※23/24 イングリッシュプレミアリーグ
エバートンvsマンチェスター・ユナイテッド戦の記事です。
ガルナチョ、メイヌーと未来のマン・ユナイテッドを背負って立つことが期待される10代の若き才能が遺憾なくその雄大なポテンシャルを発揮したグディソン・パーク。リーグ戦で複数点差をつけて勝利したのは今季初で、あのバイシクルはまさに流れが変わる瞬間だったのかもしれない。
Three goals, three points.
— Manchester United (@ManUtd) November 26, 2023
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【Match Review】
Starting lineup
前半
メイヌーが2CBの間で降り過ぎることなくエバートンの4-4-2の守備体型の1stプレス隊後ろでボールを引き出し、その後の散らしやキャリー能力の高さを開始直後から見せつけていくが、更にとんでもない衝撃が直後に待っていた。
10本を優に超えるパスを回しながら、前進しては戻し前進しては戻しで相手の守備ブロックを揺さぶっていくユナイテッド。3分、リンデロフの低空対角フィードで右大外で幅を取っているラッシュフォードにボールが渡り、背番号10は内→外へダイアゴナルランを試みるダロトへパス。ダロトの折り返しのボールは想定よりも僅かにマイナス方向へズレたが、その先に待っていたガルナチョは細かいステップでタイミングを調整しながら思い切りよく空へ飛んで漫画から飛び出してきたような驚愕のオーバーヘッドシュートがそのままゴール右上へ突き刺さる。
ボスも大満足の一撃 👌
— マンチェスター・ユナイテッド (@ManUtd_JP) November 27, 2023
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amazingという感想しか出てこない素晴らしいフィニッシュは勿論のこと、縦横に揺さぶってポゼッションから生み出したゴールという点もいい部分。個人的に着目しているのはリンデロフ↪ラッシュフォードをホットラインを補助し、尚且つチャンス創出まで行ったダロトの働き。
まずはハーフレーンにポジションを取ってミコレンコの引きつけながら、リンデロフがキックモーションに入ろうかというタイミングで更に中央方向への裏抜けデコイを試みて完全にラッシュフォードに対しての警戒を解く。
ラッシュフォードに無事パスが届くと、今度は慌てて外に意識を向けてラッシュフォードとの1on1を身構えるミコレンコの背後からスッとニアポケットに向かって走り込み、ゲイェやマクニールの対応が間に合っていない為に中央を空けて思い切って裏抜けを狙う選手についていけない、というブランスウェイトの心理状態も巧みに利用した巧みなオフ・ザ・ボールでボックス内にフリーでボールを供給できる態勢を作り出している。
エバートン視点で振り返ると、リンデロフが対角線フィードのテイクバックを取った段階で次のシチュエーションを予想してゲイェやマクニールが自陣方向に素早く走り出していれば、そのまま彼らがにマークするかブランスウェイトが外にスライドしてダロトに人員を割けるので、ここまでオープンな状況にはなっていなかったかもしれない。俗にいう「裏ケア」とは正にこの準備と実行の速さの事で、フットボールでは身体能力だけでなく先読み能力も重要というのがよく分かる。
ラッシュフォードについて、右ウイングでの先発となったが、ポジショニングやプレスバックの質は過去一番に安定していたように思う。上述のシーンでも悪い時ならオフサイドラインスレスレに構えてしまい、ロングパスに対し相手ゴール方向を向きながらスピードを上げられない状態でのレシーブになっていただろうし、逆サイドのガルナチョに時折高すぎる位置取りをしていてパスコースになっていなかった事とは対照的に、ダロトやマクトミネイと縦の位置と横のレーン被りを避けて上手く複数ユニットでのコンビネーションが出来ていた。とはいえ、ボールプレーでの選択にはまだまだ不安が多い事も確か。
スーパーゴールで一度話を折ってしまったメイヌーのプレーについて、アヤックス時代から後ろの人数を最小限にしてとにかく前線に送り込む量を多くしたいというテン・ハフのハイリスクハイリターンなビルドアップ志向を可能にする足元の技術とそれを支える情報処理・判断能力の高さが18歳にして既に備わっている。
身体能力で各セクションを突破してきました、というタイプが目立っていた近年のユナイテッドのアカデミー生の中では異質とも言えるフットボールIQの高さ。フレンキー・デ・ヨングの補強が失敗に終わった時点で半ば諦めていた個でビルドアップを成立させてしまうセントラルMFという希少価値の高い人材が内部昇格してくるのだからこれ程の喜びはない。
名前を言ってはいけないあの人になってしまったポール・ポグバっぽさを思わせる足首の柔らかさ+彼ほどリスクを取らないプレー選択かつ「急がない」ことが出来るので、アンカーだけでなくNo.8としても大成してチアゴ・アルカンタラのような選手になれるかも。
ここまではビルドアップでの貢献にスポットを当ててきたが、守備でもサイドに出ていってジャック・ハリソンとの1on1で複数回にわたり勝利したり、キャルバート=ルーウィンのボールキープから自陣ゴール前に迫るエバートンの猛攻に対し、アカデミーの先輩でもあるドワイト・マクニールのシュートをゴールラインギリギリでクリアして決定機を阻止するなど、どれだけ称賛しても足りないくらいの活躍を見せてくれた。
少し触れたがエバートンの攻撃手段は完全にルーウィンをリンデロフにぶつけてそこ目掛けてのロングボールからのボールキープやセカンド回収にリソースを突っ込んでおり、身体的な強さに欠けるというアイスマンのウィークポイントが顕在化しやすい試合展開に。データサイトのスタッツ上ではデュエル勝率が100%になっているケースもあるが、実際にゲームを見れば分かるように一歩目が遅くとにかく相手に前に入られ続けていた。先制点のロングフィード分の貯金とエバートンの決定力不足でぎりぎりプラス収支……かどうか。
試合開始直後のゲームプランはメイヌーの実力を過小評価していた事で失敗した感もあるエバートンだが、ルーウィン-ドゥクレの1stプレス隊に加えてガーナーをメイヌーのマークに付けて3枚で見るようになってからは相手に自由にボール保持を許さず、マグワイアやリンデロフにプレッシャーをかけてミスコントロールを誘ったり、はたまた焦った彼らの味方への苦しいパスを奪ってショートカウンターから何度もマン・ユナイテッド陣内のペナルティボックスに侵入しており、フィニッシュの部分で決めきれなかっただけで寧ろ試合はホームチームのペースであった。
同じく財務規定違反を犯した(件数は遥かにこちらが上)マン・シティに何も処分が下っていないにもかかわらず、何故我々だけが勝ち点10を剥奪されなければならないのかとトフィーズサポーターの怒りがグディソン・パークの観客席をピンク色に染め上げていたが、そんな彼らの思いを選手達も確かに受け取っていたのかもしれない。
後半
ハーフタイムの選手交代は無し。復帰戦となったルーク・ショーについてはまだ試運転段階感が露骨で、自陣でのボールポゼッションにおける立ち位置の悪さもこの試合では改善が見られなかった。それでも地力があるので心強い存在である事は間違いのだが、左足でボールを蹴れるリチャとエヴァンスが負傷離脱中のCB事情を考慮すると、今はLBではなく2CBの左で出場してもらうのが最もチームにとってメリットの多い選択になりそうだ。
52分、ルーズボールの奪い合いからのカウンターでゲームテンポが上がっていたところ、エバートンはキャルバート=ルーウィンをターゲットにアーリークロスを狙ったもののこれが短くなってリンデロフにクリアされ、ユナイテッドは右サイドで素早くボールを前進させていく。流れの中で偶然右ウイングの位置に残っていたマグワイアから中央のマルシャルにパスが入り、ブルーノとのパス交換でボックス内に侵入した背番号9は元チームメイトのアシュリー・ヤングのファウルを誘い、当初はシミュレーションで自身にイエローカードが提示されたがVARによって判定が覆りPK獲得。
そのPKだが、本来のキッカーであるブルーノは不振に陥るラッシュフォードに機会を譲り、昨シーズンのチーム内トップスコアラーに9月初旬のアーセナル戦以来およそ3カ月弱ぶりのリーグ戦のゴールが記録された。
70分過ぎにはピックフォードのロングキックを相手に触らせずディフェンシブサードで収め、前に6人がいてターンオーバーへの対応が緩くなっているエバートン相手に左サイドからカウンター。リンデロフのスルーパスにラッシュフォードが抜け出し、左足のクロスからガルナチョにあのバイシクルよりも遥かに簡単な決定機が舞い込むもシュートは枠を捉えず。
なお、PKのキッカケにもなっている狭いスペースでのブルーノ-マルシャルのコンビネーションは前者のクラブ加入直後から目立っていて、多分一番相性がいいのはこの2人なのだと思う。
プレーが切れた所で両クラブ2人ずつ選手交代。ユナイテッドはメイヌー、ガルナチョと素晴らしい活躍を見せた10代2人に変えてアムラバト、ペリストリを投入し、エバートンはマクニール🔁ダンジュマ、ヤング🔁パターソンとサイドの選手を変更。
交代で入ったダンジュマを狙ったロングボールに対しダロトが先にボールに追いついてこれを収め、クリアボールからのルーズボール合戦をユナイテッドが制して右サイド起点にカウンター。マルシャルからペリストリにスルーパスが通り、ハーフスペースで平行のパスコースを作ってボールを受けたブルーノのお膳立てにマルシャル。
(20秒からがマルシャルのゴールシーン)
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— SPOTV NOW JAPAN (@SPOTVNOW_JP) November 27, 2023
ガルナチョ🔴
圧巻オーバーヘッド弾!🤩
\#エヴァートン 0-3 #マンチェスター・U#ルーニー を彷彿とさせる #ガルナチョ のバイシクル🔥#ロナウド のセレブレーションも👑
📱秋も #SPOTVNOW 🍁#プレミアリーグ全試合観られるのはSPOTVNOWだけ pic.twitter.com/9qASeMZfZu
相変わらずハマった時の才能は凄い。もう流石に期待をかけるところまで行かないものの、この選手に献身性やチームプレーを植え付けきれなかった事はクラブにとっても大きな損失である。
安全圏に入ったユナイテッドはショーを下げてワン=ビサカ投入。ダロトが左に回るが、ワン=ビサカはカットインから内を空けてしまって中にいる選手へのパスという苦手としている形でチャンスを許しミコレンコのシュートがクロスバー直撃。RBの序列争いが既に完了している事を感じる瞬間だった。
途中出場のペリストリは得点に絡む場面もあったり短い出場時間の中で一定のインパクトを残したと考えているものの、勿体ないと思うのは左足が苦手であるにも関わらず左足でのキックしか選択肢がないようなコース取りをするケースがよくある事。ダロトのキャリーから右大外でボールを受けた85分の場面などはその典型例だが、逆足を短期間で向上させるのは難しいので今はシンプルに強みを押し付けて欲しい。
アディショナルタイムにはリンデロフがセットプレーからの危機をライン上で防ぎ、セーフティーリードをそのまま守り続けたアウェイチームはリーグ戦では今季初の3点差勝利でなんだかんだ首位アーセナルとは勝ち点6差。他のクラブも勝ち点を落としているので今季はかなり混戦になりそう。
データ
Standard
スタッツは完全にエバートンペースに見えるが、面白いのはポゼッションで上回りながらパス本数でマン・ユナイテッドに僅か1ではあるがリードされている事。これはマッチレポートでも言及したように、ショートパスで繋ぐというよりもキャルバート=ルーウィンへのロングボールが主な攻撃のスイッチであった点が影響したと思われる。
24本もシュートを撃たれて無失点だったのは相手のフィニッシュ精度不足も勿論あるが、単純にオナナのパフォーマンスが素晴らしかったのも大きな要因を占めている。セーブ6回にハイクロス処理2回、パンチング1回とエバートンの得意パターンを完封。
なお、プスカシュ賞の有力候補になり得るスーパーゴールを決めたガルナチョについて、キャプテンのブルーノはゴール自体は賞賛しつつも全体のパフォーマンスについてはまだ伸ばすべき部分が多いと冷静にコメント。今後も飴と鞭を上手く使い分けて彼やメイヌーに代表される若き才能を導いてほしい。
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— SPOTV NOW JAPAN (@SPOTVNOW_JP) November 27, 2023
B・フェルナンデス
「彼はこんなもんじゃないよ」🔴
\#ガルナチョ のバイシクル弾を #B・フェルナンデス が称賛🔥
期待を込めて総合評はあえて辛口「まあまあだったね笑」😈
📱秋も #SPOTVNOW 🍁#プレミアリーグ全試合観られるのはSPOTVNOWだけ pic.twitter.com/Od1h0g6BOg
シュート数で3倍近く差を付けられていれば当然xGで相手にリードをされるのだが、以外にもその差は0.43程で、それも完全に試合の大勢が決した後の後半アディショナルタイムのセットプレーからの決定機を除けば1.73-2.07でユナイテッドが上回っていた事になる。
ガルナチョのゴールはxG0.05とされているが、これはあくまで同じポイントからの全てのシュート機会から導き出した数字なので、オーバヘッドという情報を付加すると更に期待値の下がるシチュエーションだったのではないか。
Everton 0 : 3 Man Utd
— markstats bot (@markstatsbot) November 26, 2023
▪ xG: 2.56 - 1.71
▪ xThreat: 1.66 - 1.21
▪ Possession: 50.8% - 49.2%
▪ Field Tilt: 63.2% - 36.8%
▪ Def Action Height: 43.5 - 38.1#msbot_eng #epl pic.twitter.com/54wwIy2GVH
PASSING NETWORKを見ると、リンデロフ,オナナ,マグワイア,ダロトから線が繋がっているメイヌーの貢献度の大きさが一目瞭然で、特にゴールキーパーからの縦パスを受けて前進させるという点については今のスカッドでは恐らく彼が一番。また、普段はネットワークから除外されているラッシュフォードも今回はチーム全体で彼を活かす仕組みを構成出来てきたので5本のラインが繋がっている。
あとがき
メイヌーの人生二週目感は異常。10代の選手でビルドアップ時の1アンカーをプレミアリーグ水準で難なくこなせる選手がどれだけいるのだろうか、恐らく全世界でも10人いれば多い方だというくらいに突出した才能だと思うので、過剰な消耗を避けながら大切に試合経験を積ませていきたい。