はじめに
6月中旬に入り始まったレギュレーション変更後初のクラブワールドカップとは無縁のマンチェスター・ユナイテッド。
2024-2025シーズンは結局1つもタイトルを獲得できず、欧州コンペティションの参加権も失うなど散々な一年でしたが、シーズン中より名前の挙がっていたマテウス・クーニャが夏の補強第一弾として6月1日に獲得が公式発表されると、その後もブライアン・エンベウモやヴィクトル・ギェケレシュ筆頭に複数人の名前がリストアップされるなど例年通り大きな戦力の入れ替えが行われそうな雰囲気を漂わせています。
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— マンチェスター・ユナイテッド (@ManUtd_JP) June 15, 2025
ただ、個人的に不安に思っているのはメディアに出てくるターゲットの名前がことごとくアタッカーの選手である点。そもそも私は限られた予算の中でクーニャに6000万ポンド以上とされる移籍金を支払う事自体に懐疑的な立場であった為、更なるアタッカーへの大量の資金投入には勿論反対です。
最大の理由としては、マン・ユナイテッドが今置かれた状況、具体的に言えばセンターバックとセントラルMFに大きな課題を残している点とクラブ哲学とは180度違う3-4-3に取り組むアモリム政権とその後を見据えた際の互換性の部分が主なもの。
3バックでも4バックでも、ポゼッションでもリアクションでも求められる要素が変わらずポジション自体の需要が高いのはGK,CB,CM,CFの4ポジション、いわゆるセンターラインです。
GK/CB/CM/CFの根幹となる4つのポジション
ユナイテッドの場合、甘く見積もってGKはなんとかオナナで埋まっているものの、CBは真に信頼を置けるのがヨロ、リサンドロ・マルティネス、マズラウィの3人のみで、後リチャは故障の多さで計算が立たずまだ3枚埋まっていないのと同じ状況。リプレイスメントとしてマグワイアを頭数に入れたとしても、やはり3CBの中央でリーダーシップを発揮出来る選手の補強は必須。
一番深刻なのがセントラルMFであり、ウガルテは運動量はクリアしているもののビルドアップでのポジショニングやボールを受けた後のパス・ターンに課題があり、ブルーノもデュエルとボール保持でのリスク管理に欠点を持つ。終盤に入り意図的に運動量を減らした事で復活したカゼミロは、タイトルを狙う上ではやはりカバー範囲の狭さで厳しい部分もあり、メイヌーは身体が大きくなった一方で敏捷性が損なわれているのか今のままではCMを任せられない。
CFに関してはジルクゼーが圧倒的なボールプレーの技術を有し、得点力とプレッシングには伸びしろを残すが2年目の飛躍に期待がかかるという状況で、ホイルンドも今の不調は精神的なところに起因しているように見えるため復活する可能性は十分にある。
結論としては、私個人の考える4ポジションの優先順位は
CB,CM > GK > CF
となります。
近視眼的チーム構築で不良在庫を多く抱えるウインガー
マンチェスター・ユナイテッドはサー・マット・バスビーの時代から個で試合を支配出来る強力なウイングプレイヤーを有したサイド攻撃をクラブカラーにしていました。サー・アレックス・ファーガソンの黄金時代を支えたライアン・ギグスやクリスティアーノ・ロナウドはこの伝統のお陰で台頭したスターと言えるかもしれません。
しかし、その一方で近年はウインガーに超高額な移籍金を支払って獲得した結果、思うような成績を残せずクラブ内で不良債権と化した選手も複数存在し、更にティーンの頃から過剰な支持を与えた結果チームプレイヤーとは正反対になってしまったラッシュフォードのように、アカデミー育ちでも同様の問題は起きている。
試しに新加入のクーニャを除く2025年6月18日現在在籍中の選手のサラリーを見ていくと、週給20万ポンドを超える超高給6名のうち半数の3名が2024/2025シーズン中にローン移籍でクラブから離れており、いずれも今夏のマーケットで売却対象と報道されている選手たちです。
なお、上記画像のラッシュフォード、サンチョ、アントニーはそれぞれ2028年、2026年、2027年とクラブとの契約期間が残っている状況なので、彼らが大幅な減給を了承しない限り完全移籍での放出は厳しいと思われます。
更に言ってしまえば、範囲を週給15万ポンドまで広げてみてもブルーノ、マズラウィ以外は絶対的とは言い難い選手である為、ユナイテッドのチーム構築がいかに機能不全であるかを端的に示すデータ。
マテウス・クーニャ獲得に反対した理由が正にこの背景であり、クーニャは純粋なウイングプレイヤーではなくセカンドストライカーと10番の中間のような選手なので、もし仮にアモリムが早期解任されるようなことになって新たな指揮官が4バックへの回帰を望んだ場合、彼もまた不良債権と化す未来も考えられます。
ウイングとして振る舞えるエンベウモはそういう意味で融通が利きますが、既にクーニャを獲得している以上、既存の選手を放出出来ずにいる中での更なるアタッカーの補強はあまりにも近視眼的でクラブ財政とチームバランスを圧迫するリスキーな選択と言わざるを得ません。
AFCONを見据えた補強が求められる
クーニャに続くユナイテッドの2人目のターゲットは先述の通りブライアン・エンベウモが最有力視されています。彼の獲得に関するデプス的観点からの是非は既に述べたので、今度はインターナショナルマッチとの兼ね合いから見ていきましょう。
アフリカネーションズカップ、通称AFCONは2年おきに開催されており、前回大会は2024年1月~2月の日程でマンチェスター・ユナイテッドからはアマド・ディアロとアンドレ・オナナの2名が出場しました。今回は2025年12月~翌2026年1月にかけての期間で執り行われるため、AFCONに招集される選手はイングリッシュフットボールで最も過酷な日程となる年末に起用出来ない事をあらかじめ覚悟する必要があります。
よって、オナナを正GKのまま置くとしても離脱期間に自信をもって起用できるゴールキーパーの補充は不可欠であり、なおかつアモリム体制でもコアメンバーとなっているアマドの穴を埋め得る左利きのアタッカー、CBとWBを高水準でこなすマズラウィのリプレイスメントとなるディフェンダーも同様。
そうなってきた際にエンベウモは条件に合致しません。
というのも、代表戦の国際大会に興味がある方ならばカタールでの活躍がすぐに思い浮かぶかもしれませんが、彼はフランス生まれフランス育ちながらあの名ストライカー、サミュエル・エトーの説得に応じ代表はルーツのあつカメルーン代表を選択しており、現在のところ年末の大会にはほぼ確実に招集されるといっても過言ではない押しも押されもせぬ中心選手だからです。
20番がエンベウモ
また、AFCONの影響は開催期間中だけではなくその後に反動でフォームを崩す選手が毎回出る事を考慮する必要があり、湯水のように予算が湧いてくる訳では無い今のユナイテッドが本当に彼に高額を投じる余裕があるとは思えないという結論がより強まります。
あとがき
CBの即戦力が一番初めに必要だと考えているので、個人的好み全開で名前を出すと
- イリア・ザバルニー
- マリオ・ヒラ
- ピエロ・ヒンカピエ
- ムリーリョ
守備時に周りを動かせるリーダーシップを前提条件としてポゼッションで粗が出ないだろうという選手をリストアップしました。ウスマン・ディオマンデについては、やや身体能力に頼ったプレーが多く、今のユナイテッドで彼を育て上げられるようには見えないので選外に。
CMはブルーノをDeep-Lying Playmakerとして運用する限り、同格以上の相手に対してはモイセス・カイセドのようなスーパーマンが相方に必要になるので今獲得出来そうな名前は正直思い浮かびません。強いて言えばアモリムのスポルティングCP時代を支えたモルテン・ヒュルマンドか。正直メイヌーが守備強度・トランジション強度とポジショニングを改善してくれるのが一番手っ取り早いかもしれません。