*EURO2020 決勝 イタリアvsイングランド戦の記事です。
試合前にはイベントが行われ、優勝トロフィー アンリ・ドロネー杯を手に会場に現れたのは前回大会の決勝ゴールを挙げた元ポルトガル代表のエデル。
会場外も含めスタジアム周辺はイングランド人サポーターが埋め尽くしており、イタリア側は僅か数千人程度と圧倒的アウェイの状況。
Football's coming homeのこれ以上ない機会となったイングランドですが、デンマーク戦ほど大きくは無かったもののイタリア国歌斉唱時にブーイングが聞こえてくるなど浮かれすぎてマナー違反を犯す者がいた事は残念です。
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スタメン
イタリアは予想通り決勝もこれまでと同じ4-3-3。
RWはキエーザを先発起用しているので90分で決めてしまいたいという想いをマンチーニ監督が強く抱いている事が想像できます。
控えに戦況を変えるアタッカーが居ない事は不安要素ですが完成度はイングランドを遥かに凌駕しているのでこの試合も彼らが主導権を握る展開が考えられます。
イングランドは試合開始数時間前にトリッピアーのスタメン出場という怪情報が流れ、その時点から3バックは想定されていましたが、ドイツ戦と同じ3-4-3で試合に臨む事が濃厚。
試合前日に書いた個人的な予想とは大分異なるパターンになったものの、やはりカギを握るのは守備はカイル・ウォーカー、攻撃ではルーク・ショーで間違いなし。
試合内容
前半:開始直後からWBを捉えきれないイタリアがリードを許す展開に
1分のイングランドはマグワイアのバックパスのミスでイタリアに早速コーナーキックを与えてしまいます。
クロスボールはそのマグワイア自らクリアし、イングランドはショー→ケイン→トリッピアーとピッチを左から右に横断し、カイル・ウォーカーのオーバーラップもあってエメルソンがボールに専念できずトリッピアーがフリーで挙げたクロスにショーの素晴らしいハーフボレーが炸裂したイングランド電光石火の先制点。
WB⇒WBの攻撃で得点を奪ったイングランド。
正に作戦通りの展開でイタリアは3バックを想定していなかったのか特に前半の早い時間帯はルーク・ショーとトリッピアーに誰がチェックするのか曖昧で、特にショーに対してはRWのキエーザがプレッシャーをかけるようになったので攻撃の迫力が大分削がれてしまう形。
更にWBだけでなくケインの中盤に降りてボールを引き出すチャンスメイカーとしての動きにも翻弄されており、20分を越えた段階でイタリアのシュートはインシーニェの直接FKのみと非常に苦しい時間帯が続いたことがよく分かります。
しかしながら30分前後から中央の3人(ジョルジーニョ、バレッラ、ヴェラッティ)から1つ飛ばしで左サイドライン際に構えるインシーニェへのロングパスという組み立てに光明を見出し、個人能力で度々脅威を与えているフェデリコ・キエーザと共に徐々にイタリアが押し返す展開。
それでも主導権を握りきれなったのはデクラン・ライスがこれまでの不調が嘘のようにミドルサードの広いエリアでタックルを立て続けに成功するだけでなく攻撃面でも推進力を発揮し、ルーク・ショーも基本的にはキエーザに守備をさせる時間の方が長く36分にはライン際のフィジカルコンタクトを制し自らのクロスで決定機を演出するなどマグワイアを含む左側3人のハイパフォーマンスが大きな要因。
(改めてユナイテッドがライスを獲得して欲しいと強く願う事になったのは言うまでもありません)
それでも、44分にはジョルジーニョ→インシーニェのロングパスからボックス内でのチャンス、AT1分はディ・ロレンツォのシンプルなクロスからここまで存在感0のインモービレがボレーシュートと、リードされている状況とはいえ後半に向けて悪くない形でアズーリは最初の45分を折り返すことに。
後半:好調な選手を下げ精彩を欠く選手をそのまま残したイングランドの自滅が始まる
47分、ニコロ・バレッラがハリー・ケインに後ろから足を出してしまい両チーム通じてこの試合初のイエローカード。
48分のイングランドはショー→ボックス内のスターリングへとパスが通りこの10番はボヌッチとのコンタクトで倒れPKを主張しますが準決勝の件が響いているのかVAR含め審判団は総スルー。
そのスターリングは50分にペナルティアークでインシーニェを安易に倒してファウルを与えてしまうなど悪い部分が目立ち、同じように左ウイング起用で得点に繋がるチャンスメイクをまるで出来ていないメイソン・マウントを含め、個人的にイングランド両ウイングを変える必要があると強く感じていました。
対して、イタリアのマンチーニ監督は浮いていたバレッラとインモービレを54分~55分で早々と諦め、それぞれブライアン・クリスタンテとドメニコ・ベラルディを投入。
配置も大きく入れ替えてインシーニェを真ん中フォルスナイン、キエーザを左にスライドしてベラルディを右という組み合わせにするとこれがいきなり結果を出し、57分にはキエーザのシュートのディフレクションに詰めたインシーニェが角度のない場所から強烈な一撃。
更に61分にはキエーザがカットインからボックス内で右足インステップでシュートを放つなどこの頃には完全に試合はイタリアペース。
イングランドは5バック気味になって5-4ブロックでこの一点を守り切る算段だったと思われますが、67分にコーナーキックのからこぼれ球をボヌッチに押し込まれてその計画は脆くも崩れ去ります。
再び得点が必要になったという事でサウスゲート監督はトリッピアーに変えてブカヨ・サカを投入し4バックへフォーメーションを変更しますが、イタリア側とすればかみ合わせが良くなってWBに対する繊細なケアが不要になったので正直最初から危うさを感じていましたが実際にこの決断は凶という結果であったのは間違いない。
更に、中盤のベストプレイヤーだったライスを下げてヘンダーソンという判断にも大きな疑問が残り、仮に彼を延長・PKを見据え精神的支柱としてどうしてもピッチに入れたかったのであればカルバン・フィリップスとの交代が妥当でしょう。
更にいえば、結局ヘンダーソンは途中出場途中交代という結果なのでこの辺りはサウスゲートがパニックになっていたのではないかと邪推せざるを得ない。
試合はイタリアが7割超のポゼッションという一方的な状態になっていたのでカウンター要員としてラッシュフォードやサンチョの投入がベストなタイミングだったと思いますがそちらに関してもマウントやスターリングのまま、後述しますが彼らが投入されたのは試合が終わる寸前の事。
90分に内にリードを奪いたかったイタリアも80分を越えてキエーザを負傷で失ってしまい終盤は決定打を打てず延長戦へ突入。
延長:後手に回ったサウスゲート
96分のイングランドは中盤でのディフレクションの先にいたヘンダーソンのダイレクトパスからスターリングのチャンスになり、そのまま左サイドをドリブルで攻めあがりますがキエッリーニの見事なカバーリングで得点に繋がらず。
直後のコーナーキックではこぼれ球にフィリップスがミドルシュートを放ちますが惜しくも枠の左に僅かに逸れます。
イタリアは延長戦続きということもあり全体的に足の止まっている選手が多かったですが103分には比較的プレー機会の少なく元気なエメルソンがサイドでウォーカーに尻もちをつかせて中にボールを入れますがピックフォードの好判断に阻まれ前半はスコアが動かず。
延長後半、残り15分というタイミングでイングランドはまだ3枚の交代カードを残していたので試合を決めるジョーカーとして優秀なアタッカーを多く抱えている彼らからすれば圧倒的に優位な状況だったはず。
それでもサウスゲートに動く気配は微塵も感じられず、ラッシュフォード、サンチョと2人のFWがピッチに入ったのは120分とPK戦要員しての投入。
更に彼らと交代でベンチに下がったのはカイル・ウォーカー、ジョーダン・ヘンダーソンと今のチームで1、2の経験を持つ古株2人で、ヘンダーソンは直前の親善試合でPKをストップされていたとはいえこの判断に"?"が頭に100個以上浮かびあがったのが正直なところ。
PK戦をハナから見据えていた90分の終盤から延長にかけてのイングランドはホームで圧倒的な大声援をバックに戦うチームとしては余りに弱腰で、最後の最後に悪い意味でのイングランドらしさが出てしまった。
因みに、交代で入ったラッシュフォードはRBに入り、1on1をストップする見事なプレーを見せましたが、イングランドとしては弱腰な形でPK戦になった段階でもうイタリアに負けることが既定路線だったと思います。
PK戦
イタリア1人目ベラルディはピックフォードの動きをよく見て逆方向にキック。
イングランド1人目ケインは短い助走で初めからコースを決めていたようで、ドンナルンマに動きを読まれますがその手の届かぬ完璧なコースに強いシュート。
イタリア2人目ベロッティはスペイン戦とは異なりコース重視で結果的に右下の最もセーブされやすいゾーンへのキックになってしまいピックフォード見事セーブ成功。
イングランド2人目マグワイア、恐らく地球上のどのGKでも止めらないようなインステップのパワーショットを右上隅にブチ込んでカメラを破壊。
イタリア3人目ボヌッチは助走で僅かにタイミングを外し、コースは読まれたものの僅かな差でゴールネットにボールが到達。
イングランド3人目はPK要員として投入されたラッシュフォード。
細かい助走で完全にドンナルンマの裏をかいたもののゴールポストにボールが直撃し痛恨の失敗。
イタリア4人目ベルナルデスキは真ん中にグラウンダーを蹴る判断が見事成功し驚きの強心臓を発揮。
イングランド4人目はサンチョ。
蹴る前から自信が無さそうにしていましたがベロッティと酷似した右下狙いのコントロールショットで威力・コース共に十分ではなくドンナルンマがセーブ成功。
イタリア5人目は前回と同じく決めれば勝利という状況でジョルジーニョ。
しかしながら独特のステップにピックフォードは動じることなくこの局面で信じられないスーパーセーブを見せて阻止成功!
決めればスコアがイーブンになるイングランド5人目の大役は途中起用のサカ。
19歳には重荷が過ぎたか助走のステップの段階で誰が見ても右へ蹴るであろう事は分かってしまい、ドンナルンマがこのPK戦2度目のセーブを決めてイタリア勝利。
今大会のPK戦は2度目のチームが破れるというプチジンクスも存在していましたがアズーリが見事壁を打ち破り、メジャートーナメントでは2006年ドイツW杯、EUROでは1968年自国開催の大会以来となるトロフィーを獲得。
端的に言えば最も完成度の高いチームが優勝するというシンプルな結果となり、ハイプレス&ショートカウンターという欧州フットボール界のトレンドに乗ったイタリアは2018年ロシアW杯本戦出場を逃すという屈辱から僅か3年で見事な復活。
動画ハイライト
選手交代
イタリア
54分 in:クリスタンテ out:バレッラ
55分 in:ベラルディ out:インモービレ
86分 in:ベルナルデスキ out:F.キエーザ
118分 in:フロレンツィ out:エメルソン
70分 in:サカ out:トリッピアー
74分 in:J.ヘンダーソン out:ライス
99分 in:グリーリッシュ out:マウント
120分 in:ラッシュフォード、サンチョ out:J.ヘンダーソン、ウォーカー
データ
最終的なスタッツはイタリアが全てにおいてイングランドを圧倒する結果となり、特に後半の45分はイタリアxG1.58-イングランドxG0.15と一方的なスタッツでしたからアズーリから見ればそもそもPK戦に持ち込んでしまったという試合。
幸先いいスタートを切ったイングランドですが枠内シュートは僅か2本、シュート自体も6本と苦しい試合でした。
前半、イタリアがWBに対応できていなかった25分までの間に追加点を奪う事が出来ていれば、或いは延長戦を迎える段階で攻撃のカードを複数切って畳みかけていれば違った結果になっていたのでは。
大会MVPに輝いたジャンルイジ・ドンナルンマは流れの中では比較的暇な時間も長く、GK同士の比較ならばジョーダン・ピックフォードの方がよりタフなゲームであったころは間違いありません。
この試合のMoMを選ぶとすればやはりこの人以外に思い浮かびませんでした。
レオナルド・ボヌッチは今大会のイタリア代表ではキエッリーニと並び飛びぬけて経験豊富なプレイヤーで、同点ゴールは勿論PK戦でも3人目という重要な位置を受け持ちチームのメンタリティを象徴するような存在。
一方、イングランドが優勝していた場合はルーク・ショーがMVPに推すつもりでした。今大会スリーライオンズのベストプレイヤーは彼かマグワイアの2択でしょう。
あとがき
正直に言えば、まだまだこの試合については書き切れていない部分も多いので今後追記があるかもしれない。
イングランド代表に選出されたマンチェスター・ユナイテッドの選手にとってはELに続き準優勝でシルバーコレクター(更にいえばリーグ戦も2位)の悔しいシーズンになってしまいましたが、その鬱憤は21-22シーズンで思う存分晴らして欲しい。
最後になりますが、改めてイタリア優勝おめでとうございます👍
本当に魅力的なチームだったので今大会を機に彼らを応援するようになる人も多いと思いますが、34とした無敗記録をどこまで伸ばすのかも注目していきたい。