名前が取り沙汰されてからあっという間に交渉成立に至ったカゼミロ。
We are delighted to have reached an agreement in principle for the transfer of @Casemiro 🇧🇷#MUFC
— Manchester United (@ManUtd) August 19, 2022
言わずとしれた世界最高クラスのDMですが、最大の特徴は何といっても1人でコートの大半を支配下に納めてしまうカバー範囲の広さで、就任してからこれまでのテン・ハフがトップターゲットに指定していたフレンキー・デ・ヨング全く異なるタイプ。
データから推測するに、言われているほど攻撃性能が低い訳ではないと思われますが、それでも低い位置でボールを受けて2,3人のプレスをドリブルで交わしてしまうデ・ヨングと同じ使い方でフィットする選手ではありません。
今回は彼の加入で誰が恩恵を受けて誰が厳しい立場に追い込まれるのかを考えていこうと思います。
【その1】4-3-3(4-1-2-3)をメイン戦術にする可能性が高まる
理由としては大きく分けて2つ
- カゼミロのカバー範囲の広さ
- GKが2-3ビルドアップに耐えられる水準ではない
1,カゼミロについて
カゼミロのプレス・タックル・インターセプト・ブロックといった守備時の中心となる指標の質は比較的これらの面で評価の高いMcFredを凌ぐ内容で、プレミアリーグの選手で例えるならばエンディディ、ファビーニョといったホールディングMFに類似する部分が多い。
低い位置でのプレーに重要なキャリー能力,受け手としての上手さという部分でも決してユナイテッドの既存DMに劣っておらず、4-3-3のアンカー起用の場合彼以上に適性のある選手はそう多くない(というか思い浮かばない)。
ショート~ロングレンジのどの長さのパスを見ても成功率は高く、得点の可能性を高めるようなパス・キャリーについて大きな期待こそできないものの、ボールプレーに関与した時に明らかにチームの流れを停滞させるといった事を心配する必要は無いだろう。
また、フレッジ,マクトミネイと明確に差があるのがプレッシングの傾向で、タックル+インターセプトの回数で分かるように積極的な守備スタイルを持つカゼミロだが、彼らのように持ち場を空けて無暗やたらとボールホルダーに突っ込んで危機を増大させる事は滅多に無い。勿論のことカバーできるエリアも極めて広大であり、こういった傾向から、突如としてフィジカルの衰えが来るといった事でもない限りはセンターラインの守備を彼1人にある程度依存させても問題なさそう。
2,デヘアのボールプレー
2人のフィールドプレイヤー+GKを最後方に置いて自陣ボックスからボールを繋ぐとき、プレシーズンから2節までのユナイテッドは下がってくる中盤の選手に一度預け、ダイレクトで左右にはたいてから前進を始めるというやり方をかなり強く意識していたように見えます。
2-3ビルドを採用する場合、ゴールキーパーは数的優位を作る為にフィールドプレイヤーの1人として振る舞いボールプレーに積極的に参加したり、時には相手のスルーパスをボックス外に出てカウンターを未然に処理する必要があります。これを得意とする選手を"sweeper goalkeeper"と呼称したりしますが、現実問題として今のユナイテッドのスカッドにはそのsweeper goalkeeperが存在しません。
また、相手がオールコートマンツーマンを採用しパスコースを全て塞いできた場合の対策として、サイドアタッカーの裏に生まれるスペースへ正確なパスを送る能力も必要。到達時間を考えれば弾道は山なりではなくライナー気味が理想で、言い換えれば純粋なキック力の高い選手の価値がより高くなる。そういう意味でMan Cityのエデルソンは正にモデルケースの1人で、仮に外部から即戦力を加えるならばFCポルトのディオゴ・コスタが理想的だが、フォレストへローン中のディーン・ヘンダーソンが来季デヘアと世代交代する形でチームに戻ってくるならばそれでもいい。
アカデミー出身の連続先発出場記録が途絶える?
McTominay
直接的な打撃を受けるのは同じDMで、カゼミロとプレースタイルが近いスコット・マクトミネイだと考えられます。双方ともにボール奪取から攻撃の選手に素早くボールを繋ぐことが求められ、キャリー能力で上回るものの、時に持ちすぎてカウンターの逆起点になるなどそれが短所にもなり得るマクトミネイは安定感の差から恐らく出場機会を減らしていくことになる。
また、Transfermarktの集計では今夏のマーケットでカゼミロ獲得までに€143M強の移籍金を支払っていますが、これは例年通りの推移だと補強打ち止めの数字。
ただ、昨季限りで退団した選手に高年俸が多かった事や明らかに機能していないポジションが複数存在する事を踏まえ、更にグレイザーファミリーへの批判が高まりを見せる状況も考慮すると最低でも1人はシニアチームの即戦力獲得に動く可能性が高いと思われます。
16/17→€185.00M
ポグバ(€105.0M),ムヒタリアン(€42.0M),バイリー(€38.0M),ズラタン(Free)
17/18→€164.40M
ルカク(€84.7M),マティッチ(€44.7M),リンデロフ(€35.0M)
18/19→€82.70M
フレッジ(€59.0M),ダロト(€22.0M),グラント(€1.7M)
19/20→€159.80M
マグワイア(€87.0M),ワン=ビサカ(€55.0M),ダン・ジェームズ(€17.8M)
20/21→€62.50M
VDB(€39.0M),テレス(€15.0M),ペリストリ(€8.5M),カバーニ(Free)
21/22→€140.00M
サンチョ(€85.0M),ヴァラン(€40.0M),ロナウド(€15.0M),ヒートン(Free)
22/23→€143.02M(22年8月21日時点)
カゼミロ(€70.65M),マルティネス(€57.37M),マラシア(€15.0M),エリクセン(Free)
Rashford
さて、更なる補強を考えた場合、テン・ハフの基準に適った選手がダロト1人しかないRB、先述のようにデヘアのボールプレー不安からGKなどが挙げられますが、未だオウンゴールからの1点のみのクラブ状況,他クラブの加入/放出なども踏まえ残り少ない期間で最も成功する可能性が高いのはマーカス・ラッシュフォードが低水準のプレーを続けるウイング。
報道が過熱するアントニーはテクニカルな左利きRWで、タッチライン際からの斜めの侵入が最大の持ち味。プレーの質を大幅に落としている2021年以降のラッシュフォードと比較するとアタッカーに求められるほぼ全ての要素で彼を上回っており、フルバックが内側に位置取りし大外がウインガー任せになる事も多いテン・ハフ流において個で崩せる良質なテイクオン(仕掛けのドリブル)は欠かせない能力。
獲得に成功した場合、恐らくサンチョがLWの一番手にシフトすると思われるので、カゼミロの余波を受けるマクトミネイ同様にアカデミー出身のスターが出場機会を減らす事になるだろう。個人的には苦しい状況からの奮起を期待したいが……
Ronaldo
厳密に言えばアカデミー出身とは言えないかもしれませんが、以外にもホームグロウンやクラブ内育成選手という括りにすると当てはまるのがクリスティアーノ・ロナウド。退団希望を頻繁に報道されたものの、レアル・マドリーで数々のタイトルを共に手にしたカゼミロの入団が決まったことで、意思が変わる可能性はある。
しかし、現実問題としてアントニー・マルシャルとのCF1番手争いを考えると、スコアラーとしての力量はやはりCR7が完全に上を行っていますがポストプレーやプレッシングといった所では苦しいものがある。また、これはどちらを選ぶかですが加入以来多くの得点に関与したブルーノ・フェルナンデスを特徴を活かしたい場合、降りてきてチャンスメイカーにもなれるマルシャルに分がある事は確か。
Casemiro加入で得をするであろう選手
まずは守備時にフィルター役が存在せず相手アタッカーの脅威を正面から受けていたCBはポジション全体で以前よりも大分楽になると思われます。特に瞬間的なスプリントで劣勢に回る事が多かったマグワイア,リンデロフは弱みを晒される場面が減り、待ち構えた状態のディフェンスが増加すれば失った評価を取り戻せるかもしれない。
次に、不慣れなアンカーを任せれ相手ゴールに背を向けてのプレーが多かったエリクセンも平均のプレー位置が前に向かう事でプレイメーカーとしての仕事に専念する機会が増えると予想されるので、ブレントフォード時代に記録した特筆すべきスタッツ(昨季キーパス/90 : 2.8。これはブルーノを上回る数値)をユナイテッドでも再現できる可能性が高くなった。
他にも、セレソンでユニットを組むフレッジ辺りも得をするかもしれないが、レアル・マドリーのモドリッチ-クロースのようにプレイメイカー2枚を並べるようになった場合、ブルーノ-エリクセンの強力タッグに真っ向から挑んでポジションを奪うのは至難の技と言える。
フレンキー・デ・ヨングからのカゼミロ、全くプレースタイルの違う補強となった事で当初は困惑もあったが、ワールドクラスのホールディングMFを獲得出来たという事実を冷静に考えてみると当然メリットは多く、この取引が赤い悪魔復活のきっかけになる事を心から祈っている。