24チーム計46試合という世界でも屈指のタフさを要求されるSky Bet Championship。
各チーム多少の差はあれどおおよそ40試合前後を消化し、いよいよ長丁場のリーグ戦は最終盤に突入しています。
5試合を残して復帰を決めたノリッジ・シティ
そして、来シーズンに向けて栄誉と多額の報酬を受け取る事になったクラブ-つまりプレミアリーグへの昇格を決めたチームが1つ決まりました。
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— Norwich City FC (@NorwichCityFC) April 17, 2021
ホームタウンのノリッジでカナリアの繁殖が盛んに行われていた事からカナリーズ(Canaries)という愛称で親しまれているノリッジ・シティ。
近年はドイツから指導者や選手を積極的に迎え入れ、現指揮官のダニエル・ファルケはトップチームでの監督経験を持たないままドルトムントのリザーブチームから引き抜かれたという一風変わった経歴を持っています。
この改革の背景にいるのはクラブのスポーツディレクターを務めるスチュアート・ウェバー。
画面左側がスチュアート・ウェバー
ウェールズのクラブで主にイングランド下部リーグを主戦場にするレクサムでユース責任者を務めていたウェバーは2009年にリバプールに採用担当ディレクターとして引き抜かれるとQPR、ウルブスではスカウト部長を務め2015年にはハダースフィールドでフットボールディレクターに招聘されるなどイングランドのフットボール界を順調に昇り詰めてきた人物。
一昔前のノリッジと言えば工場勤務から這い上がったグラン・ホルトとノーフォークのサンティ(カソルラ)と呼称されたテクニシャンがチームの象徴で若手選手にかんしてはそれほど重用するクラブではありませんでしたが、ウェバーの改革によりアカデミーに多くの資金が投入され若手選手自体の重要性が見直されると、ジェームズ・マディソン(現レスター)、ベン・ゴッドフリー(現エバートン)、そして現在もクラブに在籍しているマックス・アーロンズとトッド・キャントウェルなど年代別代表に選出されその後プロフットボーラーとして大きく才能を開花させた選手を数多く輩出するように。
更に外部からのリクルートにおいても安価で優秀な選手を獲得しており、ティーム・プッキとエミリアーノ・ブエンディアのホットラインは2人合わせて僅か150万ユーロ(Transfermarktより)と現在の活躍を考えると破格のバーゲン価格です。
主力をどこまで引き留められるか、そしてオリヴァー・スキップのローン延長に成功するかどうかが来季の分水嶺
ヨーヨークラブ(昇降格を繰り返すクラブへの比喩表現)と揶揄されてきたカナリーズですが、回を重ねる毎にチームとしての完成度は増しており、前回プレミアリーグでプレーした19‐20シーズンはホームでマン・シティに勝利するなど攻撃力は十分な水準を兼ね備えていました。
その原動力になったのがプッキ、ブエンディア、キャントウェル、アーロンズの4人で彼らは他クラブからの関心を集めたものの、全員降格したクラブに残ってチャンピオンシップでのプレーを選択。
特にブエンディアの成長は著しく、今シーズンここまでリーグ戦34試合12ゴール14アシスト(2021年4月18日時点)と得点力が飛躍的に向上。
冬の時点で既にアーセナルの優先的補強候補として名前が挙がりましたが(彼らはブエンディアではなくレアル・マドリーからマルティン・ウーデゴールをローンで獲得)、おそらく夏の移籍市場でも多くのクラブから関心を集める事になると思うので正直引き留めは難しいミッションだと思います。
そしてアーロンズもバイエルン・ミュンヘン、トッテナム、エバートンなどが熱心にその動向を追いかけていると報道されており、クラブは3000~4000万ポンドを要求していますが世界的に見てもSBは人材不足が続いているのでこの移籍金を捻出してでも彼らが獲得に本腰を入れる可能性が十分にあります。
また、事を複雑にさせているのがトッテナムからローン中で加入直後からノリッジの主力になったディフェンシブハーフのオリヴァー・スキップ。
彼はレンタル元のトッテナムでも将来のキャプテン候補として高い期待をかけられている選手ですが、同じくアカデミー育ちのハリー・ウィンクスも満足な出場機会を得られていない状況にあり、現状で比較すると不安定なセルジュ・オーリエ、4バックにフィットできない新加入のマット・ドハーティの2人で回しているRBの方が遥かに緊急性の高いポジションである事は間違いないのでアーロンズ獲得に彼が取引の一部として含まれるような事も。
昨シーズンまでのノリッジは守備面で粗が目立ち、それに伴い自慢の攻撃力を発揮し切れない場面も多くありました。
失点数を見ていくと
18‐19(チャンピオンシップ):1試合辺り1.24失点(46試合57失点)
19-20(プレミアリーグ):1試合辺り1.97失点(38試合75失点)
20-21(チャンピオンシップ):1試合辺り0.74失点(42試合31失点)
プレミアリーグでは崩壊していた守備組織を今シーズンは大きく立て直し、同じチャンピオンシップで戦っていた2シーズン前と比較しても劇的に数字を良化させる事に成功しました。
この変化は先述のスキップ、そして昨シーズンは大半を負傷によりスカッド外で過ごしていたグラント・ハンリ―が年間を通して試合に出場出来ている事が大いに関係していると考えられます。
スキップに関してはトッテナムの監督人事にも去就が影響されると考えられ、ジョゼ・モウリーニョが留任している場合はローン延長にスムーズに動けると思いますが今シーズンの成績不振を理由に彼が解任され新たな指揮官が就任している未来も十分あり得るので現時点では何とも言い難い。
見ていても魅力的なフットボールを展開するクラブなので厳しい道のりではありますがプレミアリーグ定着を果たして欲しいですね。
フットボールのスタイルは異なりますがクラブ経営としてはバーンリーが理想のケースになります。
彼らも昇降格を繰り返す所謂エスカレータークラブでしたが今シーズンを含めてプレミア連続5シーズンと完全にリーグに定着しています。
イングランドの下部リーグには散漫な経営を繰り返し破産寸前に追い込まれているクラブも多数存在しているので、カナリーズのように中長期的視野をもって小規模ながら強いチームを作り上げているクラブが良いモデルケースになれば幸い。