いろ覇のFM新参者~フットボールの虜

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football managerというシミュレーションゲームであれこれやっていきます。気付いたらユナイテッドの事ばかり書いてます

【 #PremierLeague 】ボーンマスのオニールが解任、後任はイラオラ

 

オフシーズンは選手だけでなくマネージャーやコーチングスタッフの移動も盛んになりますが、ガリー・オニールを突如として解任し、そのすぐ後に昨季までラージョ・バジェカーノを指揮していたアンドニ・イラオラの就任を発表したボーンマスの迅速な動きには正直驚かされた。

 

今回はオニール解任の理由と思われる点や、後任指揮官の特徴について書いていく。

 

 

 

 

オニールとボーンマス

 

オニールはシーズン開始直後、2022年8月の内に解任されてしまったスコット・パーカーの後を継いでチェリーズの暫定指揮官の座に就任。

 

初期の英断としては、DM/CMとしては得点能力が高く190㎝を越える身長と横幅の大きさからボールの収め所としても有効的なフィリップ・ビリングの前線へのコンバートで、6節フォレスト戦から11節フラム戦までの5試合で3ゴール1アシストと所謂解任ブーストで一時好調であったチームを牽引する活躍を見せた。

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この時の実績が評価されて11月下旬からは正式にチームのボスとなったオニール。ただ、その後は長い不振に突入してしまう。ワールドカップ中断前最後の試合であったエバートン戦の勝利の次に勝ち点3を得られたのは何と年が明けて2月のウルブス戦と1勝に8試合を要し、3月にはリーグ最下位まで落ち込むなどこの頃の見通しは非常に暗かった事は間違いない。

 

しかし、起用する選手と採用するフットボールの中身をより直線的で身体能力重視に転換した(ように見えた)終盤戦は再び暫定指揮時代の勝ち点積み上げペースを取り戻していく。27節にリバプールをホームで撃破した事を歯切りに、フラム,レスター,トッテナム,サウサンプトン,リーズとリーグ中位~残留争いまでのライバルクラブ達を続々と負かして最終結果は15位。

 

先に触れたビリング以外にもCBのマルコス・セネシ,アタッカーのマーカス・タヴァーニア,冬加入のダンゴ・ワッタラなど、タレントが全く居ないという訳では無いが、Transfermarktが算出する所属選手の市場価値でリーグ19番目と決して恵まれているとは言えない環境で暫定監督からチームを残留に導いた手腕は高く評価された。

 

 

英雄のまま別れるという選択肢

 

一見すると今回の監督人事はクラブ側の暴走にも映るかもしれない。

 

実際、結果だけ見ればオニールはチームを残留させた英雄なのだが、チーム得点37はリーグ17番目、失点71はボトム3と内容的には降格したクラブと大差ない水準であり、understat.comのポイント期待値では最下位、正直に言えばトップフライトでの続戦機会を手に入れた事に関しては幾らかの幸運に恵まれたというのは確か。

参照:EPL xG Table and Scorers for the 2022/2023 season | Understat.com

 

また、オニール自身の試合内容に加え、クラブの内情の変化も今回の交代劇の一因と考えられる。クラブ史を振り返る中で、2000年代後半には深刻な財政危機で消滅の危険も経験したチェリーズが栄光を掴みとっていくキッカケになったのは、クラブOBでもあり現在ニューカッスルの指揮官を務めているエディ・ハウの存在に加え、2011年のマキシム・デミンの共同オーナー参画だろう。

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一度はバーンリーに引き抜かれたハウを再びマネージャーとして呼び戻すと、サウス・ウエストの小規模なクラブはロシア生まれの大富豪の力も借りて戦力と設備を上積みしながら、2015年にはクラブ創設から125年にして遂に初めてのトップフライト昇格を手繰り寄せる。

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プレミアリーグでも持ち味のアタッキングフットボールを変える事は無く、哲学を貫いてチェルシーやマン・ユナイテッドといった遥かに規模の大きいメガクラブを打ち破る様は多くの称賛と尊敬を集め、2年目のジンクスも寄せ付ける事無く5季に渡りプレミアの一員であったことは広く知られている。

 19/20シーズンには怪我人の続出でシステムを固定出来なかった事に加え、カラム・ウィルソン,ジョシュア・キング,当時のチーム内2大ストライカーもそれを覆す程の活躍とはいかなかった為に降格を経験するが、チャンピオンシップ復帰後は初年度からプレーオフに顔を出し、2季目で再昇格を決め短期間で最高峰の舞台に復帰。

 

そのようなチェリーズとデミンの関係性であったが、2022年12月に保有する株式を全てアメリカの事業家ビル・フォーリーが率い、持株企業カンナエ・ホールディングスが過半数を所有するパートナーシップ、ブラックナイト・フットボールクラブに売却した事で袂を分かつことに。

 

 通称BKFC。ボーンマス買収からしばらくして、リーグ・アンFCロリアンの株式も取得(一部報道によれば33%)し、2つのクラブはマルチクラブ戦略による運用が開始されるとのこと。23年冬のマーケットでチェリーズに加入したワッタラはいわばその先駆け的存在。ビル・フォーリーはNHLのベガス・ゴールデンナイツのオーナ―としても知られる。

 

新オーナーは買収後初めての移籍市場で6人の選手を獲得しているが、その内3名がクラブの歴代移籍金の上位5人に入る点やマルチクラブ・オーナーシップを導入した事実を見ても前体制よりも野心家であろう事は容易に推測され、功労者であるものの、これ以上の向上は見込めそうに無かったオニールを切ったのもそういう意味では合点がいく。

 

 

イラオラの戦術的特徴

 

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アンドニ・イラオラと言えばアトレティック・クルブの絶対的な右フルバックとして公式戦500試合以上に出場した現役時代の印象が強いが、既にマネージャーとしてのキャリアも5年を越え、スペイン有数の若手指揮官としてコーチとしても才覚を爆発させている最中。

 

昨シーズンのラージョを少し振り返ってみると、基本システムは4-2-3-1でサイド攻撃を重視し、振り分けるならポゼッション志向ではあるが、ゆっくりとテンポをコントロールするのではなく、ダイレクトプレーを多用し少ない手数でゴールを狙うハイリスクハイリターンな戦い方でターンオーバー(攻守が入れ替わること)の多さも特徴的。ウイングプレイはアタッカー,フルバック,CMorOMの3ユニットで構成される事が殆どで、これはプレミアリーグのクラブで言えばフラムに近い。

 

また、ボールを失った後のカウンタープレスの強度と、高い位置でのブロックを敷く際にトップ下ではなくウイングの選手が前にスライドして4-4-2を形成する事も特色の1つであり、最初はゾーン守備で対応するが、ウイングが斜めに入って行くことで必然的に片方のサイドを制限させやすく、もう一方のサイドにボールが入った瞬間に今度はチーム全体を圧縮させるマンマーク守備へ移行する。

 

リーグで3番目に低いPPDAとリーグ最多のDispossessedの数という一見すると相反するスタイルを両立させているイラオラのやり方は、現役時代にマルセロ・ビエルサエルネスト・バルベルデといった積極的な守備構築に長けた戦術家の元でプレーしていた経験にも大いに影響されていると考えられ、消耗の激しいハイプレスをベースにしながら、展開と相手によっては中央を固めるミドルブロックを併用する点は正にこの2人をミックスした守備と言えるのでは。

 

Passes Allowed per Defensive Actionsの頭文字を取った造語。敵陣側60%のエリアにおける自チームの守備アクション辺りの相手チームのパス本数で算出され、プレッシングのスタイルを判別するのに用いられることが多い。

 

テイクオン以外で相手のタックルによりボールを奪われた数

 

攻撃では先述した手数をかけないスタイルが不変だが、一方で守備構築は自分たちの強みをぶつけていく事に拘泥するというよりも相手毎に細かくエンゲージラインやボールの奪いどころを変えていく為、分析が進みやすい対強豪クラブにアップセットを起こす事が多く、特にバルセロナ相手にはリーグ戦通算4試合3勝1分と鬼神の如き強さを誇っている。

 

イラオラのチームがこれまでに見せたパフォーマンスは、プレミアリーグで最重要とされるstrengthsintensityにおいて適応する部分が多く、22/23の時点でジェシー・マーシュ解任後のリーズが熱烈なラブコールを送っていたように、既にリーグ内での評価も高いと思われる。バジェカスで魅力的なフットボールを展開した新進気鋭の若手指揮官を、クラブとの契約満了という絶好のタイミングで他に先んじて獲得出来たチェリーズは来季の台風の目になり得る。

 

気がかりがあるとすれば、言語面の対応とそれに伴いコーチング能力が発揮しきれない恐れだろうか。現役の最後をアメリカで過ごした事を考えれば、英語が全く話せないという事はないと思うが、細かいニュアンスを伝えるのは通訳を通してでは難しい部分もあり、スペイン語話者の少ないボーンマスでは思わぬ苦戦を強いられるかもしれない。

 

上述のように不安が全くない訳ではないが、確固たる自身の哲学を持った青年監督がイングリッシュフットボールに挑戦してくれるのは1人のプレミアリーグのファンとして非常に楽しみにしている。

 彼が評判通り上手く行けば、今はショックを受けているであろうオニールも後の成功の礎として評価されて職に困らないだろうし、クラブの決断自体も正しかったと判断されて関わる人間の多くが喜ぶ結果になるのではないだろうか。