※23/24 イングリッシュプレミアリーグ
マンチェスター・ユナイテッドvsフラム戦の記事です。
臨機応変さからはかけ離れているのがEtH体制という事が良く分かるゲームで、ラスムス・ホイルンドのボールキープ,展開力,少ないチャンスを決めきる力が抜けたチームは攻守の課題をさらけ出し続けてフラムに敗戦。内容的には負けるべくして負けたといっても過言ではない。
A late defeat at Old Trafford.#MUFC || #MUNFUL
— Manchester United (@ManUtd) February 24, 2024
【Match Review】
Starting lineup
前半
ホイルンド抜きのマンチェスター・ユナイテッドは困った時にとりあえず彼にボールを預けるという逃げ道が無くなって中央でのボールキープが分かりやすく手詰まりとなり、代わりにラインナップに加わったフォーソンにこの苦しい状況でいきなり何かしてみせろというのも酷な話。
加えて複数の事柄を頭に入れながらという守備がてんでダメなラッシュフォードをCFに持って行った弊害で前線プレスがまるで機能せず、ガルナチョが左サイドに移動した事でここ最近のチームの強みになっていたダロト,メイヌーとの3ユニットのコンビネーションが消滅し右サイドは沈黙してしまった。
一方のフラムも4-2-3-1に守備時フラット4-4-2とユナイテッドの同様の配置を採用するミラーゲームとなり、ウィリアンやパリーニャなど一部主力を欠いている影響も出ているのか、お馴染みのフルバック-セントラルMF-ウインガーの三角形を重視したポゼッションとは少し異なる攻撃が多くなる。LBのアントニー・ロビンソンはイウォビをハーフスペースへ押し出すように高い位置を取り、RBのカスターニュはバランスを重視して左上がりの可変がベースに。
ここで先発抜擢となったフォーソンについての解像度をもう少し上げていきたい。守備時にダイアゴナルの動きでハーフスペースから中央に向かうペレイラをしっかりマークした場面や、13分の連続ワンツーでフラム陣内を進んでいったところを見るとどうもウインガーではないように映る。将来的な話はともかくとして、現状は外で受けて個の力で何か出来る選手ではなく、オフボールや味方とのリンクプレーのように全体の距離感が近い瞬間に貢献するケースが目立つため、トップ下や4-1-2-3の2で見てみたい。
CKから相手に押し返されてロングカウンターを食らった21分のシーンを見ても分かる通り今のユナイテッドは身体的な出力と自己犠牲のハードワークのいずれも欠けていて、不要であると放出したペレイラが心地いいスプリントで駆け上がっていく様を見るとこのチームの内部にどれだけの膿が溜まっているのかとネガティブな感情をついつい抱いてしまう。
CK守備ではまたしても回避できるはずの要素から失点危機を作られた。具体的には184㎝で横幅も広く、マグワイアを相手にしてもボールキープ出来る程にストレングスに優れたロドリゴ・ムニスに対し、過去にも散々セットプレーのマークの甘さが顔を出していて明らかに苦手側にカテゴライズされるメイヌーを当てたこと。21分と28分の2度のピンチはどちらも得点を奪われていても何らおかしくない内容。ある意味では屈強な選手を多く起用してユナイテッドの貧弱さを突いたフラムの作戦勝ちと言える。
奇しくも、やり玉に挙がる事の多かったセットプレーコーチ、エリック・ラムジーが監督として抜擢されMLSのミネソタ・ユナイテッドへ向かう事が判明して最初の試合だが、実質的にはテン・ハフの通訳の役割が中心だったとも報道された事もある彼がどの程度この部分で影響力を持っていたのか、今後の試合でセットプレーの守備がどう変化していくかで判断したい。
FK後の二次攻撃からガルナチョのミドルをロビンソンが頭でクリアした27分のシーンやダロトのミドルショットが左ポストを掠めた31分の場面のように散発的にゴールを脅かした事はあっても、連続してフラムペナルティボックス内に侵入する機会を中々作れないユナイテッド。ホイルンドという預け先を失っている事もあってロングボールでDFライン裏を狙う単純な攻撃が多く、なおかつフラムの守備体形はミドルゾーンでのブロック守備なのでかみ合わせが悪かった為、単調な展開が続いて前半を終える。
後半
試合のターニングポイントになったのは48分の接触事故。オナナのフィード後のルーズボールに対し、カゼミロとハリソン・リードが競り合いの中で交錯。頭同士がぶつかって両者その場に倒れ込み、リードは試合に復帰したがカゼミロは治療の後歩いてピッチを離れ交代となってしまう。
カゼミロの代わりに入ったのはマクトミネイ、ついでにフォーソンも下げてエリクセンと2枚替え。
フィルター役としての貢献が大きかったカゼミロが消え、柔らかさはあっても強さや速さはプレミアリーグ水準で下の方であるメイヌーと球際でのひ弱さとトランジション局面でのついていけなさが目立つようになったエリクセンのダブルピボットになった事で中盤でのボールリカバリーが滞り、更にズルズルと下がっていくDFラインも相まってミドルサードには広大なポケットが生まれやすい構造に……
メイヌーとポジションチェンジしてダロトがエリクセン横にいる際は少し守備強度という面でマシになるが、カゼミロの代わりとして仮にマクトミネイではなくアムラバトを選んでいれば遥かに戦いやすかった事は間違いない。エリクセンの深刻な強度不足についても、カバーエリアの広い選手で穴埋めしつつ、比較的弱みが出にくい前線プレス、或いはブロック守備の1stラインに回せばある程度はケア出来たはず。
しかし、そのような細かい修正をEtHに求めても無駄であるというのはユナイテッドサポーターが身に染みて理解している。よって今のチームではエリクセンの居場所は無く、しばらくの間起用されていなかった点についてもある意味で納得がいった。そもそも、その試合その試合、或いは展開に応じてブロックなのかプレスなのかという根本的な守備の約束事すらあやふやな中、個としてのプレー強度に不安がある彼のようなタイプはどうしても割を食う。
また、リンデロフとヴァランに共通する問題として、明らかに相手に狙われている味方、或いはその後のパスコースが確保されていない状態でタッチライン際や中央の狭い空間のチームメイトにパスをする傾向が強いという点がある。スキャニング不足や敵味方の次の瞬間の行動を予測する力の足りなさなどが原因として考えられるが、年齢的にも今からの劇的な改善は望み薄か。リンデロフに関しては明らかに向いていないLB起用で同情出来る部分はあるものの、体格の割に余りにも弱いコンタクトプレーの所で結局CBとしても限界が見えてしまっている。
主導権を握るための選手交代で逆に相手のチャンスを増やすという本末転倒な結果を招いたホームチームは65分にCKからバッシーに決められて遂にリードを許してしまう。やはり問題ばかり目につくCK守備だが、散々やられた前半を経てもこの有り様である事を考えると、最早何も決めごとが存在していないようにすら映る。
88分、エリクセンから前線に留まっているマグワイアへシンプルなバックスピンのフィードが出て、相手と交錯したもののその先に待っていたアマド(メイヌーに代わり80分から途中出場)がボールを収め、リターンを受けてマグワイアは横幅をフルに活かした強引なキープでシュート性のクロスを放ち、流れたボールを左サイドで拾ったブルーノのカットインシュートのリバウンドにマグワイア!!
80分にもCKからあわやという場面を作っており、やはり単純に競り合いに勝てというシチュエーションでは無類の強さを誇っている。
押せ押せムードのユナイテッドは完全にエリクセン1アンカーの2-1-7で勝ち越しを狙うが、結果的にカウンターケアを疎かにした罰が当たってしまう。AT7分、シンプルなクリアボールにムニスがマグワイアとの競り合いに勝ってボールを繋げると、エリクセンの淡白過ぎる対応で突貫特急アダマ・トラオレがスピードに乗ってしまい、リカバリーに向かったマグワイアも純粋なスピードの違いで当然置いていかれる。その後、ボックス内でパスを受けたイウォビは、アマドの未熟さが出た守備対応からニアポスト付近に容易にシュートを撃てる事を見抜き右足を振り抜いた。
Haven't thought about this much today... 🤥
— Fulham Football Club (@FulhamFC) February 26, 2024
Every angle of @alexiwobi's winning goal from the weekend: 📐 pic.twitter.com/YxWswVseAg
フラムがオールド・トラッフォードで勝利したのは2003年10月の03/04プレミアリーグ第10節以来およそ20年4カ月ぶりのことで、またしても不名誉な記録を1つ追加してしまったユナイテッドはこの状況で次節マンチェスター・ダービーという最悪の状況に。
データ
Standard
シュート数は21:17、オンターゲットが9:5でいずれも数の上ではユナイテッド優勢。それでも実感として試合を支配していたという感覚が全くもって無いのは相手を低い位置に押し留めて継続したポゼッション出来た場面が非常に少なかったからだと思われ、ルートン戦の課題に挙げたデュエル勝率は5分まで取り戻したものの、ターンオーバーの連続に強いのは身体能力や心肺機能自慢が多いフラムの方だった。
個人スタッツではセーブ数7、パンチングでのクリアも複数回と際どいシーンを殆ど防いだレノがMOTMだろう。他にはCFの王道のようなプレースタイルでマグワイア相手にも背負ってボールを失わないケースもあったFWのムニスも相手のCKのマーク管理の杜撰さに付け込んで何度もオナナを脅かした。
xGはマンチェスター・ユナイテッド1.96に対してフラム1.14と一応体裁を保っているものの、その数字の約36%がマグワイアの同点弾によるもので、ユナイテッドのもう1つのビッグチャンスもコーナーキックからマグワイアが記録している事を加味すればフラムの方が流れの中からコンスタントに得点に近づいていた事は間違いない。
実際にユナイテッドの個々のxGを振り返ってみるとマグワイアの1.32に続く2番手はガルナチョで0.17と一気に数字が落ち込んでいる。
Man Utd 1 : 2 Fulham
— markstats bot (@markstatsbot) February 24, 2024
▪ xG: 2.18 - 1.36
▪ xThreat: 1.53 - 1.45
▪ Possession: 56.2% - 43.8%
▪ Field Tilt: 59.2% - 40.8%
▪ Def Action Height: 53.7 - 37.5#msbot_eng #epl pic.twitter.com/uoRhsyEdPu
フラムと言えば両サイドでフルバック-セントラルMF-ウインガーの綺麗な3ユニットを徹底して意識した攻撃が代表的だったが、今回は主力メンバーを一部欠いた事で少し異なった様相を呈している。ユナイテッドはスタメン抜擢のフォーソンがやはりゲームスピードについていけない傾向が出て、右サイドが全体的に薄いネットワークになってしまった事も敗北の一因だろう。
あとがき
正直この内容を見て監督解任に個人的心情は傾きました。選手がいないからという理屈も守備構築における約束事の徹底においては本来対応できる部分であるはずで、ライバルクラブのリバプールがアカデミー選手を大量起用しながらカラバオカップ決勝を制した事とは正に対照的……