26番目の35.69km/h。少し古いデータとなってしまうが、2023年の記録と比べてみても優秀な数字である事は間違いない。
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1. マーカス・ラッシュフォード: 35.95 km/h
2. ディオゴ・ダロト: 35.76 km/h
3. アントニー: 35.29 km/h
4. ルーク・ショー: 34.85 km/h
5. タイレル・マラシア: 34.76 km/h
6. アーロン・ワン=ビサカ: 34.42 km/h
7. アンソニー・エランガ: 34.27 km/h
8. ジェイドン・サンチョ: 33.96 km/h
9. アレハンドロ・ガルナチョ: 33.92 km/h
10. アントニー・マルシャル: 33.56 km/h
(参照:Who were the fastest Man Utd and Premier League players in 2022/23? | Manchester United)
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更に、シェシュコの優秀な点は最高速だけでなくスプリントの量も確保されている事であり、24/25は875回でリーグ7位。GKやCBに猛然とプレッシャーを与える1stプレス隊として申し分ない内容だ。

ゴール集を見ても味方からのお膳立てを待つというよりは自ら長い距離を持ち運んでフィニッシュに至るケースが多く、その心肺機能の高さは攻守に証明されている。
完成系としては、ユナイテッド加入時のインタビューで「少年時代からのアイドル」と本人が名前を挙げたズラタン・イブラヒモビッチのような絶対的な支配力を持ちつつ、エディンソン・カバーニのような献身性の高さも併せ持ったオールラウンダーか。
懸念:プレミアリーグへの適応能力は?
結論としては、プレミアリーグへの適性は高い。
実際にシェシュコがプレミアリーグへ早期適応出来るのかという見通しに関しては、まず初めに多くの選手が足切りされる身体能力についての心配が不要である点は明るい材料である。
先述した空中戦の強さ、優秀なスプリント回数といったスタッツを裏付けするかのような以下の動画を見て欲しい。
New Man United striker Benjamin Sesko, Slovenian just like Luka Doncic, is also a serious hooper 🏀 pic.twitter.com/9bSvIaTEwQ
— Men in Blazers (@MenInBlazers) August 17, 2025
彼の母国であるスロベニアといえばバスケットボールの強豪としても知られており、押しも押されもせぬバスケ界のスーパースターであるルカ・ドンチッチをはじめ国際的に通用する選手を多数輩出している。
そのような環境下で育ったベンヤミン少年もプロバスケ選手を本気で目指していた時代があり、優れた跳躍能力やターンやステップなどその場での身体の使い方が巧みである理由はここにあるのかもしれない。
In an alternate universe, Benjamin Šeško could be playing alongside Luka Dončić in the NBA right now.
— SCOUTED (@scoutedftbl) May 30, 2025
At 10 years old, the RB Leipzig striker had a decision to make: basketball or football. While he chose the latter, Šeško attributes much of his eye-catching skills to playing… pic.twitter.com/tzx6J4Vhht
戦術理解については、規律と献身性を強く求めるライプツィヒからの獲得かつ、前項で触れた彼自身のプレー傾向から考えても苦戦するとは考えにくい。今夏のマン・ユナイテッドの補強には共通点があり、クーニャ(ライプツィヒ、アトレティコ・マドリー)、エンベウモ(ブレントフォード)、そしてシェシュコの3人はいずれもコレクティブなチームでのプレー経験を有している。
どれだけ個人としてのボールプレーの才能があっても組織的な守備が出来なかったり、振る舞いの部分に難のある選手は排除するというのがアモリムの運営手法である。シェシュコ自身は昨季ライプツィヒが3-4-2-1をメインにしていた事もプラスに働くだろう。
一方、個人的に不安に思う点はライン間でのファーストタッチやプレス網の中で迫りくる相手との間合いを考慮したボールの置き方、要はボールレシーブの部分だ。
先の通り身体的な強さについては心配不要で、得意な得点パターンにボックス外からのミドルショットがあるように力をボールに伝える事は非常に得意としているシェシュコだが、逆に向かってくるボールの勢いを吸収するのはやや不得手な印象。実際にFBRefでスタッツを確認しても"Miscontrols"、"Dispossessed"、"Progressive Passes Received"といった指標はパーセンタイル値が50を下回っており、ブンデスリーガよりも更にプレースピードが上がり時間的猶予が減るプレミアリーグではこの点で苦労する恐れがある。

ただ、ハーフレーンに流れながらある程度オープンな状況でGKやバックスからのロングフィードの収め役にさせる分にはアスリート能力の高さと得意としているボールキャリーで強引にチャンスを作り出せる馬力があり、懸念事項の発生頻度もプレースタイル次第では回数を減少させられる事から致命的なモノにはならないと予想する。
現実的な初年度の目標としてはリーグ戦で10ゴール以上、アシスト込みの得点関与数で15を越えればひとまず成功と見なして良いのではないか。近年でこれをクリアしたのはブルーノとロナウドの2人なので簡単な条件ではないが、獲得にかかった費用や彼自身のポテンシャルを考慮するとそれくらいの期待を寄せたい。