※23/24 UEFAチャンピオンズリーグ GroupA 第3節
マンチェスター・ユナイテッドvsコペンハーゲン戦の記事です。
一度はグループリーグ突破を諦めかけた後半アディショナルタイムの不用意な自陣ボックス内でのファウル。その絶望の深い霧を吹き飛ばしたのは厳しい批判の対象にあった守護神でした。今回は「オナナありがとう」の一言に尽きる。
An important three points on an emotional night! ✔️#MUFC || #UCL
— Manchester United (@ManUtd) October 24, 2023
【Match Review】
キックオフ前にはサー・ボビー・チャールトンへの献花が行われ、現指揮官テン・ハフ、現役選手から代表してダン・ゴア、そしてサー・ボビーのチームメイトでサー・マット・バスビー率いるチャンピオンズカップ優勝時のチームで正GKを務めたアレックス・ステップニーの3名がこれを執り行った。
Starting lineup
11番のヨーダン・ラーションはかつてユナイテッドにも短期レンタルで加入しインパクトを残したあのヘンリク・ラーションの息子で、39番のオスカル・ホイルンドはその名が示す通りラスムス・ホイルンドの弟である。
前半
相変わらずの攻守のバランスの悪さと攻撃に加勢する人数とタイミングが全くもって整備されてない事によるネガティブトランジション時の脆さを見せるマンチェスター・ユナイテッド。
早速5分にはルーズボールの処理をマグワイアがしきれなかった所からディオゴ・ゴンサウベスに決定機を与えており、これも元はと言えば安定したポゼッションフェーズで無かったにも関わらずアタッキングサードに8人も選手を送り込んでしまっているのが最初の失敗だった。
また、2列目から裏へランニングした後の動き直しが余りにも緩慢でMFしての守備意識に欠けるマクトミネイも一体どうなんだというプレー。全体的に彼はボールホルダーが出せないタイミングでの裏抜けを試みて却って配置のバランスを悪化させるケースが多すぎる。
チームの上手く行っていない部分がこれまでの試合の焼き直しなので正直長々と語るような事もあまり無いのだが、バックス(3枚が多い)+アムラバトだけにビルドアップを任せる今のやり方の問題点として、以前の試合レポートで取り上げた以下の画像のようにちMF-DFライン空洞化による前線へのボール供給の高難度化と足元で繋ごうとした時の相手の目線の合わせやすさ、及び時間的余裕の減少が挙げられる。
それに加えてリチャが負傷離脱中の現スカッドではCBからのミドル~ロングレンジのボール配球とプレス回避の質が低下しており、更にコペンハーゲン戦ではアムラバト1アンカー時のレギロンとマクトミネイのポジショニングが中途半端である場面が多く、前に上がって相手のFW-MFライン間でのレシーバーになるかアムラバト脇で2枚目になるかの判断が個人の裁量に委ねられている、またはそもそも何もルールが存在していないようにすら思えた。
怪我からの復帰戦となったレギロンの試合勘自体もまだ戻っていないように見受けられ、これらが週末のマンチェスター・ダービーまでにどこまで修正できるかどうかは指揮官及びコーチ陣の能力評価として注意深く観察したいポイント。
一方、コペンハーゲンは前線守備でマンツーマン気味の4-3-3、ブロック守備では4-5-1と5から1枚飛び出していくフラット4-4-2を使い分けながらボールホルダーへの素早い寄せと一時的に守備陣形が崩れた際の後ろ,横からのスライドの整然さで試合を自分たちのペースで進めていく。
知名度で劣っていたとしても1人1人の技術的な部分と戦術理解では互角以上に思え、特に左ウイングのエリアス・アシュリ(Elias Achouri)はボールを持つときの身体の向きや相手のプレッシャーに対応する細かいベクトルの切り替えといった所で欧州トップリーグで活躍するアタッカー達と比べても全くもって見劣りしない良い選手に見えた。
後半
HTでの交代はアムラバト🔁エリクセン。
変えるべきはこちらではなくマクトミネイなのではないかと個人的には考えたが、エリクセン投入でチャンスクリエイト能力の高いMFが2枚体制になった事と、既存選手達のポジショニング、特にフルバックの立ち位置を内側に固定した事でポゼッションが少なくとも前半よりは円滑になり、コペンハーゲンを彼らの陣内に押し込む時間が圧倒的に増加した。
54分のエリクセンの決定機に繋がったチャンスも、彼の投入による心理的影響からか、高い位置に留まらずより自由にボールホルダーのサポートに入るようになったブルーノを起点としており、片方がリンクアップを担当してもう片方がフィニッシュワークに参加するというダブル・プレイメイカー運用の良さが出たシーンだと思う。
58分には相手ロングキックをヴァランがはじき返した所からカウンターチャンスが生まれたが、エリクセンのスルーパスで完全に頭一つ抜け出したラッシュフォードのボールタッチがミスコントロールになった事でこれを活かす事が出来ず。
63分、元々決めていたかのようなタイミングでユナイテッドはレギロン,アントニーを下げてリンデロフ,ガルナチョを投入。結果的に左サイドの縦ユニットがそのまま一新された形で、ラッシュフォードが右へスライド。
コペンハーゲンの守備を前半で称賛したが、1つだけ問題があるとすれば攻撃側のCK時のカウンターケア。後方に残すフィールドプレイヤーは1人である場合が多く、ボックス内に人員を偏らせているのでセカンドボール回収が上手く行かず、一度弾かれてしまうと一気に失点に繋がるカウンターを受ける構造。67分のプレーもガルナチョのボールタッチの乱れに救われただけで、ほとんど失点していたような場面だった。逆にこれをゴールに結びつけられないユナイテッドの得点力も酷いものだが……
72分、右CKからのルーズボールをダロトが回収しエリクセンに渡すと、右45度からの正確なカーブキックにマグワイアが頭で合わせてユナイテッド先制!!
これこそが彼に求めていたモノなので正に期待通りの貢献。
青いフェイスガードを付けていたコペンハーゲンGKのカミル・グラバラもここまで非常にいいシュートストップを見せていたが、流石にゴールエリア内でフリーでヘディングを撃たれてはどうにもならない。
ブルーノの完璧なタックルから始動した78分のカウンターでも、10分前同様にガルナチョはまたしても決定的なシュートシーンでネットを揺らせていない。個人的には現在のプレー比較でガルナチョ>ラッシュフォードと考えているので彼には目に見える結果を残して貰いたいのだが。
その前のホイルンドのプレーをみても、どうもユナイテッドの選手は相手と少し距離がある状態でスピードをつけようと大きめに出すボールタッチのコントロールが悪いように映り、ガルナチョのシュートのこぼれ球に詰めたマクトミネイも難しいシチュエーションとは枠に飛ばせば何か起こるという場面だったのでもう少し何とか……
終盤はもう一度息を入れ直したコペンハーゲンに押される展開となりながらも、何だかんだでアディショナルタイムまで進行し、ラスムスの弟であるオスカルが相手チームの交代人員としてピッチに登場。
兄は80分台後半にマルシャルと入れ替わりでベンチに下がっていたので共演とはならなかったが、弟を見守る目は少し前までピッチ上で闘志に溢れていた者とは思えない優しさだったことが印象的である。
提示されたアディショナルタイム4分のうち、3分40秒余り経過し残された攻撃機会はワンプレーかという所でコペンハーゲンは左サイドでCKを獲得。
GKまでユナイテッドのボックス内に上がってきて同点弾を貪欲に狙いにいくと、ラッシュフォードがあっさりとマークを外してしまった事でフリーになっているオスカル・ホイルンドがファーサイドでボールを折り返し、その後の対応でやや冷静さに欠けていたマクトミネイが足を高く振り上げて相手選手の頭に接触してしまい痛恨のPKを与える。
もしも同点に追いつかれてしまうと3試合終了時点で勝ち点1、1つ前のタイムスケジュールで行われていたガラタサライvsバイエルンが後者の逆転勝利で一強抜け出し体勢になっていた事を考慮しても、折り返しの3試合を前に少なくともグループステージ突破に3ポイントのビハインドを負うという状況は余りにも絶望的。
そんな地獄のような未来が眼前まで迫っていた赤い悪魔だが、ゴールライン上でたった1人でチームの命運を託されていたNo.24、アンドレ・オナナは全く動じていなかったのかもしれない。
ジョーダン・ラーションの左足にボールが到達するその瞬間までじっと11m先の相手を凝視し続けると、レフティーが最も狙いやすいキッカー視点ゴール右中間に放たれたボールを右手で弾いてPKセーブ成功!!
⏱️ 90+7'
— UEFA Champions League (@ChampionsLeague) October 26, 2023
😳 Last kick of the game
👏 Onana wins it for Manchester United #UCL pic.twitter.com/lf7gvRK3bM
まさに奇跡としか言いようがない形で失点を防いだユナイテッドは何とか勝ち点3獲得の権利を維持してタイムアップの瞬間を迎えた。なお、VARがPKが相応しいかの確認を行っている最中、ピッチ上の殆どの目線が主審に集中している隙間を狙ってガルナチョはPKスポットを掘り返すという工作を行っていたようだ。
This one pic.twitter.com/icj6LnOQHd
— Patrick INTWARI (@PIntwari) October 24, 2023
紳士協定的な意味では全くもって褒められた行動とは言えないものの、冷静に状況判断してその時の自分が何をすればいいのかという判断とそれを実行する胆力を備えているという点では、とてもフットボーラー向きのメンタリティと評価する事も出来る。
データ
Standard
シュート数15:16(オンターゲット5:4)、ポゼッション50:50とまさに互角のスタッツとなっているが、マンチェスター・ユナイテッドがオールド・トラッフォードでこのような試合内容になるのが当たり前になっている現状が本当に虚しい。
かなりのシュートを撃たれたが、マグワイアとヴァランのCBユニットは前者が4/5、後者が6/6とエアバトルでは絶対的な安定感を誇っており、レギロンも4/5、ダロトは地上デュエル3/4とバックスの守備面についてはそこまで悪かったとは思っていない。
コペンハーゲンとの比較で大きな差がついているのは守備時の相手への寄せのスピードと目の前に来た際の迫力であり、彼らが縦横のスライドを手抜きせず行っている一方でユナイテッドにはだらだらとジョグするだけの選手が局面ごとに数人いるのが日常。
これはUEFA公式が発表しているボールリカバリー数(35:42)、走行距離(124km:134.2km)の大差に結果として反映されていて、後者に至っては3試合全てで相手よりも劣ると言う有り様。特にラッシュフォードの運動量とマクトミネイのトップスピード不足は深刻な問題といっても過言ではない。
Man Utd 1 : 0 Copenhagen
— markstats bot (@markstatsbot) October 24, 2023
▪ xG: 1.84 - 2.12
▪ xThreat: 1.47 - 1.02
▪ Possession: 50.2% - 49.8%
▪ Field Tilt: 47.6% - 52.4%
▪ Def Action Height: 38.9 - 46.4#msbot_ucl #ucl pic.twitter.com/YUVmX5gXsr
markstats算出のゴール期待値はユナイテッド1.84 - コペンハーゲン2.12とアウェイチームが優勢。ペナルティキックの0.76を差し引いたとてホームで被ゴール期待値が1.0を大きく越えるスコアである事を深刻に捉える必要があるだろう。
PASSING NETWORKをみるとマクトミネイ(39番)に1つも線が繋がっていない事が分かるが、中盤のリンクプレイヤーとしての仕事を放棄してフラフラと前線に何となく上がるという場面の多さや、自身の配球能力の低さがこの結果に現れているのではないか。
プレスの質という点では、PPDAが(守備アクション1回ごとに許したパス)18.4という大きな数字になってしまっている事からも全くもって機能していなかったのが丸わかりであり、この18.4という数字はプレミアリーグの各チームの平均と比較したときに一番悪いフォレストに次ぐ低水準。
4-1-4-1のミドル~ローブロックで敢えてコペンハーゲンに一定程度ボールを持たせたかったという狙いが仮に存在したとしても、単純にここまで数字が悪いとそれが効果的であったとは言えないだろう。
あとがき
次の試合、オールド・トラッフォードで開催されるマンチェスター・ダービーは現地日曜夜、日本時間で10月30日(月)0:30キックオフとミッドウィークの予定が入っている週にしては長めの試合間隔を取る事が出来るので、盛り上がった精神状態を維持しつつ体力の回復と戦術的欠陥の修正を行って万全を期して臨んで貰いたい。