※23/24 イングリッシュプレミアリーグ
ブレントフォードvsマンチェスター・ユナイテッド戦の記事です。
投稿が遅れました、イベントの多い桜の時期に体調を崩す事に高い再現性があるいろ覇です。
ある人は純粋な身体スペックが足りず、またある人はその瞬間で自分が何をすべきかという思考力が足りず、そのまたある者はチームの為にハードワークする献身性に欠け、全体の意思統一でも遥かに劣るといったようにあらゆる粗が表面化するのがビーズとの試合を振り返る。
The points are shared following a dramatic finale.#MUFC || #BREMUN
— Manchester United (@ManUtd) March 30, 2024
【Match Review】
Starting lineup
前半
ブレントフォードは3-5-2ベースでシステムというよりは相手選手を基準に柔軟に形を変化させていき、ユナイテッドが後ろ3枚で組み立てるなら2トップ+ボールサイドのウイングバックが出ていき、メイヌーのアンカーではなくマクトミネイとのダブルピボットになれば中盤3枚の真ん中に収まるヴィタリー・ヤネルトが前にスライド。WBやヤネルトは細かい上下のポジション修正の要求量が多いので、まだ分かりやすいサイドならともかく中央で難なくこなす後者の戦術理解と情報処理能力の高さはもっと評価されていいかもしれない。
また、イヴァン・トニーをターゲットにするロングフィードは自陣の背中側のスペース管理の意識に乏しいワン=ビサカと身体能力勝負ではどうしても苦しい所があるリンデロフの合わせ技で高確率でチャンスに繋がり、彼はただコンタクトプレーに強いと言うだけでなく裏抜けを試みる際にしっかりとスピードに乗れる助走距離を取って走り込んでくるので厄介。
一方のユナイテッドは相手のMF-DFライン間に入ってパスを要求する選手が足を出してインターセプトされる範囲に留まっているケースが目立ち、なおかつバックス裏に走り込んでスルーパスを引き出したりライン間自体を広げようとするオフボールが極めて少ないので折角ポゼッション出来ている時間帯でも全くもって脅威になるような攻撃を生み出せない。
例えば、24分のブレントフォードのチャンスはユナイテッドのプレッシングの無秩序な面が現れており、ウインガー(ガルナチョ)が相手CBを見ている際の大外で幅を取るWB(ルイス=ポッター)を誰が後ろからスライドして見るのかがチームとして整備されていないところからノンプレッシャーで前進を許し、尚且つボールサイドの相手を埋める意識が希薄なので人数が余っているにも関わらずフリーの選手が生まれている。結果的にトニーのシュートがポストに跳ね返って事で失点こそしなかったものの、完全に運だけで凌いだに過ぎない。
また、ヴァランについてもリンデロフとの距離感が広すぎて間にスペースに容易に侵入される回数が多く、恐らくクロス警戒でマーカーとある程度間合いを取りたかったのだと推測されるが、塩梅が悪くかえってグラウンダーのスルーパスの温床に。フォローを入れるとすれば、ハイボール対応がかなり苦手なワン=ビサカの分まで自分で何とかしようとした結果とも言えるものの、ポゼッション時のプレー選択や意思決定までの時間に加えて守備面でもこの2人の相性は最悪かもしれない。
セットプレーとその後の2次攻撃やファーへのクロスを折り返してゴール前のカオスという明確なフィニッシュワークの形をチームとして共有しているように見えたブレントフォードの前によく言えば瞬間的なひらめき、悪く言えばその場しのぎで哲学を感じないユナイテッドは劣勢が続き、前半だけで14本ものシュートを許し自分たちは3本しか放つことが出来なかった。
後半
ハーフタイムでヴァランが下がりマグワイアを代役としてピッチに投入。マグワイア-リンデロフの機動力不足はやはり明らかだが、前半から既にロングボールでトニーやルイス=ポッターにやられ続けていたので悪い意味で変化は無い。
ボールサイドの守備でも頻繁に集中力を欠くワン=ビサカや、自陣ボックス内の守備で何故か人を捕まえに行かず一直線に守ってマイナスのパスを容易に許すフィールドプレイヤーの配置という後の伏線になってしまう対応もありながら、それでもオナナの活躍で何とか失点だけは避け続ける。
いい意味での変化はラッシュフォードのプレー傾向が対面DFへ突っ込んでいくハイリスクローリターンのテイクオン一辺倒では無くなりつつある点で、顔を上げて右足のインスイング軌道のキックを蹴られる位置にボールを置きながら味方の準備が整う時間を作り出す場面が日を追うごとに増加中。一方でプレスバックでどの選手・スペースを抑えるか、或いはそもそも戻りが遅いという部分についてはまだ時間がかかるだろう。
一方、ビーズの選手でここまで名を挙げていない中から他に気になった所で言えば、3CBの真ん中を務めたクリストファー・アイェルの器用さで、出力の高さは折り紙つきながら怪我がちで中々じっくりプレーを見る機会が無かったこともあるが、右足のトリベーラ(アウトフロントキック)でクロスを上げる場面やセットプレーでゴール前に上がった際の身のこなしの軽さなど、身体操作能力の優秀さを随所に発揮した。離脱が減ればそれこそ往年のリオ・ファーディナンドやファン・ダイクのような万能かつ絶対的な選手になっても不思議ではない。
70分手前でリンデロフに脚のアクシデントがあり、CBを両方交代せざるを得なくなったユナイテッド。チームの危機に登場したのは2月4日のウエストハム戦以来およそ2カ月ぶりの戦列復帰となったリサンドロ・マルティネスで、率直に言えばプレー自体はマッチフィットネス不足を随所に感じさせる内容で決して良いとは言えないものであったものの、説得力を持たせながら味方を指示で動かせるCBは彼しかいない。
73分にはウィサと交代でピッチに投入されたブライアン・エンベウモのチップキックでのクロスにトニーが倒れ込みながら合わせて先制かというシーンがあったが僅かにオフサイド。このプレーを上空カメラ視点で見ると、スペースへの動き出しを狙うトニーに気付いたリチャはワン=ビサカにもっとスピードを上げて自分がトニーよりもゴール側に来る位置まで戻れとコーチングしているが、残念ながら後者はその指示を守らずにクロスが入ってから慌てて対応しようとして先に触られている。
80分台に入ってユナイテッドはマウント、カゼミロをピッチに送り込み、ラッシュフォードに替わった入った前者はそのまま左ウイングへ収まった。
交代出場のニール・モペイがダロトと交錯し、後者の後頭部から出血が確認された事で暫くのあいだプレーが途切れた事も影響してアディショナルタイムは9分という長い時間が提示される。これが劇的な終盤の合図だったのだろう。
そしてAT6分、ブレントフォードのロングスローを弾き返してユナイテッドがカウンターチャンスを得たが、アントニーのキャリーはサマン・ゴドスの見事なスライディングタックルで凌がれた。
"Masterful from Ghoddos." ⚡️
— Brentford FC (@BrentfordFC) April 1, 2024
The work rate from Saman 👏💯 pic.twitter.com/U8huSdpihR
しかしながら、すぐさまカウンタープレスに及んだホイルンドがボールを奪い、その後アントニーからピッチ中央へのパスをホイルンド→マクトミネイといずれも身体を張って何とか味方にパスを繋ぎ、カゼミロからラストパスを受けたマウントが遂に均衡を破る今シーズンプレミア初ゴール!!
メイソン・マウントの初ゴール✅#MUFC || #PL pic.twitter.com/FlDXu9cUwR
— マンチェスター・ユナイテッド (@ManUtd_JP) April 2, 2024
後はビーズのパワープレーを数分凌げば勝ち点3が見えていたコミュニティ・スタジアムでのアウェイゲーム。しかし、またしても自身が直接的に関与したプレーの直後に気を抜いたワン=ビサカのラインコントロールエラー、そして相手基準ではなくゾーンなのか何なのかよく分からない直線守備でマイナスの選手を完全フリーにするクロス対応で前線に上がっていたアイェルが楽々同点ゴールを記録した。
データ
Standard
シュート数31:11、コーナーキック14:4と見事なまでにフィニッシュワークにまつわるスタッツでボロボロに負かされたユナイテッドは、よくこれで一時リードできたと引き分けですら喜ぶことが妥当なのかもしれない。
デュエル勝率、空中戦勝率共にビーズがユナイテッドを圧倒していて、選手の質そのものでも見た目ほど差は無い可能性もありますが、それにしてもチームとしての明確なゲームプランや各局面ごとの狙いが皆無に見えてしまう。
なお、チーム内のキーパス最多はブルーノの4本で続いて2番手がダロト。地上戦では3/4で勝利していてポゼッションロストも10に抑えた中でのこの結果なので、このようなゲームでも安定して自分の仕事をこなしている彼を改めて評価したくなる。
やはりゴール期待値もブレントフォードの圧勝で、ホームチーム視点では何故これだけ自分たちの思い描いたゲーム運びをしながらアディショナルタイムに先制を許し、追いつく事が精一杯だったのかと悔やんでいる事でしょう。ボックス外からのシュートも半数はフリーキックなので、明確にフィニッシュのパターンを決めて後はその時の選手の個の質に委ねる所まで完璧にトーマス・フランクのお膳立ては為されていた。
Brentford 1 : 1 Man Utd
— markstats bot (@markstatsbot) March 30, 2024
▪ xG: 2.87 - 1.33
▪ xThreat: 2.47 - 1.29
▪ Possession: 47.5% - 52.5%
▪ Field Tilt: 62.3% - 37.7%
▪ Def Action Height: 50.4 - 41.5#msbot_eng #epl pic.twitter.com/wJzp7FpZPx
PASSING NETWORKはバック3とヤネルト,イェンセンで相手の前線プレスを誘いつつ、一気に相手DFライン裏へのロングボールを狙ってトニーを走らせる、または横に動かすパスを続けてWBへのスライドが遅れ始めたタイミングでフリーのルイス=ポッター,ローアスリウがボールを運ぶという2軸でユナイテッドを翻弄したビーズの戦略的優位性が反映されている。
また、expected threat(脅威期待値)も15分以降は常にホームチームが上回る結果であり、上述の前進手段でボールを相手陣内に運んでからのクロスやCKから数多くの得点機会を作り出した彼らの徹底された戦いぶりには称賛の言葉しか見当たらない。
あとがき
代表戦明けの試合でこのようにコテンパンにやられると、指揮官はインターナショナルウィークの疲労に根拠を求めがちですが、明らかにガス欠だったガルナチョ以外は単純に戦術的な要素の方が大きかったのではないでしょうか。