※23/24 イングリッシュプレミアリーグ
シェフィールド・ユナイテッドvsマンチェスター・ユナイテッド戦の記事です。
最下位のシェフ・ユナイテッド相手に気圧される試合内容は次節のマンチェスター・ダービーを思えば不安でしか無いが、機能するように思えなかったスターティング・ラインナップで案の定という展開だったので驚きはない。逆に決勝点になったダロトのミドルシュートには仰天した。
Three points on the road! 🧳✔️#MUFC || #SHUMUN
— Manchester United (@ManUtd) October 21, 2023
【Match Review】
クラブ史上最高の伝説的選手であったサー・ボビー・チャールトンが現地10月21日の早朝に亡くなり、試合前には献花と黙祷が捧げられた。現役引退後もマンチェスター・ユナイテッドのロッカールームに度々激励に訪れていたというサー・ボビーの逝去は今の選手達にも大きな衝撃を与えている。
A poignant tribute to a giant of the game 💐❤️#MUFC || #SHUMUN pic.twitter.com/5gPhVGUxUs
— Manchester United (@ManUtd) October 22, 2023
穏やかな表情でオールド・トラッフォードで後輩たちの戦いぶりを見ている様は現役時代を知らないファンにとっても心に灯がともるものでしたが、最晩年には認知症を発症している事を公表し、イングランド国内でも少年期のヘディング制限論が活性化するきっかけになるなど社会的影響力はユナイテッドの伝説という所だけに留まらず、本当に模範的で偉大な存在でした。
心よりご冥福をお祈りいたします。
Starting lineup
怪我が癒え今節にもベンチ入りがあると期待されたメイヌーはまだスカッドに入らず、同じく離脱中のLBレギロンも招集外。ミッドウィークの試合には間に合って欲しいが……
前半
ホームのシェフィールド・ユナイテッドはフラット4-4-2のハイプレスを基準にLMのグスタボ・ハメルが相手のバック3に対応して上下して4-3-3風にも変化。ハメルはポゼッション時にLBルーク・トーマスの外幅を提供する形でハーフスペースにポジションを取るなどその時の状況に合わせ柔軟に動きを変化させていく。
一方のマンチェスター・ユナイテッドはアンカーにアムラバト、1つ前にマクトミネイ-ブルーノが並ぶ4-1-2-3ベースだが、ビルドアップの2ライン目形成がフレキシブル過ぎた上に、今回のラインナップではそれを可能にするほど個々のスキルセットが伴っていなかった事で全くもって相手のプレス網を突破する事が出来ず。
更にバックスとMFの間に広大な空間をさらけ出しにしたまま攻撃を行うので、ネガティブトランジションが発生した場合に高確率で失点に繋がるカウンターを食らってしまう負のスパイラルをいつまで経ってもこのチームは修正する気配が見られない。
単純に最終ラインの設定が低いのも要因の一部ではあるが、本質としては自チームのバックスがボールを持っている際に3-2-5の5,或いは3-1-4-1の4が全員相手のDFラインと同化する程に高い位置を取ってしまい縦軸の階層が薄いのが最大の理由と言え、これはポゼッションにおいてもライン間で受けようとする選手の少なさや後ろ向きでのボールレシーブの増加といった大きなデメリットを幾つも誘発している。
今季のメガクラブのミドルサードでの陣形に多い2-4-4や3-3-4にしても、3-2-2-3ほど単純明快ではなくともただ横並びではなく少し段差をつけるような配置になっている事が殆どだ。
逆に攻撃がある程度上手くいった場面を見ていくと、例えば下記画像の16:30前後のチャンスではバックパスに備えたマグワイア+GKオナナ込みで(2-)3-2-1-3と相手のFW-MF,MF-DFのライン間に選手を配置できる構造になっている事が分かる。
また、マクトミネイも2試合連続ゴールかつチーム内の単独トップスコアラーと見栄えする結果を残しているが、攻守において何処に居ればいいのかというその場の判断能力がトップ層と比較すると低く(具体的には右サイドのダロト斜め前に流れてアントニーのスペースを消してしまったり、ホイルンドの意図を読まない動きでチャンスを潰したり)、尚且つスキャニングやボールを受ける際の体勢も良くない。そしてそれらを埋め合わせる圧倒的なボールスキルや運動量がある訳でも無いので、セントラルMFの人員として換算する限りスタートから使える選手と言えないのが正直なところ。
⚽️2試合連続ゴールの @McTominay10 👊#MUFC || #SHUMUN https://t.co/rnqm2bcroM pic.twitter.com/i89LpzgjUr
— マンチェスター・ユナイテッド (@ManUtd_JP) October 22, 2023
得点パターンも後方からスッとボックス内のギャップに入って瞬間的なシュート技術の高さというのが持ち味であるゆえにターゲットマンやCFとしてすぐ戦力化できるかは微妙な所で、今のままではセカンドストライカー起用くらいしか活かす術が無いというのは少々使い勝手が悪い。
失点シーンについての直接的な因果もマクトミネイのハンドであったが、こちらに関してはボールロストの原因はブルーノの余りにも状況を顧みない一発狙いの対角線のロングボールが精度も低くカットされた所にあるので、ボールに向かって腕を伸ばしてしまった身体のコントロールという部分に落ち度はあるにしろ、こちらに関してはまだイクスキューズがある。
A first of the @premierleague season for our number nine.
— Sheffield United (@SheffieldUnited) October 22, 2023
Oli McBurnie from the spot against Manchester United. 9️⃣ pic.twitter.com/VUgFzSlM81
そのブルーノは36分にもあわや失点直結のカウンターに繋がりかねないというサイドチェンジのエラーを犯しており、そちらではリンデロフの素早いスライディングに救われたが全体的にDecision Makingに疑問符の付く場面が普段よりも多かった印象。44分のFKではクロスバー直撃のシュートを放っていたように足元の感覚はそこまで悪く無さげに思えるのでその自信が却って逆効果になったのだろうか?
38分にはダロトとアントニーの右ユニットの連携から、アントニーのやや遠目のインスイングクロスにファーでラッシュフォードが合わせて折り返しにホイルンドが僅かにタイミング合わずという場面があったが、アディショナルタイム2分にもゴール前で決めきれないシーンがあった。チャンピオンズリーグではスコアを重ねているので杞憂だと思うが、このあと一歩は試合を重ねていく事での関係性の構築で改善されるのか、或いはそうでないかを継続的に観測していきたい。
後半
ハーフタイムの選手交代は両クラブ行わず。マン・ユナイテッドは選手構成を鑑みないあまりに無秩序なビルドアップ時の個々の動きにテコ入れを行い、中盤にスライドするのをリンデロフに固定し、その穴埋めをアムラバトのCB間への降りる動きでカバーと1つの基準を作った事で前半よりは安定したポゼッションに移行出来る時間が増加。理想とするトータルフットボールの極致は理解するも、今回のラインナップでそれを行うのは現実的では無かった。
足を引きづりながらプレーしていたマクバーニーが50分過ぎに交代し、代わって入ったかつての神童ライアン・ブリュースターは早速パンチの利いたミドルショットをオナナにお見舞いしたが、それ以降目立った活躍は無し。
冷静さとプレーの精度があればもっと楽な試合運びができたのではないかと試合を見返す度に考える55分のプレー。
強引に自分でシュートを撃たず味方を使う意思があった点については評価したいものの、選んだパスのコースやキックのそのものの質に関して余りにも問題があり過ぎる。何故これ程周辺の状況を取得しやすい状況で適切なスペースへの配球が出来ないのだろうか。それが単純なキックの失敗ならともかく、過去のラッシュフォードを見ると気付けていなかったという線を捨てきれない……
そんなラッシュフォード、58分には右サイドでアントニーが相手のスローインの連携エラーに乗じてボールを奪取して始まったカウンターから汚名返上の機会を掴むが、左足でゴール右下を狙ったシュートは枠を僅かに逸れてまたしても決定機を活かす事が出来なかった。
63分にマンチェスター・ユナイテッドは3枚の交代を行いラッシュフォードが右サイドに回る。ただ、アントニーよりも背番号10を優先した理由がけが予防やフィットネス管理等では無いのだとすれば正直納得しづらい判断。
67分のユナイテッド、CKから続くアタッキングサードでの押し込みから、エヴァンスの落としに合わせたアムラバトのミドルシュートはクロスバーに直撃。彼のペナルティボックス外からの一撃は比較的安定して枠を捉えていて、試合展開によっては膠着を打破するカギになるかも。
序盤からハイプレッシングを敢行したブレーズのスタミナはやや陰りがみられ、一歩目の反応速度や一度交わされた後の2度目のチェイスが鈍り始める。丁度アウェイチームが選手交代によってミドルサードのパスワークが円滑になっていくのと同じタイミングだったのもツキが無かった。
試合も追加タイムまで残り15分という終盤に入った折、リンデロフのキャリー→タッチライン付近で前を向ける状態で幅を取るガルナチョへのパスをキッカケにアムラバトを含めた3人のパスワークで左サイドを崩し、リンデロフはペナルティボックスの外側から思い切りよく中央へボールスピードの速いグラウンダーパスを入れる。
これを受けたダロトは予め決めていたかのようなスムーズな動きでシュートに移行し、右足から放たれたボールはカーブを描きながらGKの手を掠めてゴールマウス右上隅へ吸い込まれていった。素晴らしい勝ち越し弾!!
決勝ゴール ⚽️✨
— マンチェスター・ユナイテッド (@ManUtd_JP) October 22, 2023
👏 @DalotDiogo#MUFC || #SHUMUN https://t.co/rnqm2bcroM pic.twitter.com/tiKOT59olO
前半の項で触れ忘れていたが、オナナがショートパスではなくフィードを選ぶこと自体に絶対的な正誤は無い。ただ、ロングキックを蹴るならその収め方やセカンドボールの回収までワンセットで構築するべきであり、繋ぐ場合にしても彼を+1に勘定できないような配置が目立つのは明らかな詰めの甘さで修正するべき問題だろう。
リードしたユナイテッドはミドル~ローブロックに切り替えて後ろ重心にするか、前から奪いに行って追加点を積極的に狙うかが非常に曖昧となり、結果としてMF-DFライン間にスペースが恒常的に生まれ、負荷のかかったエヴァンスがイエローカード提示&足の負傷でヴァランに代わりピッチを離れるという残念な時間の使い方を見せてしまう。
カウンター局面ではガルナチョのスピードがかなり効いていた事もまた事実であるものの、最後の詰めの部分で苦戦するのは変わらず。ゲーム自体はそのまま1-2の勝利だが、勝ち越した後もゲームプランや個々の意思決定に疑問が残る内容。
データ
Standard
最終的なポゼッションこそ38:62でマン・ユナイテッドにとって見栄えのいい数字になったが、シュート数が2本差である事が示唆しているように決して試合をコントロール出来ていた訳ではない。
前半の20分過ぎまではむしろブレーズの方が支配率が高かったくらいで、試合後のインタビューでマグワイアは『I knew coming here, [and] I reiterated to the lads before the game, that it would be tough, especially in the first 20 minutes,』と相手が試合序盤にアグレッシブなスタイルで臨む事を想定済みであったと示すコメントを残しているが、それにしてはあまりにもハイプレスに対して無策であり、かえってこのチームの戦術理解・修正能力の低さを浮き彫りにしてしまっているように見える。
機会採点との乖離という観点から言えば、このゲームのブルーノは例えばSofascoreで8.1、FotMobで8.9とかなり高いレーティングを与えられているが、ス成功率47/63、ロングボール成功2/9という数字に表れているようにプレー選択が性急過ぎる上に全体的な精度も欠いていたので、キーパス5というチャンスメイクの数字の積み重ねを考慮したとしても、実際にゲームを見た感想としては寧ろチーム内でも下から数えた方が早いくらいパフォーマンスが良くなかった。
ゴール期待値は1.41-1.46でほぼ同程度のスコアに。ペナルティキックの存在を考慮する必要はあるが、だとしてもマンチェスター・ユナイテッドのチームとしてのチャンスクリエイト能力は量と質の両面でプレミアリーグのトップクラスとは大きく水をあけられている事は疑いようのない事実である。
ゴールエリアでのシュートは前半アディショナルタイムのラッシュフォードのシュート性のパスを受けたホイルンドの1度のみで、マクトミネイの先制点はxG0.10、ダロトの決勝点に至ってはxG0.02と難易度の高いシチュエーション。
このような得点に頼らずとも所謂ビッグチャンスに分類されるような状況を複数回ゲーム中に創出できるようにならねば慢性的なゴール欠乏症を抜け出す事は夢のまた夢。
あとがき
"Dalot is class"と日頃から声高に主張し続けている身としては彼がこのとても大切な意味を持つ一戦で勝利を手繰り寄せるゴールを決めてくれた事が何よりも嬉しく、試合内容の稚拙さもある程度許容してしまいかねないくらい鼓動が高鳴りました。
勿論来週のマンチェスター・ダービーへの不安は募っているものの、完成度に差があり過ぎて今のユナイテッドでは何か神風のような援護でもない限り厳しい相手なので……
最後に、己が力量なりにという意味ではここしばらくのマグワイアは一時期に比べればまだまともな出来栄え。とはいえ不安要素はそのまま変わっていないように思える為、他との比較でも勝負できるくらいポジショニングの良化や思考処理の高速化を見せて欲しい。