昨日、川崎フロンターレの三笘薫選手がイングランドプレミアリーグのブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFCと契約を結んだとThe Athleticより報じられました。
同記事によれば、現時点で三笘はイギリスの労働許可証取得に必要なポイントを有しておらず(高額な移籍金があれば特例で認められるケースも存在します)、21-22シーズンはシーガルズ(ブライトンの愛称)の会長トニー・ブルームが2018年に買収したベルギーのプロクラブ ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズへのローン移籍する事が濃厚とされています。
マンチェスター・ユナイテッドへの移籍が濃厚とされながら今年の冬移籍デッドラインデイにブライトンへの移籍が発表されたモイセス・カイセドを始め、今オフはレッドブル・ザルツブルクからエノック・ムウェプの獲得を早々に決めるなど、Brexit前後からクラブはヨーロッパ以外の地域の有望株を集めていますが、今回はそんなシーガルズの補強方針の中核を担っているとされる人物に焦点を当ててみようと思います。
ブライトンにDan Ashworthあり
左端がダン・アシュワース。中央はお馴染みスリーライオンズのガレス・サウスゲート監督。
WBAのテクニカルディレクター、更にはイングランドサッカー協会(FA)でも要職に就き"England DNA"と呼ばれるエリート選手育成計画の考案者の1人でもあり、現在のイングランド人若手プレイヤー隆盛の礎を築いた立役者とも言えるダン・アシュワース(Dan Ashworth)がブライトンでテクニカルディレクターに就任したのは2019年2月のこと。
当時のクラブはマンチェスター・ユナイテッドに3vs2で勝利するなど好調だった前半戦が嘘のように連敗を重ねており、最後の20試合で僅か3勝に終わりシーズン終了時の順位は降格圏の18位カーディフと勝ち点2差とギリギリの残留に終わったチームは昇格の立役者クリス・ヒュートンと袂を分かちました。
後任にはスウォンジーでその攻撃的なフットボールを高く評価されていた新進気鋭の若手指揮官グラハム・ポッターを迎え入れ、彼の希望に沿って大幅な選手入れ替えを敢行します。
2019年夏は総勢€68M超の大補強、2020年夏は将来性を見込んだ若手やフリートランスファーの中堅を中心に€30Mを投じ、補強の成功率も極めて高いです。
その証拠としてクラブの20-21シーズンプレミアリーグ出場時間を上から順に見ていくと1,000分を超えている14名のうち半数の7名がアシュワースのTD就任後に獲得されたプレイヤーで、ベン・ホワイトとロベルト・サンチェスは19-20のローンを経て昨季レギュラー獲得に繋がっているのでアルゼンチン国内へのローンが続いたアレクシス・マック・アリスターを含めると10名がアシュワースの絡む移籍で活躍に至ったプレイヤーという事になります。
更に、怪我で後半戦を棒に振ったものの、イングランド代表選出も噂された程のパフォーマンスを見せたRBタリク・ランプティも19-20冬にチェルシーU-23より獲得した選手で、今のシーガルズは大半がアシュワースの目利きにかなった選手によって構成されているといっても過言ではないでしょう。
ファンベースでも彼の仕事は高く評価されており、Brexitに戸惑う他クラブをよそに三笘に続くEU外のタレントとしてCAインデペンディエンテのワンダーキッド アラン・ベラスコにも触手を伸ばすなど、今後もブライトンとDan Ashworthの手腕からは目が離せません。
来季、三笘の第1の目標はリーグ戦1224分以上出場
今後三笘の辿る道のりの先駆者と言える存在が南アフリカ代表のパーシー・タウ。
1994年生まれのタウは母国リーグで年間最優秀選手に輝いた活躍等が評価されて2018夏の移籍マーケットでクラブに加入。18-19シーズンは先述した系列クラブのユニオンSG、19-20シーズンはベルギーの強豪クラブ・ブルッヘ、20-21シーズンはアンデルレヒトでの半シーズンローンを経て2年半ぶりにブライトンのスカッドに入ると、シーズン終了時までにFAカップとリーグ戦3試合ずつ合計6試合に出場。
シーガルズに加入してからトップチームの試合に出場するまでにかかった期間は日数にして900日以上と大幅な遠回りを強いられたものの来期以降は出場機会の増加が期待されています。
また、クラブ・ブルッヘでは絶対的レギュラーとは言えなかったもののリーグ戦の90分換算で0.80点(0.30G+0.50A)に関与する活躍。
2019年10月1日のUEFAチャンピオンズリーグ vsレアル・マドリー戦ではカウンターからエマヌエル・デニス(6月21日にワトフォードへの移籍が発表)の先制点をアシストするなどヨーロッパの舞台でもその名を轟かせました。
話を三笘選手に戻します
労働許可証の基準となるのはGBEというポイントベースのシステムで、15点を越えればクリアとなりますが、ベルギー1部ことジュピラーリーグはBand2に位置し、1試合でもベンチ入りすれば10Pts獲得。そして直近一年間で40%以上のリーグ戦出場時間を確保すれば残りの5Ptsを上回る事になるので、三笘選手の実力ならば大きな怪我や監督の不和さえ無ければこの基準は十分に突破可能でしょう。
21-22シーズンのジュピラーリーグのレギュラーシーズンは18チームのH&A総当たり全34試合が予定されているので34(試合)×90(分)×0.4=1224分が計算上では翌シーズンのプレミアリーグでのプレー資格を得る為に最低限必要な水準。
(参考:Points Based System - Rules & Regulations | The FA一番目のPDFを基に計算)
更にブライトンでの未来を考慮すれば2000分+G&A:10以上は求めたいところ。
また、大目標としてはクラブの主力で2019年夏にKRCヘンクから€20M(source:
Leandro Trossard - Player profile 21/22 | Transfermarkt)で加入したレアンドロ・トロサールが移籍前年度にマークした14G7Aという数字。
*トロサールは現在開催中のEURO2020でもベルギー代表に選出されグループステージ第3戦 フィンランド戦に先発出場。
仮に三笘が来年以降ブライトンでプレーする事になった場合、レギュラーポジションを獲得する為の直接的なライバルになる可能性が高い選手でもあるので当面の間は"目指せ追い越せトロサール"となりそうです。
パーシー・タウのケースではこの新ルールが適用されていない期間が長かった為に過去2年間の代表戦出場率をベースにした旧制度に阻まれて親クラブでデビューするまでに900日以上もかかってしまいましたが、今の仕組みならば彼も1シーズン早くブライトンでプレーしていたであろう事は間違いない。
普段、イングランドプレミアリーグを中心にフットボールを観ている身としては、三笘薫選手のようなJリーグのスタープレイヤーがあの舞台に挑戦するかもしれないという事にワクワクを抑えきれないので、まだ21-22すら始まっていない段階ですが早くも22-23シーズンが待ち遠しい。
出場機会が無かった序盤、ハットトリックは転機になるか⁉
ユニオンSGは昨季のベースをそのままに1部でも首位を快走しており、フェリス・マッズ率いる今のチームは三笘の得意とするウインガーを置かない3-5-2のシステムを採用している事もあってレギュラーシーズン10試合が終わった段階で三笘薫選手のリーグ戦出場は僅か4試合51分に留まっていました。
以前書いた部分で彼のクリアしなければならない最低条件{34(試合)×90(分)×0.4=1224分}を算出しましたが、このままではこれを突破する事はかなり難しいと言わざるを得ない状況です。
しかし、苦境に立たされる状況で彼は自身のクオリティを証明。
それがジュピラー・プロ・リーグ レギュラーシーズン11試合目 vsR.F.C.スラン戦
右の攻撃的MFで出場していたJean Thierry Lazareが前半の終わり間際に審判への侮辱的態度でこの日2枚目のイエローカードを提示されて退場。
後半開始と共に右WBのBart Nieuwkoopに代わってピッチに登場した三笘は、スクランブル起用と2点ビハインドの影響もあって本職のLWに近い3-5-1(3-2-3-1)の3の左としてプレー。
持ち前のスピードと仕掛けのドリブルで1人少ない状況ながら左サイドを制圧し、更にフィニッシャーとしてもシュート数4で3ゴール ハットトリックを達成しています。
.@kaoru_mitoma was unstoppable 🔥#jupilerproleague #usgser pic.twitter.com/qlABg7iwPi
— Pro League ⚽️🇧🇪 (@ProLeagueBE) October 19, 2021
FBrefの出場時間データをベースに考えてみると、現在、ユニオンSGの3-5-2で三笘選手のこなせる可能性のあるポジションでメンバーが比較的流動的なのは右の中盤とWB。
(https://fbref.com/en/squads/e14f61a5/Union-SG-Stats)
チャンスメイクの中心であるマルタ代表のTeddy Teumaを右にスライドさせれば左の中盤もあり得る選択肢ですが、いずれにしても攻撃面だけでなく守備でのアピール、特にデュエルの強さが要求されるでしょう。
ハットトリックでFWの選択肢に入れるならば幸いなのですが、現状のレギュラー2人はDante Vanzeirが得点ランク3位タイの8ゴール(4アシスト)、Deniz Undavが同6位の7ゴール(6アシスト)と目覚ましい成果を残しているのでそう容易い道ではありません。
ただ、三笘のスタッツはローン元のブライトンのように中盤を一枚アタッカーに割いて3-4-3(3-4-2-1)にフォーメーションを変更する事を監督の頭によぎらせても不思議ではない高水準なので、まずは目の前の出場機会で着実に結果を残し続けることが肝心。