個のスキルは全ての根底にあるもので勿論重要ですが、拮抗した中でユニット単位での陣取り要素が勝敗を分けたような展開になった事も忘れてはいけない。

【Match Review】スペインvsイングランド

スペイン
1 Raya, 4 Nacho, 5 Vivian, 6 Merino, 9 Joselu, 11 Ferran Torres, 12 Grimaldo, 13 Remiro, 15 A.Baena, 18 Zubimendi, 21 Oyarzabal, 22 J.Navas, 25 F.López,
イングランド
8 Alexander-Arnold, 12 Trippier, 13 Ramsdale, 14 Konsa, 15 Dunk, 16 Gallagher, 17 Toney, 18 A.Gordon, 19 Watkins, 20 Bowen, 21 Eze, 22 J.Gomez, 23 D.Henderson, 24 Palmer, 25 Wharton
前半

ルーク・ショーがLBに入ったイングランドはトーナメントで一定の成果を上げたサカWBの可変システムではなく、シンプルに4-2-3-1で戦っていく。一方のスペインもファビアン・ルイスの上下動でアンカー+2枚のCMかダブルピボット+トップ下かを使い分けるいつもの形は変えず、互いに守備陣形が噛み合いやすかったためにそれ程大胆に動きがあるような序盤ではなかった。
イングランドはダニ・オルモ、スペインはメイヌーとビルドアップの出口になりつつライン間でのレシーブ及びその後の配球やシュートで脅威になる中盤の選手を強く警戒し、彼らがこれまでほど自由に動けなかった事も締まった試合になった理由の1つ。相手CBに張り付いた所からMF-DFライン間に下がって縦パスを引き出すモラタ、イングランドの4-4-2守備に対して3人目のCB化して数的優位を作るロドリらの動きでビルドアップで苦労する事は無かったが、そこから先のイングランドのブロックを崩しきる決定打も同様に存在しなかった。
ラ・ロハの躍進を支えるヤマル、ニコの両ウイングはウォーカー,ショーと純粋な1on1で打開する事はそう容易ではないデュエル自慢のイングランド両フルバックに対してこれまでとは違い単独ではサイドでの優位性を作れなかったが、対ウォーカーでは右サイドから早めにクロスを入れる事を強く意識してクロス対応の悪さを積極的に突き、対ショーでは選手なのか横のラインなのか縦のレーンなのか、何を基準にマークを定めているのかがハッキリしないスリーライオンズ左サイドの連携面の不安をカルバハルの的確なポジショニングで露呈させてユニット単位での優位は確保した。
一方のイングランドはスペインの中盤逆三角形をミドルサード以降では4-2-3-1の2-1でマンツーマン気味にマークする守り方が有効であり、スローイン,カウンター,セットプレーといった身体能力をフルに活かせる局面からスペイン陣内でのチャンスを作り、左大外を順足のショーが取る事でプレスのハマり所になりづらくなった事やサカvsククレジャ対面で打開してゴール前にボールを運んでいく。ル・ノルマンが攻守に瞬間的な状況判断を求められると粗を出す為、彼の周囲でプレーが出来れば得点機会が生まれる。
後から振り返ったとき、試合の行方を左右していた事が分かったプレーは45分、後ろ向きでボールを持つカルバハルからベリンガムがボールを奪い始まったイングランドのカウンター。中央でパスを受けたケインのシュートはロドリにブロックされるが、このプレーが影響したのかスペイン中盤のキーマンは前半いっぱいでピッチから離れる事となる。ポゼッション時の貢献のみならず守備でも危険なスペースを消し、時に球際で決定機を防ぐ等絶対的な存在だった彼を欠く事でラ・ロハは苦しい展開になるとばかり思っていたのだが……
後半
スペインはロドリに代わりスビメンディを投入。ポゼッション時の形がアンカー+2枚のNo.8からダブルピボット+OMに代わった事で得られた思わぬプラスについては後述する。
47分、ベリンガムの斜め後ろかつショーがスライドするには高いという絶妙な位置取りをするカルバハルにファビアン・ルイスから縦パスが入ると、百戦錬磨のベテランRBはヤマルのマークが甘くなっている事を見抜いて右足アウトサイドでダイレクトパス。チャンスボールを受けた若きRWはそのままゴール前に向かって斜めにドリブルし、ダニ・オルモのオフボールに合わせてウォーカーが絞った瞬間を見計らって大外のニコへラストパスを送ると、最後はピックフォードの動きをじっくりと見ながらファー側のサイドネットへボールスピードの速いグラウンダーショットを蹴り込んでラ・ロハ先制!!
🇪🇸 後半立ち上がりにスペイン先制!🏴
— GOAL Japan (@GoalJP_Official) July 14, 2024
0-0で試合を折り返した #EURO2024 決勝、47分に #スペイン代表 に先制ゴール!
ヤマルがドリブル突破からラストパス。ニコ・ウィリアムズがシュートを流し込みネットを揺らす!
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右でチャンスクリエイト→左で決めるという形は前半から狙っていたが、中盤構成を後ろ重心にした事でイングランドの前線守備にメイヌーが参加するようになり、上下動を繰り返すスタミナの無い彼がターンオーバーの際に間に合わず中央の守備強度が低下するという構造が生まれやすくなった為、上記の先制点直後にもオルモの決定機を作る等ロドリ離脱がスペインにとっては思わぬ展開利となった。
なお、ライン間でボールを引き出して展開する事も少なく、そもそもゴール前までボールを持っていけない状況が続いた後半はより一層存在感が希薄になっていたケインを60分で下げてワトキンスを投入した判断を個人的には支持しているが、これは代表チームの王がケイン→ベリンガムへ変わった事を示唆する決断でもあり、1つの時代が終わった瞬間かもしれない。

ワトキンスは背後を狙う動きを好むのでDFライン前にスペースが生まれ、ベリンガムの推進力が活きるようになった。
同点に追いつく必要のあるイングランドは重心を前に持っていきたいところだが、ショーが持ち場を離れて上がった際のグエイのコミュニケーションが悪くヤマルのマークが空くシーンが散見され、メイヌーは上下動が増えて既に疲労困憊。サウスゲートはメイヌーに代えてコール・パルマー投入を決断し、中盤のフィルター役はライス1人に任せて得点能力・創造性の高い若手カルテットの同時起用に踏みきる。

すると73分、スペインのカウンターを凌いだイングランドはゴールキーパーのスローイングから一気にスピードを上げて相手陣内に侵入し、サカがタメを作るとボックス内でパスを受けてベリンガムが潰れ役となり、最後は後ろからタイミングよく合わせたパルマーのミドルショットで同点!!
角度的に打つ前に入ると思ってしまったパルマーのゴール
— SR0415"93"🦆🦆🦆🦆 (@sergio0415ramos) July 15, 2024
カウンター早かったよなー pic.twitter.com/PCmCyRhhOU
3-1-1-5でベリンガムが遊撃になるイングランドのハイリスクな攻撃に対し、誰が中盤からバックスに降りて人数差を埋めるかという部分を整備する前の僅かな隙を突かれた事がスペイン視点から見た失点の要因であり、ロドリ負傷後の中盤構成変化も含め陣取りゲーム的要素が試合展開に大きな影響を与えている事が分かる。
ライスの守備負担は更に高まった点については、グエイがオルモに迎撃することで対応したイングランド。一時的にはこれがプラスに作用していたのだが、前後の動きが増えた事で彼の消耗が加速した事をケアし切れなかったのは後から振り返ると後悔したくなる要素。
アタッカー陣が元気な一方で疲弊するバックスはトランジションが遅くなっており、折角ボールを奪ってもその後のパスコースが無くスペインのカウンタープレスで直ぐに奪い返されるシーンが増えていく。82分のスペインの決定機はピックフォードの素晴らしい反応で何とか危機を凌いだものの、序盤から怪しい対応が多かったル・ノルマンを終盤で交代したデ・ラフエンテの采配を加味すると、この異変を感じ取れたか感じ取れなかったかが勝敗の分かれ道である。
86分、ワトキンスのDFライン裏へのオフボールに対しグエイがロングボールを蹴るが、味方がセカンドボールを回収出来る状態ではなかった上にキック精度が伴わずスペインボールのスローインに。リスタート後間延びした1stプレス隊の背後でオルモがノンプレッシャーでパスを貰い、オヤルサバルへの意表を突いたアウトサイドパスから彼がダイレクトで外へ叩くと、丁度左外に走り込んでいたククレジャはダイレクトでゴール前へグラウンダーのパスを送り、オヤルサバルはグエイの前を取ってボールを押し込み値千金の勝ち越しゴールを奪った。
🇪🇸 #EURO2024 優勝へ導く決勝ゴール!🏴
— GOAL Japan (@GoalJP_Official) July 14, 2024
イングランドとのEURO2024 決勝、試合を決めたのは途中出場の #オヤルサバル!
ダニ・オルモ → オヤルサバル → ククレジャ → オヤルサバルのパスワークで鮮やかに崩した!
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グエイのエラーが連発したので彼に批判が集まりがちな失点ではあるが、先述の通りエラーが生じやすい状況が作られていた事と、その前から簡単に相手FWに前に入られる場面が何度かあったことを見逃したという点で指揮官にも至らない部分があったと思う。 ただ、グエイの守備はこの試合以外だけでなく全般的に自分の身体能力の高さに自信があるのか動き出しの準備や初期対応が甘い事が多く、確かに大半はその後のリカバリーの速さで危機を凌いでいるが、より完成された選手になる為には改善しなければならない要素だ。
何度もビハインドから試合をひっくり返してきた成功体験もあってまだ目の死んでいないイングランド、アディショナルタイム直前にはCKからライス、グエイに連続して決定機が訪れたものの、それぞれウナイ・シモン、オルモの素晴らしいブロックに阻まれて得点に結びつけられなかった。
スコアは2-1から変動せず、ラ・ロハがアンリ・ドロネートロフィーを掲げて4度目の欧州王者に輝く。大会MVPにはロドリ、最優秀若手選手はヤマルが受賞し世代バランスの良さも含めてこれが完成系ではなくまだ発展途上というこのチームは2年後のワールドカップでも有力な候補である。
🇪🇸 Spain are champions of Europe 🏆#EURO2024 pic.twitter.com/Ch0AF0iPWl
— UEFA EURO 2024 (@EURO2024) July 14, 2024
一点、カルバハルという「気が利く」の極致にいる選手が大ベテランの域に入っているRBを除けば。