*EURO2020 準々決勝 スイスvsスペイン戦の記事です。
ベスト8最初の試合はグループステージを3位で突破しラウンド16ではフランス相手に2点のビハインドから追いついた末、PK戦にて彼らを破ったスイスとグループステージ第3戦、ラウンド16と2戦続けて5点を奪い課題とされていた得点力にも改善の兆しが見えるスペインのマッチアップ。
▼スイスvsフランス戦
スタメン
スイスはキープレイヤ―のグラニト・ジャカがイエローカードの累積2枚で出場停止という事も影響したのかここまで採用していた3-4-1-2ではなく、ボルシアMGのDMデニス・ザカリアとフロイラーの3列目2枚で4-2-3-1スタート。
苦しい台所事情ではありますが、前線のプレイヤーは走力のある選手を揃えているのでカウンターからチャンスを見いだしたい。
対するスペインはこれまで通り4-3-3。
18歳ながらここまでEURO本戦フルタイム出場のペドリは今のラ・ロハにおいて欠かす事の出来ない選手になりつつあります。ただ、EUROの後には東京五輪への出場が予定されているので疲労の蓄積が心配なところ。
CBは左利き2枚を並べる選出に戻りましたが、エリック・ガルシアの守備面での不安が拭えなかったので致し方ない判断かと思います。
試合内容
前後半90分
スイスはマンツーマン気味の守備を採用し、2分にはゼルダン・シャキリが高い位置でセルヒオ・ブスケツからボールを奪いシュートを放つなど序盤から高いテンションで試合に臨みます。
(攻撃時は4-2-3-1守備時はシャキリが前線に吸収されブスケツに圧をかける4-4-2)
パウ・トーレスとラポルトのCBにはそこまでプレスを掛けず、スイッチが入るのはアンカーのブスケツにボールが入ったところからという割り切った守備でした。
思わぬ形で試合が動いたのは8分。
スペイン右からのコーナーキックでニアサイドのラポルトを狙ったボールが誰にも触れられぬままボックス内を通過し、こぼれ球にダイレクトで合わせたジョルディ・アルバのシュートがザカリアの足に当たってそのままゴールマウスへ吸い込まれます。
*当初はアルバのゴールとされましたが後にザカリアのオウンゴールに変更
不運な失点でリードを許したスイスですがプランに変更はなく、ロングボールやそのこぼれ球を起点にしたショートカウンターといわばレッドブル系列のチームが得意にする戦術で手数を掛けずスペインゴールを狙うというのが徹底されていました。
また、パウ・トーレスとデュエルした際に左足太もも裏を負傷したエンボロが23分という早い段階で交代を余儀なくされる痛いアクシデントもありましたが交代で入るルベン・バルガスもそのまま右サイドに起用されて戦術に大きな変更はありません。
後半に入りスペインはサラビアに替えてダニ・オルモを投入。
すると47分にはカウンターからモラタのラストパスを受けたオルモにいきなり決定機がやってきますがシュートはGK正面.。(そもそも前のプレーでオフサイドでしたが)
ここまでは耐える時間が続いたスイスも56分にコーナーからフェラン・トーレスのマークを外したザカリアのヘディング、64分にはこの試合スイス側のキーマンだと個人的に考えていたシュテフェン・ツバーのドリブルからビッグチャンスが生まれますが、ウナイ・シモンの好セーブで得点とはならず。
開始から飛ばしていた事もあり、そろそろ運動量に陰りが出てくるのではないかなどと考えていた68分に再びスコアが動きます。
フロイラーがハーフフェーライン付近でブスケツからボールを奪うとそのままカウンターに移行し、DF裏へのパスにラポルトとパウ・トーレスが重なって再びボールはフロイラーの足元へ。最後はシャキリがアスピリクエタの股を抜くファーポストへの右足シュートでスイスが同点に追いつきます。
試合をイーブンに戻した事で活気づくスイスベンチとサポーター。
しかしながらその表情を一変させるプレーは77分でした。
レモ・フロイラーがスピードに乗った状態でジェラール・モレノへ結果的には足裏を見せる形でタックルしてしまい、主審マイケル・オリバーは迷うことなくレッドカードを提示。
少し厳しいかなとも思いますが当たり所によってはスウェーデン-ウクライナ戦のダニエルソンのタックルのようになっていてもおかしくなかったので致し方なし。
Ukraynalı futbolcu Besedin'in MR sonucu #Euro2020 #UKR
— FutbolArena (@futbolarena) June 30, 2021
🚑 Arka çapraz bağlarda yaralanma
🚑 İç ve dış yan bağlarda zedelenme
🚑 Femur kemiğinde kırık
🔹 Süre: 6 ay sahalardan uzak kalacak. pic.twitter.com/Plr7mVB1ZP
タックルを食らったウクライナ代表のアルテム・ベセディンは靭帯損傷と大腿骨骨折で全治6か月の重傷。
今回のケースではモレノに怪我がなかったのでそれは本当に幸いでした。
1人多い状況となったスペインですが決定的なチャンスをそれほど生み出せずに試合はそのまま延長戦へ突入。
延長:ヤン・ゾマーに神が宿る
まずは92分。
ハーフコートマッチ状態のスペインはペドリからジョルディ・アルバにスルーパス⇒アルバのクロスでジェラール・モレノにゴールエリア内の決定機が訪れるも球足の速いボールに合わせる事が出来ずシュートは枠外。
99分のスペインは右サイドでのポゼッションからボックス内へ侵入しダニ・オルモの折り返しにマルコス・ジョレンテのシュートもアカンジがシュートブロック。
101分にはファウル後のリスタートからブスケツのロングパスで裏に抜けたオヤルサバルとモレノ。最後はモレノが近距離からボレーを放ちますがゾマーは人間業とは思えない反応でこれを防ぎ、103分にもオヤルサバルの右45度からの左足シュートも横っ飛びでセービング。
延長前半と後半の間の僅かな小休憩の間にスイスはジャカが円陣の中心に入り味方を鼓舞する場面も見られ、この頃になると中立のフットボールファンの心はかなり彼ら寄りに傾いていたのではないでしょうか。
延長後半に入ってもスペインがシュートを打てばスイスのDF、そしてゾマーが悉くこれをブロックするという応酬が続き、ヤン・ゾマーは何と延長前後半だけで8回のシュートセーブを記録。
スペインは計19本ものシュートを記録していますが神がかったGKの活躍に阻まれゴールネットを揺らす事は出来ず1人少ない相手を制すことが出来ないまま勝負はPK戦へ。
PK戦:両GK冴えわたり決着スコアは3-2
PK戦は先攻が有利である事は広く知られていますが、順番はスペイン→スイスとなりました。この不公平を無くす為にABBA方式を取る大会も増えていますがEUROはABAB……の通常通りの方式なので正直これは今後改善して欲しいところ。
これまでの流れからすればノリに乗っているヤン・ゾマーのスイスが有利と考えられますが、彼らは今大会既に1度PK戦を戦っているのでキッカー心理から言えば不安要素もあります。
スペイン1人目のキッカー セルヒオ・ブスケツのシュートはポストに嫌われ枠外。
スイス1人目はフランス戦同様ガヴラノビッチが担当。コースも同じところにしっかりと強いキックを決めてスイスがリードを奪います。
スペイン2人目 ダニ・オルモは右利きの選手にとっては一番の狙いどころであるゴール左上の完璧なコース。
スイス2人目 ファビアン・シェアは左右に大きく身体を動かすウナイ・シモンに気を取られ、最後はキック直前にわざと片側を空けてコースを誘導したシモンの狙い通り左下へのキックでセーブされます。
これはキーパーが心理戦に持ち込んでコースを限定した素晴らしいプレーだと思う。
イーブンに戻したスペインですがPKを見越して延長後半にペドリと交代で投入されたロドリのキックはゾマーがセーブし再びスイス有利の状況へ。
大事なところで回ってきたスイス3人目のマヌエル・アカンジはフランス戦と同じようにGKのタイミングを外そうとしますが今度は完璧に狙いを読まれてしまいこちらも失敗
スペイン4人目はポーランド戦で流れの中のPKを失敗しているジェラール・モレノ。
汚名返上のキックは左利きの彼からすれば一番の目標である右の角へ見事吸い込まれて行き両チームで続いていた連続失敗を3でストップ。
スイス4人目 ルベン・バルガスはチームの前2人がいずれも左下へのシュートを止められている事からゴール上部への強いキックを試みますが弾道が上がり過ぎてしまい痛恨の失敗。
累計スコアが2vs1となった事でここで決めれば勝利が決まる大一番のキッカーはPKの名手ミケル・オヤルサバル。
自信の程が伺い知れる右下への強く正確なキックでゾマーの裏をかいて見事これを決めきります。
ベスト8最初の試合は1vs1(PK:3vs1)でスペインの勝ち抜けが決定
動画ハイライト
選手交代
スイス
23分 in:R.バルガス out:エンボロ
81分 in:D.ソウ out:シャキリ
82分 in:ガヴラノビッチ out:セフェロビッチ
90+2分 in:ファスナハト out:ツバー
100分 in:F.シェア、エンバブ out:ザカリア、ヴィドマー
スペイン
46分 in:ダニ・オルモ out:サラビア
54分 in:G.モレノ out:モラタ
90分 in:オヤルサバル out:フェラン・トーレス
91分 in:M.ジョレンテ out:コケ
119分 in:ロドリ out:ペドリ
データ
スペインは77分のフロイラー退場後からは一方的な攻勢が続き、ポゼッション66%、パス1000本超えという結果になりましたが試合のスコアは1vs1のドロー。
今大会の彼らはゴール期待値との乖離が大きく、fbrefのデータでは5試合でxG14.5、90分辺りのxG2.54はいずれも出場チーム中トップの値ですが実際には5試合9G、90分辺り1.58Gと1試合換算では期待値から1点少ないという具合でチャンスクリエイトまでは優秀なのですがフィニッシュが伴っていません。
一方、惜しくも敗退となったスイスは何と言ってもヤン・ゾマーの活躍が光りました。
試合を通じてセーブ10回、その内9本がボックス内からのシュートで失点はボックス外からのシュートのディフレクションによるものなのでゴール期待値の上がる近距離からのシュートは全て防いだ事になります。
10 saves and a blocked penalty 🧤💪
— FOX Soccer (@FOXSoccer) July 2, 2021
They might not be moving on but Yann Sommer put on a legendary performance for Switzerland 👏👏 pic.twitter.com/8Elx8lQASS
正に伝説的なパフォーマンスと呼ぶにふさわしいプレーでした。
将来、今大会のスイス代表について思い出話をする際には必ず彼の名前が人々の口から出ることになるのは間違いない。