残り2~3試合とシーズン終了が間近に迫っている22/23 イングリッシュプレミアリーグ最初の降格クラブは12/13シーズン以来11季に渡りトップフライトに定着していたセインツことサウサンプトンFCに決まった。
発掘→引き抜き→発掘... のサイクルが間に合わなくなる
サウサンプトンと言えば昇格初年度に途中就任したマウリシオ・ポチェッティーノ(23/24シーズンからチェルシーの指揮官に就任する事が濃厚)が旋風を巻き起こすと、一時はトップハーフの常連となり、当時のチームには後にBIG6の主軸になるような選手が何人も在籍。
例〈15/16シーズンのスカッド〉
そして、ギャレス・ベイル,オックスレイド=チェンバレン,ルーク・ショーといった長年に渡りプロフットボールの一線で活躍する(した)選手を輩出する下部組織に加え、サディオ・マネやヴィルジル・ファン・ダイクといった後のスターを原石の時点で獲得する外部からのリクルーティングにも定評があったセインツ。
だが、近年は選手発掘に苦戦傾向が見られ、放出した主力に対して獲得した新戦力の質が追いついていないケースが増加していた。
元よりゴール数の多いチームでは無かったが、近2シーズンはウォード=プラウズがチーム内得点王である事からも分かるように特にオープンプレイで得点出来ていない。今思えば、在籍3季でリーグ戦41ゴールを奪ったダニー・イングスを失い、更に後釜として£20Mで獲得したアダム・アームストロングがスコアラーとして全く機能しなかった2021夏のマーケットが降格劇の始まりだったのかもしれない。
発掘という意味では指揮官選びに失敗した事も痛い。ラルフ・ハーゼンヒュットル解任後の監督として招聘したネイサン・ジョーンズはマイク・パフォーマンスばかりが先行し、在籍した3か月強の間でリーグ戦1勝7分けと悪夢のような戦績で、ホームスタジアム セント・メリーズでは1勝も出来ないままにクラブを去っている。
【Ward-Prowse】移籍?それともワンクラブマン路線?
8歳から今に至るまでフットボールキャリアのほとんどの期間をサウサンプトンの選手として過ごしているジェームズ・ウォード=プラウズ。フリーキックテイカーとしてはイングランド、いやもしかすると現役世界一かもしれない驚異的な右足のキックを有しており、22/23シーズンも36節終了時までに3度FKから直接ゴールを陥れている。
Coming for you, Becks 😏 pic.twitter.com/x6aDY3IQ6T
— Southampton FC (@SouthamptonFC) February 18, 2023
降格が決まったホームゲーム後にもチームメイトを先導しながらピッチを一周し、駆けつけたサポーターに感謝の意を表するなど、プレー面のみならず振る舞いでもチームを牽引する生え抜きキャプテン。自身の去就については現段階での明言を避けており、既に多くのプレミアリーグのクラブが彼に関心を示しているという。
チャンピオンシップのサラリー事情からスカッド構成を考える
ソースによって数字は多少上下しますが、チャンピオンシップのプレイヤーの平均サラリーは週給£10,000~£30,000とされており、「CAPOLOGY」によればプレミアのクラブからのローン加入選手を含め、22/23のサラリーが£30,000以上なのは30名で、個人では最高額のイスマイラ・サールでも£630,77。
そして、セインツの現スカッドのうち、ローン加入のエインズリー・メイトランド=ナイルズを含めてこの値を越えているのはキャプテンのウォード=プラウズからチェ・アダムスまでの16名。
先述のようにリーグ全体で30,000以上が30人足らずというリーグの中で、いくらパラシュート・ペイメントにより他クラブよりも金銭的な余裕があるとは言え、このスカッドをそのまま維持するとはおおよそ考えにくい。
コストカットを考えるとき、上記リストの中でテオ・ウォルコットとモハメド・エルユヌッシの2名は今季終了後に契約満了なので比較的容易にコストを抑える事が出来るが、ポジションを失った嘗ての正GKアレックス・マッカーシーやMFのスチュアート・アームストロング、そして今冬に加わったクロアチア代表アタッカーのミスラヴ・オルシッチといった30代に突入した選手達を売りさばくのは相当に骨が折れる仕事になりそうだ。
一方、サウサンプトン加入後に評価を挙げた20歳前後の若手選手、ボーフムから獲得したアルメル・ベラ=コチャプ、マン・シティから獲得したギャヴィン・バズヌ,ロメオ・ラヴィアらは①現段階の能力+潜在的資質への期待,②キャリアの浅さからまだ年俸がそれほど高騰していない,という2点に加え、③セインツが見出した選手,というこれまでのスカウティングで培ってきたブランド価値も考慮すれば3000万ポンドを越えるような高額な移籍金収入も期待出来る。
これから全盛期に向かっていく年齢の選手自身や代理人の入れ知恵によるステップアップ志向を考えると、移籍志望を表明した場合は無理にチームに残留させて不満分子にさせるよりはそちらの方が賢明な選択だろう。
金銭面では放出が妥当だが……
本題に移ろう。
ウォード=プラウズはチーム内最高の週給£100,000を受け取っており、このままチャンピオンシップでプレーした場合はリーグの中でも最高給の選手になる可能性が高い。クラブが放出を容認すればまず間違いなく売却先は見つかるだろうし、契約期間が3年残っているので、需要の高さを考えればオークション方式で移籍金が跳ね上がっていく事も十分に考えられる。
よって財政面では彼の売却は既定路線にも思えるのだが、最初に触れたように幼い頃からサウサンプトン一筋で育ったクラブの象徴とも言うべき選手、長年のファン/サポーターにとっては駆け出しの頃から成熟するまでの全てを見てきた子供のような存在をそう易々と手放してしまって良いのだろうか?
勿論、本人が新たな旅路を望んだ場合には留め置く事は叶わないだろうが、タフなチャンピオンシップを突破してもう一度プレミアの舞台にクラブを到達させるという意思が少しでもあるのならば、私個人の意見としては彼を全力で慰留すべきだと思う。