※24/25 イングリッシュプレミアリーグ
クリスタル・パレスvsマンチェスター・ユナイテッド戦の記事です。
ピッチ上で起きている現象から何がよくて何が問題であるかを読み取る能力がエリック・テン・ハフには欠けているという事をまたしても実感させられるようなセルハースト・パークでの試合だった。
⏹️ The points are shared at Palace.#MUFC || #CRYMUN
— Manchester United (@ManUtd) September 21, 2024
【Match Review】
Starting lineup
前半
基本的には3-4-3と4-2-3-1のマッチアップだったと思われるが、クリスタル・パレスの鎌田-ウォートンのCM2枚に対してユナイテッドは前からの守備でブルーノ,エリクセンがマンマーク気味でチェックしポゼッションでは彼らの両脇に生まれるポケットを起点に陣地獲得を狙うのでアウェイチームはメイヌーアンカーの逆三角形になっている時間が多かった。
また、そのメイヌーの横にはLBからダロトがスライドして3-2-5(3-2-2-3)で自陣からアタッキングサード入り口までの攻撃の組み立てを行う為、これまでのように左サイドタッチライン際やCB前でパスを受ける選手で明確なプレスの狙いどころにされるケースも減少し、システム面では改善傾向。
ただ、リチャやデリフトがボールを持っている際のメイヌー,ダロトの顔を出す位置や頻度は選手任せになっているようで、出しどころが無くてバックラインをボールが行き交うだけで前進しないという場面も散見され、もう1つ両サイドのウイングに平行から背中向きで受けるボールが入った際の中盤の選手のサポートも水平の位置にいないのでパス&ムーブやレイオフでプレスを回避したくとも出来ないケースが目立った。
クリスタル・パレスはマテタへのロングボールで一気に中盤をスキップして高い位置での攻撃に移りたいのか、それともプレイメイカー気質の選手を並べた中盤構成が示すようにじっくりとボールを運んでいきたいのかというのがイマイチ伝わって来ず、守備もリトリートなのか積極的にプレッシャーをかけるのか曖昧。先述の通りユナイテッドには付け入る隙があったものの、全体的な噛み合わせでほとんど自分たちの時間を作れないまま序盤は自陣ボックス内での苦しい守備が続いた。
そして、ムニョス,ミッチェルという両WBは純粋な1on1では非常に突破の難しい対人性能の高い選手だが、前者はラクロワとの間のスペースに走り込むガルナチョのオフ・ザ・ボール、後者はサイドでボールを受けてタメを作る事で個ではなくユニット単位で打開を図るアマドの状況判断によって対面のデュエルでは勝ち越しても結果的に崩されてボックス内にボールを運ばれてしまう。
また、セットプレーの守備でも一番警戒しなければいけない選手のマークが曖昧になり、なおかつボールウォッチャーになる時間が長く空間を埋める事も出来ていないというゾーン・マンツーマン併用の悪い所が出ていて13分にはデリフトにノンプレッシャーでのヘディングを許した為GKの好守が無ければこの時点で失点していただろう。
正しく守護神としてチームを救い続けたのが元レッズでこの対戦に特別な感情を持っているであろうディーン・ヘンダーソン。近距離からのショットストップは勿論のこと、カウンターに対してボックス外に飛び出てボールを処理するカバーエリアの広さやハイボール対応など、守備面では文句の付け所がない鬼神の如くパフォーマンスだった。正直、ヘンダーソンでなければイーグルスは15分までに2~3失点していても何ら不思議ではないという位序盤の入り方が悪かったので、ここで得点を奪えなかった事はユナイテッドに大きなダメージとなっている。
ユナイテッドの前線守備について、咄嗟のプレス回避があまり上手くないミッチェルに対してアマドのタイトなプレッシングが機能し、右サイドでボールを奪う場面が何度かあったが、逆に左サイドはガルナチョのプレスバックにムラがあってムニョスがフリーになり、なおかつそこからカウンターを食らうケースが見られた事はラッシュフォードとの明確な差をアピールするという意味では少し痛手。オンボールのクオリティもやはりまだガチャつきが目立つ為、アントニーとのポジション争いを完全に制した感もあるアマドと比べると……
そのガルナチョに高品質のスルーパスを出していたのはInverted-WBとして中盤でのプレーが主なタスクとなっていたダロトで、27分には広く開いたラクロワ-ムニョス間にパスを通して決定機を演出、惜しくもシュートがクロスバーに当たりアシストが付かなかったものの、改めて彼を活用出来ていなかった開幕3戦の勿体なさを感じると共に拍車のかかるオールラウンダーっぷりに驚嘆させられる。
防戦一方だったイーグルスにも44分に好機が生まれる。前線守備に人数をかけ、更にCBがWBのフォローに入り前にスライドして圧をかけてボールを取り戻すと、右ハーフスペースでフリーになっていたエンケティアへの楔を起点にショートカウンター。アマドがミッチェルを完全に背中に入れてしまう悪い体勢の守備をして右サイド深い位置に侵入されると、折り返しをエゼがボックス内で合わせるも丁寧に行き過ぎてシュートはオナナの正面へ吸い込まれた。
ようやくホームチームにも光が差したところで前半終了。
後半
先に動いてきたのはグラスナー。守備力という点でやや心許ないところがあった鎌田-ウォートンのペアを解消しジェフェルソン・レルマを投入してバランスを改善させると、ほとんどボールが入って来ずに前線守備の貢献度の低さばかりがクローズアップされていたエース,マテタはイスマイラ・サールと入れ替えでお役御免。サールはCBへのプレスというよりはCBからの配球先を制限する事を第一優先としている印象で、チーム自体も前半と比べてリトリートに舵を切ったように見えた。
改善されたとはいえ根本的な噛み合わせの悪さが健在なのでユナイテッドペースで進んでいたセルハースト・パーク。しかし、テン・ハフは変えるべきではない箇所に手を付けてこのサイクルを自ら終わらせてしまう。
60分、ユナイテッドはジルクゼーを下げてラッシュフォード投入。中盤と前線を行き来しながらリンクアップ+チャンスクリエイトで高い貢献度を見せていたジルクゼーに代えてカウンター特化のCFラッシュフォードという全くもって理解できない交代策に私はこの時点で引き分けか最悪敗戦まで覚悟を決めた。
65分、エリクセンからのパスでカウンターチャンスが舞い込んできたガルナチョだが、寄せの速かったグエイに対して身体ではなく足先だけでボールへアプローチして奪われてカウンター返しを食らう。手薄になった左サイドで前半終盤の好機同様エンケティアがハーフスペースでボールを引き出すと、そのままゴール正面に切り込んでいって左足でシュート。このこぼれ球に詰めたサールが至近距離で決定機を迎えたものの、オナナのファンタスティックなセービングにより阻まれた。
この直後、パレスはエンケティアを下げてウィル・ヒューズ投入。チャンスを生み出したばかりの選手を下げる決断は勇気がいるが、システムを3-5-2に変更するこの交代策によって中盤の枚数差を解消させると共に、鎌田がウイングと中盤を場面に応じて動く、昨季のチームで自然にミカエル・オリーセが担っていた動きをするようになり、かえって3トップの時よりも攻撃の厚みが増して攻守に劇的な効果をもたらした。
この交代をキッカケにホームチームが見る見るうちに試合の主導権を奪還していくと、終盤のユナイテッドは防戦一方になり、センターラインのブロックを固める相手に対し有効な陣地獲得,局面打開手段を持っていない事が改めて露見した。今後対ユナイテッドでは同じように戦ってくる中位~下位のクラブが増えてくると思うが、そうなった時にジルクゼーを下げてラッシュフォードを投入した今回のような要領を得ない采配をされては困る。
更に言えば、ホイルンドを入れる際の交代もテンポの落ち着いた攻撃ではボールタッチの粗さから貢献度の下がるガルナチョをピッチに置いたまま、タメを作れるアマドを下げているので本当にゲーム途中での修正が効かないという事をまざまざと見せつけられた……
ヘンダーソンが試合序盤に大活躍したのと同様、終盤はオナナが見事な対処を続けて相手のチャンスを凌ぎ切り、結果的にゴールレスドローで両クラブ勝ち点1を分け合ってリーグ第5節を消化。
データ
Standard
シュート数9:15、ポゼッション33:67と試合全体で見ればマン・ユナイテッド優勢。実際に前半はほとんどクリスタル・パレスが主導権を握る時間が存在せず、ワンサイドに近い内容だったのだがその間に得点を決められなかった事と後半の選手交代の明暗が分かれてしまった事で終盤はむしろ防戦一方だった。
両クラブ共にGKの活躍が凄まじく、ヘンダーソンはセーブ数7、ハイボール処理3、ボックス外でのカウンター対応3と広い守備範囲と反応の良さで古巣相手にPOTMを獲得する素晴らしいプレーを見せ、オナナの方も終盤のサールの決定機を腕一本で防いで失点を阻止する等近距離からのシュートに対し見事な対処を続けた。
ゴール期待値は1.67-2.35とこの内容で何故ゴールレスドローに終わったのか不思議でならない。クリスタル・パレスが4回、ユナイテッドが5回ビッグチャンスを作っているにもかかわらず得点が生まれなかったのは両チームのGKの活躍は勿論あるにしても、単純に決定力不足という側面が強い。
例えばホームチームでは2度の決定機があったエゼ、至近距離でのシュートを押し込めなかったサールの2人に強い後悔が残り、アウェイチームでは13~14分にかけてのセットプレーとその後の2次攻撃でネットを揺らせなかった点が運命の分かれ道。そして、ラッシュフォードを控えに追いやってようやく先発出場のチャンスを得たガルナチョもオンボールのクオリティに相変わらず課題を残す内容で決定的な貢献が出来なかったのが大きな痛手となった。
C. Palace 0 : 0 Man Utd
— markstats bot (@markstatsbot) September 21, 2024
▪ xG: 1.29 - 2.54
▪ xThreat: 1.18 - 1.86
▪ Possession: 32.8% - 67.2%
▪ Field Tilt: 28.4% - 71.6%
▪ Def Action Height: 38.3 - 51.8#msbot_eng #epl pic.twitter.com/1aNh57nr9L
PASSING NETWORKを見るとジルクゼーの位置がほとんどMFと同化しているが、正に彼がプレイメイカーの1人としてビルドアップからミドルサードまでのポゼッションで高い貢献度を持っていたのはラッシュフォードとの交代後にパスが回らなくなった事で証明されている。そして、リチャ,ダロトはアドリブ性の高いユナイテッドの組み立てを破綻せずよく支えている。
あとがき
ゴール欠乏症を改善できる日は果たしてあるのだろうか。アドリブの根底を支えるいくつかの明確なフィニッシュの形をチームとして共有するという当たり前の部分を何年もないがしろにしているように見えるのであまり期待できないのが現実だが。。。